鎖
ユティシアは薄暗い部屋に連れて行かれ、天井から鎖で吊るされた。男のほかにも多くの人がいて、ユティシアを睨みつけていた。
我先にとユティシアに襲い掛かろうとした者たちを、男は制す。
「待てよ、一撃で殺ってしまってたら、愚か者には罪の重さが分からねぇだろ?」
男はにやにやしながらユティシアの着ていたコートを脱がせ、傍に投げ捨てた。コートは戦闘用の丈夫な物で、剣でもうまく斬ることが難しいので、邪魔にしかならないからだ。
「さあ、始めるぞ」
その声をきっかけに、男たちはじりじりとユティシアをいたぶり始めた。
…もう、どうでも良かった。
正直、騎士団に戻ってきたらまた居場所があると思っていた。捕まったこともきっと許して貰えるかもしれないという期待があった。
だから、ディリアスの元に留まることが出来た。追い出されても元の生活に戻れば良いと、楽観視していた。
でも、違った。
分かっているつもりだった。ある程度冷たい視線を受けることも、怒りをぶつけられることも。だから、シルフィとアルヴィンに一緒に戦おうと言った。
だが、騎士団に足を踏み入れた時、本当に悟った。ああ、ここにはもう自分の味方なんていないのだと。二度と、自分を受け入れてもらえないのだと。
ユティシアは居場所を失ってしまった。存在意義をなくしてしまった。もう、魔法師として、騎士団として必要とされることもない。もう、自分はいらない。
――――誰からも必要とされなくなる恐怖。
それをユティシアは誰よりも知っていた。だから人から認めてもらおうと、人一倍努力した。立派な魔法師になれば、人に必要としてもらえると信じていたから。
ユティシアは、休むことなく戦いに身を投じた。魔法でしか、人に必要として貰えることはないと思った。魔法師としての存在意義しか自分にはないと思っていた。
ユティシアは魔法に、“狩人”という称号にすがっていた。騎士団にすがっていた。それしかなかった。
……だが今、それが崩れそうになり、ユティシアの心は壊れかけていた。
ユティシアはふと視線を上げ、小さな窓から外を見つめる。青く晴れ渡った空を見たとき、自由になりたいと思った。あらゆるものから解放されたいと思った。空は、曇りなく澄み渡り、何のしがらみもない。
騎士団という、魔法師という名の鎖。それは、ユティシアを縛り付ける。今では側妃という立場もユティシアを縛り付けるようになっていた。ユティシアを取り囲むものは、増えつづけている。ユティシアは、自らを縛る鎖に身動きがとれなくなっていた。
……………何もかも、すべて捨ててしまいたい。
そのためには、このまま死んでも良いのではないか、と思った。
一話一話が短いという意見を頂きましたが、それは私の一話の執筆にかける時間が一時間ちょっとぐらいだからです。
もっと精進いたします。




