使い魔
ユティシアが次に向かったのは騎士団“光の盾”だった。ユティシアは久しぶりに訪れた騎士団を前に立ち止まる。
「にゃぁ」
聞きなれた鳴き声を聞いてユティシアは思わず視線を落とす。
「シルフィ、アルヴィン。迎えにきてくれたの?」
ユティシアの足元に寄って来たのは二匹の猫だった。しかし、よく見ると背中に羽が生えている。シルフィ、と呼ばれた方は長い金の毛並みに翠の瞳を持つ雌猫だった。アルヴィンは短い黒の毛と、蒼の瞳を持つ雄猫。どちらも美しく、賢かった。ユティシアを何度も助けてくれた存在。
二匹はユティシアの使い魔であった。使い魔とはその名のとおり人によって使役されている魔物である。だが、ユティシア以外で使い魔を持っている者など、ほとんどいない。魔物を使い魔にするには、使役する主人は圧倒的な力を有している必要がある。魔物を使役下に置く方法は、魔物にその力を示すしかないのである。野生に生きる動物が強いものに従っているのと同じだ。
しかし、ユティシアの使い魔はそれに当てはまらない。二匹がまだ小さかった時にお腹をすかせてふらふらと彷徨っているところを、強い魔物に襲われかけたのをユティシアが助けたのがきっかけである。
ユティシアは死にかけていた二匹に、手を差し伸べた。それは一種の刷り込みのようなものだろう。
二匹は命の恩人であるユティシアにいつまでもついて来た。あっという間に成長すると、ユティシアの戦闘を手助けするようになった。二匹は強かった…上級の魔物を圧倒してしまうほどに。二匹の素早さを生かした鮮やかな戦い振りは、ユティシアも見とれてしまう。ユティシアが騎士団で称号“狩人”を持つ者としてとしてやってこれたのも、この使い魔たちのおかげである。
二匹はユティシアが騎士団で捕まった時に置いてきてしまった。ずっと気になっていたのだが、元気だったようで安心した。それに、二匹ともユティシアの魔力を感知してやって来てくれた。ずっと自分を待っていてくれたのかと思うと嬉しくもあった。
「お腹がすいたでしょう」
ユティシアは身を屈めてその美しい毛並みに触れると、魔力を分け与えた。
二匹は魔力を糧として生きているのだ。基本的に何でも食べるが、人間もその対象となるので一緒に生活し始めたときは大変だった。ユティシアが一度厳しい罰を与えたところ、二度と人は襲わなくなった。何でも食べようとする二匹に困ったユティシアが魔力を分け与えたところ気に入ったようで、それ以外のものはあまり口にしなくなった。魔物は同様に魔に属する魔法を好むのだろうか、よく分からない。
「ねえ、一緒に戦ってくれる?」
ユティシアは二匹に問う。分かった、と言うように、にゃあと鳴く。
騎士団員が罪を犯したとなれば、その国で罪を償ったとしても騎士団で厳しい罰が与えられる。騎士団では騎士団の律があるのだ。ユティシアの場合誤解だといってもいきなりディスタールの騎士団長と魔法師長に連れて行かれた状況は、さすがにまずいだろう。何らかの罰があってもおかしくは…ない。
そのまま逃亡しようかとも思ったが、これは“光の盾”全体の信用問題に関わる話だ。ユティシア一人のことではない。師匠の名にも傷がつきかねない。
ユティシアは二匹を連れて、騎士団本部の扉を開いた。