外出許可
ユティシアは自室でのんびりと外を眺めて過ごしていた。今は午前中で、一日はまだまだ終わりそうにない。
……正直、何もすることがなくて退屈している。
忙しいディリアスの元を頻繁に訪れて邪魔をするわけにはいかない。やめていた身体の鍛錬を再び始めてみたが、狭い室内ではできることも少ないのですぐに終わってしまう。魔法なんて使ったら、ディリアスに見つかって怒られてしまうので使えない。
「そうだ」
ユティシアは何か思いついたのか、部屋を出て行った。
ユティシアはディリアスのいる執務室を訪れていた。ちょうどローウェと休憩中のようだった。
「ユティか、どうした」
「外出許可を、頂きたいのです」
「行き先は?」
「城下です」
「許可できないな。危険だ」
「お城にいたってすることがありません」
ユティシアは頬を膨らませ、不満そうに言う。
「じゃあ、これを翻訳してみろ。もし出来たら行かせてやる」
先程、ローウェから渡されたものだ。いままで国交のなかった国からの文書で、文字は馴染みの無いものだった。言語に詳しい者全員にあたってみたが、理解できるものはいなかったという。ユティシアに訳せるはずがない。もとよりディリアスはユティシアを行かせるつもりはないのだ。
冗談で言ったつもりだったのだが…
「本当にいいのですか?」
そうとも知らずユティシアは文書を抱えて部屋を出て行った。
どのくらいか時間がたった後、ユティシアは数枚の紙を部屋に持って来た。その紙にはびっしりと訳が書かれていた。
「……」
王も宰相も唖然とする。
…語学が堪能だなんて、知らなかった。
「ところで、書状の内容ですが…」
「…王女様を娶って欲しい、と」
ユティシアは伺うようにディリアスに視線を向ける。
ローウェは唖然とした。妃であるユティシアに何てものを翻訳させているのだ。王からの酷い仕打ちに、ユティシアは相当傷ついたことだろう。
「すまないことをした」
ディリアスはユティシアを抱きしめ、謝った。
「……娶っては如何です?この国は、最近大きく発展してきています。交易が盛んになれば、相当な利益が見込めるかと。私はお受けすることを推奨いたしますが」
ユティシアは腕の中からディリアスの顔を見上げて言った。
ローウェは頭を抱えたくなった。自分の夫に結婚を勧めるなんて、どうかしている。それでは王の寵はいらない、と言っているようなものだ。
「ユティシア様は、陛下の事がお好きなのでは?」
「もちろんです。宰相殿のことも、好きですよ」
…ディリアスは撃沈していた。当分、再起不能だろう。
「では、行って参ります」
ユティシアは嬉しそうに駆けて行った。
ローウェはディリアスに声をかける。
「陛下、どうするつもりですか。ユティシア様、内心怒っていらっしゃるのでは?」
「迎えに行って来る」
そう言うと、ディリアスは執務室を慌てて出て行った。