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頑なな心

ディリアスは先ほどのユティシアの言葉を思い返していた。

「本当は私のこと、認めてらっしゃる方なんていないのでしょう」

そう言って苦笑する彼女の瞳は、すべて知っている、と語っていた。彼女はとても鈍いから、きっと気付いていないと思っていたのに。


………だが、それは違った。

彼女は状況をすべて把握した上で、ディリアスに悟らせなかった。

彼女は自身の立場の危うさを知っていたからこそ、誰にも近付こうとしなかった。距離を置いて接しようとした。


彼女は初めのようにディリアスに反抗的な態度をとることはなくなった。やけに従順すぎるので、おかしいとは思っていたが。自分を認めてくれたのかとも思ったが、彼女は妃と言う立場ゆえに王であるディリアスに逆らえないだけだったのだ。今のユティシアは妃と言う立場に囚われすぎている。


それは、悲しいことのように思えた。最初に出会ったときのように、彼女の瞳は真っ直ぐにディリアスを見てくれていないから。王という地位を通してしかディリアスを見ることが出来ていないから。


おそらく彼女は王妃になったとしても、事務的に役割を果たしてくれるだろう。だが、それでは彼女にとって王妃とは、彼女の心を絡め取る存在でしかなくなってしまう。責任という名の重荷でしかなくなってしまう。何度、彼女を手放した方がいいのではないかと悩んだだろうか。


―――だからディリアスはユティシアを王妃として正式に発表することを控えたのだ。ディリアスが強制するのではなく、できれば彼女に自分で選んで欲しかった。


もう一つ、彼女の人と接する時の態度は他にも理由があるように思えた。彼女は母国で負の感情に晒されすぎた。周囲の自身に対する悪感情に苛まれ、人の温かさを拒んでいるように見える。


彼女は色んなものに押しつぶされそうになっている。自分という存在を押し殺し、感情を吐き出す先もない。溜め込まれた感情は自身の中で荒れ狂い、その心を蝕んでいく。

気を許すことのできる相手もおらず、王宮に放り込まれた彼女の心の均衡は、今にも崩れてしまいそうに見える。彼女は自身がどれほど危ういか、気付いていないだろう。


―――何か、きっかけが欲しいと思った。

彼女の心に近付くきっかけが、彼女の心を開くきっかけが、欲しい。

二人の間には、寄り添うには遠すぎるほどの距離が開いている。少しでもその距離を縮めるには、何のしがらみもない環境が必要だった。


ディリアスにはユティシアが必要だ。もう、手放せなくなっているのが自分で分かる。だから、彼女に共に歩んで欲しいと思うのだ。望んでここにいる、と言って欲しいのだ。




金の瞳は、まだ咲かない華をじっと見つめる。



無垢な白銀の蕾はすべてを拒むように頑なに閉じたまま、開かない。


それが見事に咲き誇る瞬間を今か今かと待ち望みながら、優しく見守っている。


美しい華を咲かせ、人々を魅了するのはいつなのか―――。



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