側妃の立場
ローウェとゼイルはユティシアを交えて再びお喋りを始める。書類と格闘しているディリアスが仕事をしろ、と言っているが、二人とも構わず喋り続けている。
「それにしても、王妃様はすごいですね。お美しいし、魔法も使える」
「美しいなどと言われたのは宰相様と陛下が初めてです」
ローウェの言葉に目を丸くする。容姿で褒められたことなど皆無だ。
ゼイルとローウェはそちらの事実に驚いた。
「またまた謙遜しちゃってぇ」
「本当に素敵な方だと思いますよ」
「では、最近そこの机に大量に積まれている書類は何ですか?」
ユティシアはディリアスの前に山積みになっている書類に目をやる。
政務をこなしていたディリアスは、ペンを持っていた手をぴたり、と止めた。後の二人も固まっている。…気付かれていたのか。
書類とは、ユティシアの王妃即位反対の意見書のことだ。
「本当は私のこと、認めてらっしゃる方なんていないのでしょう」
ユティシアは苦笑する。
ディリアスたちがいくらユティシアを王妃と呼ぼうとも、ユティシアは正式に王妃の位についているわけではない。ディリアスはまだユティシアを王妃として公表していない。
順当に行けば側妃であるユティシアが正妃になるはずだが、ユティシアの立場があまりにも悪いため、貴族から反対する声は多い。実際、ディリアスには貴族の令嬢との見合いを勧める手紙が山のように来ている。全部突っぱねられているようだが。
ユティシアはもう王女という立場を失っている。利用価値がなくなったにも関わらず、まだ国王のそばにいる方がおかしいと思う。
さらに、ユティシアの評判は悪い。母国での評判に加え、この国でも悪評が増えている。最近では、城を逃げ出したことが王に背く行為ではなかったか、などとも言われている。
おそらく貴族の者達は、国王がユティシアを王妃にするかもしれない…などとは考えもしなかったことだろう。いや、ずっと王宮にいなかった側妃の存在自体忘れ去っていたに違いない。だからこそ、今ユティシアが王妃になる可能性が出てきて大騒ぎしている。
側妃としてのユティシアは、王宮内での立場が驚くほど低い。
ディリアスがユティシアを傍に置くことがどういうことか理解しているからこそ、ディリアスとの距離を縮めることはなかった。
「でも、私達は貴方のことを認めていますよ」
ですから、とローウェは続けた。
「宰相様…ではなく、もっと気軽に呼んでくれて構いませんよ」
「あっ、ローウェ抜け駆け~。俺も、ゼイルって呼んで」
ユティシアは困ったような笑みを浮かべた。
「…俺のことも、名前で呼んでいいぞ」
ディリアスも突然会話に入ってくる。
「陛下が…一番無理です」
正直ユティシアはどうすれば良いのか分からない。これ以上三人と近付く必要もないし、そうする訳にはいかないと思う。このままそばにいて、彼らの立場が悪くなるのは避けたい。
―――それなのに、彼らはユティシアに近付こうとする。ユティシアは、それがどうしてなのかよく分からない。
…でも、三人が作り出してくれる雰囲気は心地良くて。もう少し一緒にいても良いのではないか、と時々思ってしまう。




