噂の真相
ローウェとゼイルはディリアスのいない執務室で声を潜めて話していた。
「ユティシアちゃんて、ディリアスが言うほどの容姿じゃないよな」
「私も思っておりました。陛下からユティシア様はとてもお美しいと伺いましたが…いえ、陛下が気に入っているようですから何も言うつもりはないのですけれど」
「『化け物』って噂ほどじゃないけどな」
「そうですね。目立たない感じの見た目ですよね」
「ん~、可愛らしいな、とは思うけど」
「そうですね。瞳の色などは美しいと思いましたが」
「もしかして、あいつの趣味って変わってるのか?」
「美しい女性に飽きたとか?」
「二人とも随分と失礼なことを言ってくれるものだな…」
二人は嫌な予感がして振り向くと…いつの間にか戻ってきたディリアスがいた。
「つまり、お前達はユティシアの容姿が俺が言ったのと違う…と言いたいわけだな」
ユティシアはディリアス以外に元の容姿を見せていなかった。ディリアスがその容姿であまり人目に触れるなと言うと、ユティシアは再び変化の魔法をかけて生活していた。
ローウェとゼイルが初対面でユティシアの容姿について触れなかったのも、訓練所という人の集まるところで騒がれなかったのも、あまりにも平凡な…いや、地味と言ったほうが良いくらいの容姿だったからだ。
顔はいたって平凡で、短い銀の髪はくすんで美しいとは言いがたいし、水色の瞳が綺麗だな…と思える程度だった。
「やはり、美的感覚の問題ですか…」
ローウェが勝手に納得している。隣でゼイルもうんうん、と頷いている。
ディリアスの中でぷつん、と何かが切れた。
「ユティ、こいつらに元の姿を見せてやれ」
ちょうど部屋に入って来たユティシアに命じる。ここまで言われて黙っているわけにはいかない。
「………」
「………」
「………」
「…驚いただろう?」
「…すごいなぁ」
「…化け物というより、人外の容姿ですね」
ユティシアは何となく失礼なことを言われている気がして、頬を膨らませる。
「この容姿は目に毒ですね」
「化け物という噂は何だったのだろうな」
「あれは…容姿の事ではないですよ」
ユティシアはディリアスの言葉に苦笑する。
ユティシアは幼い頃、自分の内にある膨大な量の魔力を制御することが出来なかった。手がつけられないほどに暴走する魔力を、人々は恐れて『化け物』と呼ぶようになった。仕えていた侍女は皆、ユティシアの侍女を辞めさせて貰えるよう国王に泣いて懇願した。
ある日、ユティシアが魔力を暴走させた時、傍にいた母が巻き込まれて怪我をした。母を溺愛していた国王はその出来事を聞き激昂し、ユティシアを離宮に閉じ込めた。
――それ以来、この国に嫁ぐことになるまで離宮から出ることは決してなかった。
「昔の俺はとんでもない奴ををよく妻にしようと思ったものだな」
ユティシアをからかおうと思ったのだが、ユティシアはそのとおりですね、と素直に頷いた。
「後悔しているなら、今からでも遅くはないです」
ユティシアは好機とばかりに言う。自分を王妃にすることについて考え直したのなら、とても良いことだ。
「私より聡明でお綺麗な王妃にふさわしい女性はたくさんいますよ」
「お前より綺麗な…というと難しいな」
ディリアスはユティシアを見て本気で悩んだ。