試合終了
二人の壮絶な戦いは意外な形で幕を下ろす。
剣を打ち合っている際にディリアスの耐性強化の魔法が切れた。ゼイルがその好機を逃すはずもなく剣を振るう。
剣を交わしたその時――二人の剣が同時に折れた。
ゼイルの剣は先ほどの無茶な扱いで亀裂が入っていたようで、刃は砕けて地面に落ちた。
二人はもう一方の剣の行方を目で追った。
――――その先にいたのは、二人の試合を見ていたユティシアだった。
「ユティシア!」
ディリアスが叫ぶ。身体を動かしたことにより熱を持っていた身体は、一気に冷める。
折れた剣先はくるくると回りながらユティシアに向かって飛んでいく。練習用の剣と言えども、人を傷付けることは可能だ。
周りにユティシアを守ることのできる騎士は誰もおらず、皆ただ成り行きを見守るしかなかった。ゼイルは魔法を使おうと試みるが、詠唱に時間がかかり間に合わない。ディリアスは何も出来ずに歯噛みする。
そのとき、隣にいたローウェが反射的にユティシアを庇い、抱え込んだ。
…幸い剣は二人の頭上を通過し、皆ほっと胸を撫で下ろした。
しかし―――――――
「ローウェ、後ろ!!」
ゼイルの焦ったような叫び声に気付いたローウェが後ろを振り返る。壁に当たった剣が跳ね返り、再びユティシアたちに襲いかかっていた。
今度こそダメだ、と皆が思った。ユティシアだけでも守ろうとローウェはさらに腕の力を強め、身体を伏せた。
だが、いつまでたっても剣は飛んでこなかった。ローウェが閉じていた目をゆっくり開けると、魔法によって築かれた半球型の壁に二人は覆われていた。
観客はしん――と静まり返っている。何が起こったのか、誰も把握できていないようだった。
「ユティ、無事か?」
駆けつけて来たディリアスが肩で息をしながら問う。
「ええ、二人とも」
座り込んだままのユティシアが、ローウェ振り返りながら答えを返す。ローウェは立ち上がって、服についた埃を手で払っている。
いつの間にか静まり返っていた観客が騒ぎ出し、辺りは騒然となっていた。
「今日はこれで失礼させてもらう」
ディリアスはユティシアを抱き上げると、ローウェと共に訓練所を後にした。