試合開始
試合を見る人は意外に多く、ほとんどの騎士たちが修練を止めて王と騎士団長の試合に見入っている。どこからか噂を聞きつけた貴族のご令嬢方や侍女達も集まって、二人に黄色い歓声を上げている。
ゼイルが一歩踏み出すと、ディリアスも動く。
互いに一気に距離を詰めるとキン、と刃の合わさる音がする。
ゼイルが離れ際に魔法を放ち、ディリアスは身体をねじって何とかかわす。
均衡を崩したディリアスにゼイルの剣撃が襲い掛かる。
…やはり、魔法を使われるとディリアスの形勢が一気に不利になってしまうようだ。しかし、ディリアスは卓越した剣技と優れた身体能力で厳しい状況を逆転させようと試みる。
ディリアスは攻撃を全て防ぎきり、ゼイルに蹴りを放つ。ゼイルは避け損ねて思いっきりその蹴りを受ける。
二人は試合場の中を縦横無尽に駆け、何度も激しく刃を交わした。
「なに隠してんの~?さっさとバラしちゃいなよ」
ゼイルの挑発を、ディリアスは黙殺する。
「じゃあ、こっちから行かせて貰うぜ」
ゼイルは詠唱を始める。それは、ゼイルの最も得意とする上位魔法だった。ゼイルの周りで炎が膨れ上がってゆく。
ディリアスは舌打ちする。…さすがに炎に囲まれたゼイルを攻撃することは敵わない。
ゼイルは余裕の表情をディリアスに向ける。しかし、その表情はすぐに別のものに変わる。
…様子がおかしい。
いつものディリアスならば魔法に備えて距離を置くはずだ。なのにディリアスはある程度距離をとると、迎え撃とうとするかのように、剣を構えている。
「早く逃げないと、火傷するぜ!!」
詠唱を終えたゼイルはディリアスに向かって魔法を放つ。ゼイルの周りの炎はいくつもの火球に分かれ、あらゆる方向からディリアスを襲った。
轟音が響きディリアスの周りは煙に包まれる。
「へっ、だから言ったのに…」
煙の中の人物に勝ち誇ったような笑みを向けた。
だが、煙の中に立つ影を見ると――その顔は一変した。
「な、に…」
煙が引いた会場の一角から姿を現したのは、先ほど倒したはずの男だった。炎に包まれ大火傷を負っているどころか、身体には傷一つついていない。
「これは、使えるな」
ディリアスは剣を見つめ、感嘆の言葉をもらす。剣は水を纏い、輝きを放つ。ディリアスは初めてにもかかわらず、力を制御し剣をうまく操っていた。
「反撃開始だ」
ディリアスは笑みを浮かべ、今だ呆気にとられているゼイルに切りかかる。ゼイルがはっと気付いて応戦する。
刃がディリアスの剣に触れた瞬間――ゼイルの剣に水が纏わり付き、剣を拘束する。
「何だそれは…!?」
「秘密兵器だ」
にやりと笑って応える。ゼイルの剣はとらわれたまま、動かない。
「これで終わりだ」
ディリアスは静かに剣を振り上げた。
「なめんなよ」
次の瞬間――水の拘束がゼイルの渾身の力により解かれる。ゼイルはディリアスに向けて再び切りかかった。