試合の前に
「おっ、やっと来たか」
ディリアスに連れられユティシアが宰相と共に訪れたのは訓練所だった。ゼイルは準備万端、といった様子でディリアスを待っていた。
ユティシアも元騎士であるし、戦いたい気もしたが、ドレスでは無理だろう。
…ディリアスがゼイルに勝つことは少ないらしい。剣技のみならディリアスが勝つが、ゼイルは魔法も使うことが出来るようで、中距離戦に持ち込まれると敵わないらしい。
魔眼を使えば魔法の構成など容易に分かるのだが、それでは卑怯だしつまらない、と言って使わないらしい。
ユティシアもゼイルと同じ戦法を使う。剣と魔法を織り交ぜた戦法は、自分以外で使う者がいるとは初めて聞いた。たいてい、どちらかが疎かになり隙が生まれるため、使う者はいない。使うとしても魔法を補助として使う程度だろう。
「ユティシア、頼む」
ディリアスは剣をユティシアに手渡す。
――渡されたのは、下級騎士が使うようなあまり上等でない剣だった。二人は、いつもこれを使って試合を行うらしい。二人の戦いはあまりにも激しいので、切れ味の良い物を使うと相手を傷付けてしまう危険性があるからだ。
ユティシアはその剣を鞘から抜き、刃の部分に手をかざした。
「相手が得意とする魔法は何でしょう」
「火炎系の魔法だ」
「では…」
詠唱を始める。一瞬、剣が淡い光を帯びて、再び元の剣に戻る。剣が水の属性を帯び、魔法と物理攻撃に対する耐久性が増す。耐久性の強化は、ユティシアが属性付与の魔法を改良した結果もたらされたものだった。
「どうぞ。魔法は一時的なものですので、お忘れなく」
「礼を言う」
ディリアスは剣を受け取ると身を翻し、ゼイルの方へと進み出た。ゼイルもディリアスと同じ練習用の剣を持って立っている。
「集まってこそこそ何してたの。作戦会議~?」
ゼイルがにやにやと笑みを浮かべる。
「秘密だ。試合が始まって驚くがいい」
二人は真剣な表情で向き合い――剣を構えた。




