剣
騎士団長のゼイルが抜けたことにより、三人との歓談は幕を下ろす。
「じゃあ、そろそろ俺訓練に戻るわ。じゃあへーか、後でな」
「ああ、今日こそ勝たせてもらうぞ」
ゼイルは手をひらひらと振りながら部屋を出て行った。
会話の意味に首を傾げていると、宰相が教えてくれた。
「執務後に剣の試合を約束しているのですよ」
…そういえば、ディリアスは剣が使えたのだった。彼の手を見たとき、それは武人の手をしていた。手の皮は厚く、マメが出来ていた。
「他国でも“剣王”とまで言われるほどの腕前で、剣技でかなう者は国内にはいないと言われているんですよ」
「まあ、“剣聖”とまで言われるアストゥールには及ばないと思うが」
……嫌な名前を聞いた。
アストゥールといえばユティシアの師匠の名前である。“剣聖”だなんて呼び名は師匠には正直もったいないと思う。女性関係は酷いし金遣いは荒いし、人々の憧れの的となっている騎士とは思えない。剣の腕と顔しか取り柄がないような男だ。
「あの人は特別ですよ。身体能力はもはや人間じゃないです。剣に属性付与をしているとはいえ、剣だけで魔物に対してあそこまで戦える人はいません」
剣だけでは普通魔物を相手にすることが難しい。剣のみでは押し切ることが出来ないからだ。つまり、人の脆弱な力による物理攻撃では、魔物にあまり攻撃が効かないのだ。そのため、討伐には剣士と共に魔法を使える者が必ず駆り出される。
魔法を使えないアストゥールは、対策として剣に属性付与を行った。属性付与とは魔法のいずれかの属性、つまり自然の力をを与えることだ。属性付与によって剣は魔法の力を得て、魔物に対する剣の攻撃力は格段に上がった。
「…属性付与の剣か。それほど優れているなら、一度は使ってみたいものだな」
「使ってみますか?出来ますよ」
ユティシアの思わぬ提案にディリアスは目を丸くする。
「あるのか?その…属性付与の剣が」
「ありません。でも、作ることは可能です。すぐにでも作れますよ」
属性付与の剣を使えば、魔法師の使う魔法にも対抗できる。たいていの場合、魔法師に勝つには詠唱の最中を狙うしかないが、この剣をうまく扱うことが出来れば…魔法を跳ね返すことも可能である。
「面白そうだ。ゼイルとの試合で使ってみよう」
ディリアスは楽しそうに、笑みを浮かべた。