F003
どうも、俺です。
なんか愕然としている美女に新世界に行くとかいう話を売りつけられて、買いました。
多分そういう状況です。
***
「ボッチ過ぎた上に、サブカルに関心無いとか……マジなの?」
なんかえらく侮辱されてる気がするが、不穏な単語がいまいち理解できない。あと、それは記憶に関する内容だから歪みになると思う。理解できないからセーフか?
「記憶が無いので分からない。というか、このリストの単語の説明を全部聞く気にはさすがになれない」
リストされた項目が多すぎる。めんどい。最低限生きられそうならぶっちゃけどうでもいいから、選んでもらおう。
「うーーーーん」
「ちょうどよさそうなのを見繕ってくれ」
「いやいや、それは無理。歪みになるじゃない」
さらっと消した記憶に関わることで俺を侮辱したくせに、よく言う。
「じゃあ、なんか乱数出せるもの用意してくれ。それで決めるわ、番号振ってあるし」
「うーーーん、それもありといえば無いよりのありだけど……」
「率直に言って、めんどいんだよ」
「うわぁ。割と重大なことなのにそのスタンスなのね」
「どうせ選んだことも忘れるからな」
「……分かった。これ使って」
と美女がテーブル上を滑らせてきた電卓みたいな機械を受け取る。
「その青いボタンを押すと選択肢の数内で乱数が出るわ」
「わかった」
ぽちっとな。
「この数字のやつもらうよ」
電卓みたいな機械を見せて選択を告げる。喫茶店とか電卓などの単語はまだ覚えていたようだ。
「わかった」
美女は電卓のようなものを俺から受け取り、
「場所を移しましょう」
と立ち上がる。
俺は紅茶を飲み干し……なぜか減らないので2口ほど飲み込んでから美女の後に続いた。
***
喫茶店を出て街路を歩いていたら、いつのまにかがらっと景色が変わっていた。街中にいたのに、違和感なく突然山奥にいた感じだった。
「そこ」
美女が指さしたのは直径30メートルほどのひらけた場所。周囲は木々に囲まれている。
そして、先客がいた。何かもめてるようだが、なぜか声は聞こえない。
「待ちましょう」
美女は事務的にそう言い、そのままの姿勢で待ちに入るようだ。
もめてる二人は、片方は美女とよく似た感じ。もう1人は若い男だと思われる。せいぜい10メートルほどしか離れてないのに、印象しか分からない。
「質問しても無駄」
俺が美女に向き直ったとほぼ同時にそう言われたので、黙っておく。
しばらく山中らしい場所でもめごとを眺めた。
何分か経過した気がする。
やがて、徐に女のほうが腕を上げて何かを叫び、男のほうが光の柱に包まれて消えた。
女は何かを確認するように男がいた場所を調べ、それが終わるとこちらを無視してその場で消失する。
「空いた。そこに立って」
美女が男が光の柱に包まれた場所を指さす。
「わかった」
俺は男がいた場所まで歩き、美女に向き直る。
無表情な美女がこっちを見ている。
「転送開始」
美女は右腕を高く掲げて事務的に呟く。
「……」
俺としても、もう何かを言う必要はなかった。
徐々に進む酩酊に似た感じに襲われ、唐突に俺の意識は途絶えた。