F001
ただ。
ただ、血が流れていた。
それと、燃えていた。
あらゆるものが吹き飛び、塵になり、燃えていた。
その状況に、保身以外の何も感じらない頃が俺にもあった。
ぬるっとして、生きてるのか死んでるのか分からない曖昧な頃が、確かにあった。
***
曖昧な頃は過去形で、超音速の攻撃が飛び交う命の賭け場で、俺は走った。
全てが消えていった。俺もいつか消える。
世界はよりシンプルになった。
つまり、生きるか死ぬかしか、無い。
***
西暦20XX年。
地球全土は燃えていた。
最終的に、グローバリズム独裁vsその他になった。
ある宗教を隠れ蓑にした世界支配勢力vsその他だ。
大虐殺が双方で行われた。
止める手段は、最早無い。それほどまでに、不信感が世界を覆っていた。
行きつくところまで行くしかないほどまでに、世界は加熱していた。
***
「やっと……届いた」
1人の兵士が呟く。
兵士の眼前には、無様な姿勢で狼狽える「陰の権力者」という構図。
「今すぐ儂のほうに付けば、どんな望みでも叶えるぞ!」
望み。
兵士には、既に希望など無かった。
家族も、親類も、最愛の人も、友人すら。
もう、いない。何もないのだ。
こいつらが殺したのだ。
だから、ケリをつけなければならない。
ケリをつけなければ、人類はこの先に進めない。
だが。
兵士は躊躇してしまう。
非武装の敵対行動不可能に見える存在を一方的に殺すことに、躊躇してしまう。
殺すか殺されるか。
その状況でしか、この兵士はこれまでトリガーを絞れなかった。
だが。こいつは黒幕の最後の一人である、と己を鼓舞する。
ゆえに。
「じゃあな」
呟いて兵士は構えた自動小銃のトリガーを絞ろうとした時。
ちっぽけな轟音。
陰の権力者を守るステルス・ドローンから小口径軽量高速弾が射出された音だった。
それはつまり、高速弾が兵士の胸部を貫き、侵襲後は回転し、残ったパワーで兵士の身体内を破壊しまくる。
兵士は自動小銃のトリガーを引き絞る力を奪われ、倒れる。
分かっていた気がする。
暴力をどう正当化しようと、やはり戦後日本の洗脳を脱する事が出来なかった自分は、どこかで目的を達成できずに終わるだろうと。
アヒャヒャ笑いをする陰の権力者の最後の一人の侮蔑を聞きながら、兵士の意識は、そのまま闇に呑まれた。
***
「こんなつまんない魂、さっさとエコロジーするべきだよ。専守防衛とか生きることなめてんの? ってやつよ」
「流行語に流されると、どんどん言葉の本質が失われて困ったことになりますよ。あと専守防衛ってのは矛盾した言葉なんで引用したら品格を下げますよ」
「いや、そんなことどうでもいいし。うちカミサマだしぃ」
「あなたが管理する世界がつまらないものになり果てるのは、そういうところのせいなんですよ」
「うぐぅ。わかってるよ、うちカミサマだしぃ」
「唯一神とかいう中二病案件をさらっと落とすから、あの世界は滅亡するしかなくなったことを悔いてないとでも?」
「ジョークのつもりだったんだけどねぇ、やっぱ上位サルには誤解されちった、テヘペロ」
「はぁ……。ともかく、この魂は私の管轄で新世界に送ります。異論は認めません」
「うち神なのに、なんで勝手に決められてるのか理不尽案件」
「あん?」
「うぇっ、……許可します。だから殴らないで、お願いっ!」
ドゲシッ。
「命の本質に近い境地に至った魂は稀なんですよ。では、失礼仕ります、信楽」
「痛いよ~~痛いよ~~『有能な部下』に蹴られて痛いなりよーぴえん☆」