第74話 : 監視者を逆に観察してみたら、案外かわいかった件☆
ふふふ〜、ずっと私を見てる子がいたから、こっそりこっちから観察してみたの♪
そしたらね、目が合った瞬間、顔まっかにして逃げてっちゃったんだけど!?☆
観察って、されるよりする方がドキドキするよね〜!
今日のルネアは、朝から上機嫌だった。
その理由はとってもシンプル。
また――“監視されてる”からである。
(ふふん、今日の子はなかなか粘り強いね〜☆)
校舎の廊下を歩くたびに、背後からわずかな魔力の揺れがついてくる。
普通の人なら気づかないレベルの感覚。でも、ルネアの感覚はそれをはるかに超えていた。
(ずっと見てくれてるのはうれしいけど……そろそろ、こっちから仕掛けてもいいかな?)
彼女はくるりと振り向きそうになりながらも、それをぐっと堪えた。
タイミングはまだ。
せっかくだから、相手が「バレていない」と思い込んでいる状態で仕留めたい。
(さて、かわいい監視くんの観察、始めましょうか♪)
ルネアは足を止め、空き教室のドアを開けて中へ入る。
誰もいないその空間に、ふわりと魔力を漂わせた。
ドアは半開きのまま。あえてそうしておく。
(このくらい、分かりやすい罠でも引っかかってくれるかな?)
……数秒後。案の定、影が現れた。
「……そこっ!」
背後の気配が部屋に踏み入れた瞬間、ルネアが振り返り、指をピタリと突きつけた。
「ひゃっ……!?」
予想以上に素直な反応に、思わず笑いそうになる。
背が小さめで、顔立ちはまだ幼い。どうやら新人のようだ。
「こんにちは〜。今日の観察担当さん、けっこう分かりやすかったよ?」
「い、いえっ! 違うんです、私は……その、ただの……っ!」
「ただの……なに? 偶然そこにいた〜とか、通りかかっただけ〜とか、言っちゃう?」
「うっ……」
あまりの圧に、少年は後ずさりした。
ルネアは一歩、二歩と距離を詰める。
その笑顔はとてもやさしくて、でも逃げ場を完全に封じる“捕食者”のようだった。
「うんうん、分かるよ。任務なんだよね? 上から言われて、断れなかったんでしょ?」
「……っ」
「でもさ〜、観察って、されるよりする方がドキドキしない?
私、こっちから見てる方がよっぽど楽しいんだけど♪」
彼女はにっこりと笑いながら、少年の胸元に視線を向ける。
そこには、魔導石がぶら下がっていた。情報記録用の最新型だ。
「へぇ〜、けっこういいやつ使ってるね?
これって、リアルタイムで本部に転送するやつでしょ? でも……その前に——」
ルネアの指先が光る。
「ぽんっ☆」
魔力が弾けるように走り、魔導石が淡く光ったかと思えば、次の瞬間――
「っ……!」
小さく“カチッ”という音とともに、魔導石の外殻が割れ、内部記録がすべて消滅した。
少年は驚き、そして呆然としたまま立ち尽くしていた。
「これで、おあいこってことで♪」
ルネアは肩をすくめてウインクする。
「データ、こっちから見せてもいいけど……たぶん、びっくりすると思うよ?
だから、まだ“ナイショ”にしておいた方がいいと思うな〜☆」
彼女はそう言い残して、ふわりと背を向けた。
スカートを揺らしながら、軽い足取りで廊下へ出る。
そして去り際に、くるりともう一度だけ振り返った。
「それとね――靴、制服に合ってないよ? 魔導局の支給品は、結構目立つんだから♪」
顔を真っ赤にしてうつむく少年。
彼にとって、それは生涯忘れられない“最初の失敗”だった。
観察されるって、なんかこう……くすぐったいよねっ☆
でもこっちから仕掛けると、あんな反応されちゃって……うん、クセになりそう♪
次回、「ティアラと一緒に、謎の遺跡を見つけちゃった件☆」でお楽しみに〜!




