第73話 : 正体バレかけたけど、あえてごまかす件☆
やばいやばい、ついに“上の人”が動き出したって噂を聞いちゃったんだけど!?
……って、マジで私の正体バレかけてない?
でもだいじょ〜ぶ♪ ここからが私の“本気のごまかしタイム”だからねっ☆
その日、教室の空気はいつもとどこか違っていた。
ざわめきもない。静かで、妙に重い。
(うわ……なんか、いや〜な空気……)
ルネアは頬杖をつきながら、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
けれど、そんな彼女の気配を断ち切るように、静かに教室の扉が開いた。
「王国魔導局・特別調査官、ジル・ファリオ。……ルネアさん、少々お時間をいただきたい」
入ってきたのは、年若いが隙のない雰囲気をまとった男だった。
黒いローブに金の紋章、無駄のない動き、そして強い意志の宿る目。
生徒たちの間に、一瞬で緊張が走った。
(……おっと、これは本格的にマズいやつ来ちゃった?)
ルネアはゆるりと立ち上がり、あくまでにこやかに応じる。
「は〜い、なんでしょう? お昼にパンを3個食べたことなら、ちゃんと反省してますよ〜?」
「いえ、昼食の件ではありません」
「え、じゃあ廊下でスカートで風船作って遊んでた件……?」
「それも違います」
(うわ〜……この人、笑わないタイプだ……)
ジルの視線は、ルネアを値踏みするように静かだ。
彼女がふざければふざけるほど、逆に何かを確信していくような、そんな目だった。
「最近、あなたの魔力波形、行動記録、校内での痕跡が異常に増加しています。
……明らかに通常の精霊や人間とは異なる反応です」
「え〜、そんな大げさな〜。私、ただのふわふわ精霊(仮)だよ?」
「あなたは、本当に“ただの”存在なのですか?」
その問いに、教室内の空気が一段と冷え込んだ気がした。
けれど、ルネアはひとつも表情を崩さず、くるりと踵を返して窓際へ。
差し込む陽の光が彼女の髪に反射し、銀糸のようにきらめいた。
「私ね、よく分かんないんだ、自分が何者かって。
昔のことは、あんまり覚えてないし。精霊っぽいけど、そうじゃない気もするし」
彼女の目がすっと細くなる。
「でもさ――どっちでもよくない?」
その瞬間、ふわりと教室内の空気が揺れた。
まるで重力が一瞬だけ“反転”したかのような、異質な感覚。
風もないのに、紙がめくれ、光が揺らぎ、そして……彼女の体から、“定義不能”な波が広がった。
ジルの眉が跳ね上がる。
「……この反応……精霊波とも、人間のマナとも違う……!?」
「へへっ、やだな〜、またバグっちゃったかも☆」
そう言ってルネアは、ぱちんっと手を叩いた。
「はい! そろそろバイバイの時間です♪」
一瞬、目を閉じたかと思うと――次の瞬間、彼女は“窓の外”に立っていた。
(まさか、教室内から直接瞬間転位……!?)
風を受けながら笑うルネア。スカートがふわりと舞う。
「またね〜♪ 今度はもっと混乱させてあげるからっ☆」
言い残すと、彼女はそのまま空間に“溶ける”ように消えていった。
ジルはしばらく動けなかった。
教室の空気が、まだ彼女の魔力を微かに残していたからだ。
そして、そっと呟いた。
「……対象、交渉不能。正体、定義不能。接触、要再検討……」
それはすぐに、本局に送られた。
「……彼女は、本当に“遊んでいるだけ”なのか……」
いや〜、マジでバレるかと思った〜!
でもギリギリセーフ!さすが私っ☆
ってことで、次回は「逆にこっちが調べる側に回ってみた件☆」をお楽しみに〜♪




