第53話:ティアラと秘密の放課後☆少しだけ、心が近づいた気がした
放課後って、自由な時間だよね〜。
好きなことして、好きな人と話して、ちょっとだけ現実を忘れて。
──そんな時間を、一緒に過ごせる相手ができたって、ちょっとだけ嬉しいかも。
「ルネア、ちょっと寄り道していかない?」
ティアラがそんなことを言ってきたのは、授業が終わった帰り道だった。
「ん? どこ行くの?」
「ふふ、秘密♪ でも、すっごく綺麗な場所だから」
彼女に誘われるまま、私は学園の裏手にある小道を歩いていく。
ふわふわした風が、制服の裾を揺らした。
途中で見かけた猫に、ふたりして小さく笑って──そんな瞬間がなんだか心地よかった。
「……うわぁ、ここ……」
開けた丘の上。
遠くに王都が見渡せて、夕陽がすっごく綺麗に染めてる。
雲の切れ間から、オレンジ色の光が差し込み、風に揺れる草が金色にきらめいていた。
「でしょ? 私、ここでよくひとりでお弁当食べたりしてたの」
「ふ〜ん、でも今日からはふたりだね☆」
「……ふたり、か」
ティアラはびっくりした顔をして、すぐに笑ってくれた。
──それだけで、なんかあったかい。
「ねぇ、ルネアって……時々、寂しそうな顔するよね」
「……え?」
「強いし、明るいけど……たまに、誰にも見せない顔してる」
私は答えなかった。なんて返したらいいのか、ちょっと分からなかったから。
でも、ティアラの言葉は刺さらなかった。むしろ、ふわっと包まれた感じ。
「でも、私にはそういうの……隠さなくていいよ」
「……じゃあ、ティアラも。今度はそっちの話、聞かせてね」
「うん。実はね……私、家ではけっこう大人しくしてる方なんだよ」
「え〜!? こんなにハキハキしてるのに?」
「学園では、ちょっと頑張ってるだけかも……」
そんな話をしながら、私は気づいた。
この子と話してると、なんか「らしく」いられる。
無理にテンション上げなくてもいいし、気を使いすぎなくても大丈夫って思える。
「ルネアは……なんていうか、“不思議”だね」
「それ、褒めてる?」
「うん。私、ルネアみたいな子、初めて」
「私も、ティアラみたいなの……初めてかも」
「え? それ、いい意味?」
「もちろん☆」
彼女の笑顔を見てると、心の奥がくすぐったくなる。
私はこの世界に来てからずっと、こういう時間が欲しかったのかもしれない。
秘密の場所、秘密の会話、秘密の時間。
こういうの、悪くないかもね。
明日もまた、ティアラと一緒にいられたら──それだけで、少しだけ安心できそう☆




