◎18万PVのお礼SS 『姉弟の冬籠り 』
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久しぶりの更新です~!
よろしくお願いいたします。
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「くっちゅん……んぁ…」
真っ赤な鼻の頭をゴシゴシ手で擦り、レイチェルは一人毛布に包まっていた。
もこもこふわふわの毛布は肌触りが良く、包まれている間はその心地よさに思わず眠ってしまいそうなくらいで、いつもそれをフィンリーと分けて使っていたのだが。
「もう、一体どこまで出かけていったの………?」
レイチェルの冬の湯たんぽたるフィンリーは朝からどこかに出かけていってしまっていた。
冬の間は大好き花壇の手入れも出来ず、それどころか底冷えする寒さでまともに家の中ですら活動出来ていなかった。
毎晩フィンリーを湯たんぽ代わりにぬくぬく一緒に眠り、朝起きてからも触れた温もりを逃がさないようにぎゅっと体を寄せて過ごしている。
今のレイチェルの生活にはフィンリーが必需品のようなものだった。
毛布に包まったままダイニングのソファに腰かけ腕を伸ばして編み物棒を手に取る。そのまま毛糸をするすると垂らしてカツカツ棒先の音を鳴らしながら編み物を始めた。
一ケ月半前の収穫祭、彼から提案された ふれあい は今でも続いている。が男性相手に免疫を付けるはずのその訓練が冬になった今では暖を取るための行動にしかなっていなかった。
(わたくしが慣れた…というのもあるけど…………)
きっと原因はそれだけではない。
最初の頃こそフィンリーはレイチェルを口説き落とす勢いで、毎日毎日愛を囁き、ハグをしておでこにキスを落とすくらいのことをしてくれていた。
―でも時間とは残酷なもので。
あれだけ熱烈だった行動も今ではハグくらいしか残っていなかった。
たまに愛を囁かれたり、キスのようなものをされたりする程度なわけで。
「おねえちゃんとするのは……違うわよねぇ、いくら可愛い弟でも」
小さく呟くように声に出してから、レイチェルは手に持っていた編み棒を膝に置いた。
ふう、とため息をついてから首を軽く回した。
「わたくしも結構免疫が付いた気はしているの、でもこの訓練の終わりがまだ分からないのよね………」
フィンリー相手にドキドキしなくなればいいのか、それともフィンリーを含む男性相手にドキドキしなければ終わりなのか…その線引きが未だによく分かっていない。
「一度相談しないと…かしら?」
そう口にして、少しだけ心がしゅんと萎んでしまうような気持ちになり…レイチェルはブンブンと大きく首を振って再び編み物の世界に入っていった。
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「だーかーらー!俺何度も言ってるじゃん!何してもおねえちゃんの反応が鈍くなってきてるんだって!!!!!」
机をだんだんと勢いよく手で叩くと頬をプク~っと膨らませフィンリーはシドニーの方を睨むように見つめた。
「もう何度も聞いたって……ていうか冬籠り中だろ?そんな絶対誰も邪魔が入らないような空間で二人きりなのに…………」
「なに?」
「手出さずにいられるとかすごくないか?」
「我慢してんだよ!!!!!!!」
だって…と疼くように口にしてから、フィンリーは現状をシドニーにつらつらと話しどうにか打破できないかと相談していた。
「おねえちゃんはハグしても囁いても…体に触れたって女らしい反応見せなくなったんだ!!前は違ったのに~もう俺に慣れちゃったんだぁ~」
「あー……はいはい」
「どうしたらいい?なにしたらいいわけ?もう全然分かんないんだけど!」
「そうだなあー…………」
フィンリーはぎろりと睨み「真面目に聞いてる?」とシドニーの肩を掴んだ。
彼は驚いた顔をしてから楽しそうに笑う。
「本気で大好きなのは伝わったって、もう告れば?」
「ぜんっぜん俺の話聞いてないじゃん!!!!!!!!!!」
そうだったか?とまた笑うと、嬉しそうな表情でフィンリーの方を見つめた。
「気持ちを伝えるにはまだ舞台が整ってない…それに気持ちが多分伴わないんだ、今のままじゃ…おねえちゃんは鈍いし、それに……いや死ぬっほど鈍感」
「鈍感なのは、まぁ見て分かるよ」
「シドニー先輩なんとかしてよ~~~~」
うーんと小首をかしげてから、彼はニヤリとする。
「お前の熱をまず覚えさせたら?」
「はぁ?」と呆れた顔をしてから、フィンリーもまた顎に手をあて考える。
「絡めとる作戦でいこう、これは丁寧に丁寧に進めないと事故るから気を付けろよ?」
「……詳しく、聞こうかな」
「よし!まずは…」
シドニーの作戦は至ってシンプルなもので、今している毎日のハグやふれあいの中に少しずつ自分にしか出来ない触れかたを入れていくというものだった。
それはハグする時の手の位置であったり、触れた時に二度背中を優しく撫でるであったり、簡単なことだけど毎日していけばそれが習慣になり、当然のことのようになる。とのことだった。
誰か別の人間に同じようにハグをされたとしても、何か違和感を感じるような…そんな何かをレイチェルの中に潜ませていけばいいというもの。
違和感から、何かを感じ取ってくれたらあとは絡め取るように…それが特別なものなのだとそう考えるように仕向けるという…なんとも黒い……腹黒い作戦だ。
「とっても、お前向きだろ?」
「………シドニー先輩って俺のことを結構分かってて怖いです」
「るっせ~!」
でも、と笑みを含んでからニカリと口角を上げた。
「これなら長期戦で頑張れそう!ありがとうございます!ちょっとやってみます!」
「おう!」
来た時は頬を膨らませていたのに、帰りはにこにこ笑顔。単純なやつだな~と笑いながらフィンリーの背中を見送った。
「まあ…オレには絶対出来ないような作戦だけどさ。腹黒くて計画性のある奴には…出来そうだよなぁ」
頑張れよ、と心の中でエールを送って自室の扉をを開けた。
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「ねぇフィン。この…触れ合う訓練っていつまで続くものなの?」
「え」
家に帰って来て早々に尋ねられて、思わず顔を歪めた。
さっきまでのやる気が突然どこかに家出してしまったように気持ちが萎む。
(訓練辞めたいってこと…?なんで急に…!?)
「あの、おねえ…ちゃん?」
「あぁ!突然ごめんなさいね、訓練が嫌とかではないの!ただ…もうわたくしってこういうの慣れたんじゃないかなぁ~って思っただけで」
「慣れ……、えー……何言ってるの?まだ始めて一ヶ月ちょっとでしょ!?」
ぷんすかした表情でレイチェルに詰め寄り、そのまま後ろにあったソファに一緒腰かける。
フィンリーはゆっくりレイチェルの手を握りしめ、そのまま指を一本一本重ねるように絡めた。
「えっ」
ぎゅう、と握りしめてから上目遣いでレイチェルのことを見つめる。
いつもよりもっと熱っぽく瞳を揺らして、絡めた指先を少しだけ動かして彼女の手の甲を自分の頬に寄せた。
そして小さく唇を開けて「じゃぁ、訓練……ここで、しよ?」とあまい声を上げて、レイチェルの耳元で囁いた。
「ひゃ………ぬ……」
肩をびくりと震わせてから、こくりとレイチェルは頷いた。
いつものように体を寄せてそのまま背中に手を伸ばす。
抱きしめる前に今日は背筋をすーっと指でなぞって、それから顔を耳元に寄せる。
コテンと彼女の肩に自分の顎を乗せてから、フッと息を吹きかけてみた。
「きゃ」と可愛い声を上げるレイチェルに、少しずつ悪戯心が芽生え、ぎゅっと回した腕を掴まず彼女の腰裏に置いた。
「ハグして欲しい?」
「…………してくれないの?」
「……言ってくれたら、する」
あわあわした顔のまま、少しだけ尖らせた唇をあけて「ハグしたい、の」とおねだりするレイチェルの姿に、今日は何かいつもとは違うな…と感じて。
焦らすように、ゆっくりゆっくり手を上に滑らせて…優しく両腕で彼女を包み込んだ。
きゅう、とレイチェルの喉が鳴ったような気がして視線を向ければ、まだ顔を赤く染めたままぎゅうっと目を瞑っていた。
―抱きしめたまま、背中を二度、優しく叩く。
「きょうは、なんか、いつものフィンじゃない…みたい」
「そう?可愛い弟の僕のままでしょう?あ、めろめろになってくれた?」
「……たしかに、甘えん坊なあなたの…ままかも?」
そう口にしたレイチェルの頬を片手で掴んで、優しい手付きで自分の顔の前まで持ってきた。そして、ただ彼女が欲しいという気持ちのまま、ねっとりとレイチェルの事を見つめ、その瞳の中に映る自分がケダモノみたいに思いながらも、あまぁい声を出して彼女の耳元で囁いた。
「…抱き寄せて、優しく頬を撫でて、掬うように顔を近づけて愛を囁けば……僕にめろめろになってくれるの?それとも、愛しい~って恋慕う?どうしたら、いいんだろうねぇ…おねえちゃん」
「は…ひ…………っ」
裏返る声を聞きながら、可愛いレイチェルの真っ赤に染まった頬から手を離す。
そしてさっきまでの男の自分を心の中に抑え込んで、可愛らしく微笑む。
「顔、真っ赤…はは、おねえちゃんにはまだまだ訓練が必要じゃない?」
「ふぃ、ん?」
「大丈夫…今日はここまで。本当はもっと近づいて、あまぁい空気に心をぶち込むみたいにドロドロに口説いて…………そのまま押し倒したかったけど、まだしない~♪」
うるりとした瞳を見開いたレイチェルは、掴まれていた肩を震わせそのままフィンリーの方へと体を崩した。
「わわわっ!?おねえちゃん!?!?」
「……腰が、抜けちゃ、った……………」
そのまま倒れてきたレイチェルを抱き寄せ自分の胸の中に収める。
ドクドク打つ心臓の音が彼女にも聞こえてしまっているのだろうなと恥ずかしい気持ちになりながら腕をガッチリ掴んだまま離さないようにソファに倒れ込んだ。
「ふふ、こうやってソファに一緒に横になるの久しぶりねぇ」
「あの日以来でしょう?」
「ええ。どうやらおねえちゃんまだ免疫不足だったみたい……っもうすこしだけ毎日ハグしてくれる?」
「ハグだけでいいの?」
「………は、ハグだけでいいわ」
ふいっと顔を背けながら言うレイチェルにくすりと笑みをこぼす。よく見ると耳まで真っ赤に染まっていた。
どうやら今日の囁きは彼女の中でかなり心に響くものだったようだ。
(いつもの家族みたいな顔で笑う、そんな顔とは全然違う女の子の顔をだったな)
しみじみと先程までの事を思い出し、やはりドロドロに甘やかす感じで絡め取っていくのがレイチェルには合っているのかもしれない。と自分の中でまた方針を定めた。
「ねぇ、おねえ………ははっ、うそでしょー…?」
1人で考え込んでいる間に、さっきまで顔を真っ赤に染めていたレイチェルはスヤスヤと眠りの中に落ちていってしまっていた。
「警戒心、って言葉ももう一度しっかり覚えてもらわないといけないかもな」
って言っても、きっとこんな穏やかな表情をして眠るのは…俺の前だけ、のはず…。
「可愛い寝顔を見せるのは、俺の前だけにしてね?こうして髪に触れられたり、頬に、首に…唇に……簡単に、触れさせたりしないでね」
フワフワの毛布に包まるようにして小さな寝息を立てるレイチェルの髪に指を絡め、流すように梳いてから頬に軽く口づける。
「ふぃん……むぐぅ…」
小さな口から紡がれた自分の名前に思わず口角が上がる。
「ははは、もう~…いいよゆっくり眠ってよ。もう少ししたらベッドに運んであげるから、そしたらいつもみたいに2人で暖を取って眠ろうよ…レイチェル」
夜にはまだ早い、夕刻過ぎた空に光る一番星をソファに横たわったまま窓から眺めた。
―今は、これでいい。この距離でいいんだ。
来るべき時に備えて、今はたくさん触れ合えるだけ触れ合って、自分の温もりだけを覚えてもらわないといけないんだから。
「絡めとる、作戦か……シドニー先輩も悪い人だなぁ~……」
(でも、一番俺向きな作戦だよね。)
もう一度レイチェルの髪に手を置いて優しく頭を撫でてあげる。
ふわりと香る甘い香りに、ぐわりと疼く気持ちをゆっくり解すように彼女の頭に顔を寄せた。
「ま、もう少しの辛抱だし…?」
―END―
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読んで頂きましてありがとうございます!
フィンリー視点のものをあまり書いていなかったなと思い急ごしらえで書いてみました。
2人の冬籠りのシーンをプロットからかなり削ってしまっていたので、こうして書けて良かったです!
気付けばもうすぐ20万PVのようで、、本当にありがたい限りです。
書きたい時に書いているのでまた、何かあった時にでも更新する予定です。
どうもありがとうございました!
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