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◎10万PVのお礼SS 『幼少期の思い出 』

*


気付けば10万PV…を越えてもうすぐ12万でしたね…!

いつも行動が遅くて申し訳ないです。

ブクマ・評価いつもありがとうございます!大変励みになっております!

SSの長さではありませんが、楽しんでいただけますと幸いです。


*

*



「え?!王子とピクニック!?どうして!?!え、おねえちゃんと2人で?!?!」



なんでなんで!と駄々をこねるフィンを横目に、レイチェルは侍女たちの手によって素敵な淑女へと変身していく。深い海のような青い色をしたレースのドレスを身に纏い、髪は二つに緩く結び頭には麦わら帽子を被った。


「来年ジョルジュ様は学園に入学される予定でしょう?その前に公務で海の町に一緒に行こうと誘ってくださったの、だからフィンはいい子でお留守番をお願いね?」

「むぅ……………お仕事なら、仕方ないもんね……おねえちゃん、早く帰って来てね?」

それで…と何か言いかけたように小さい口を一度開けてから、なんでもないと首を振った。


「それじゃぁ~いってくるわ!海なんて初めて見るし、楽しみね~っ!」


 小さなバスケットを両手に持ってフィンリーに笑いかける。彼はまだふくれっ面のままではあったが小さく手を振ってお見送りをしてくれる。


 レイチェルは「お土産ちゃんと買っておかないとね」なんて海に行くということに浮かれながら頭の中はぽわぽわお花畑の用だった。

 それを見抜いたのかフィンリーは「海にはクラゲがいるんだから…刺されるんだから…」と何度も釘を刺された。




*




「ジョルジュ様、大変お待たせ致しました。我が屋敷まで迎えに来ていただいて…」

「気にしていないよレイチェル、君を待つ時間すら私はとても楽しく、そして愛おしくすら思えるのだから」

「はは、へへ……そうでございますか…うふふ」



 なんとも甘いセリフに胸も顔も引きつりながら彼の前に座り、今日本当に大丈夫かしら…と思案顔をしながら目的地へと向かった。



 本当は内心冷や汗が止まらなかったが、まぁ未来で婚約破棄をされる予定の令嬢である自分に向けられる好意は今だけだろうと心を落ち着けた。




*




「な、なんと!!!!海鮮!新鮮!魚介のパスタ!!!!」



 じゅるりと涎が出てきた自分の緩い口元を紙ナプキンで押さえ、一瞬で深窓令嬢のごとく儚げな雰囲気を身に纏った。


「レイチェルが喜んでくれたみたいで良かったよ」

ここの料理はどれも、とれたて新鮮な魚介を使用していてね…と説明してくれる彼の言葉が右耳から入り左耳へとスーっと抜けていく。


 目の前に並ぶ豪勢なお料理たちの誘惑が…すごいのだ。しっかりした家のご令嬢であるレイチェルの鍛えられたスマイルも今は紙ナプキン一枚が守り、お腹は既に小さくグーグー唸っている位だった。


「まぁ、説明はこのくらいで…いただこうか?」

「はい!ぜひに!」


待っていましたと言わんばかりのハイテンションでお返事をして優雅な手取りでパクパクと魚介を次から次へと口の中へと頬張っていく。


―前世ぶりの生ものに感動が止まらなかった。



(生きてて良かったわぁ………美味しい、ううっ美味しいわ)




*




「ここが有名な海岸で、海水浴も出来るようになっているんだよ」



 昼食後に連れてこられた場所は海水浴用に開かれたビーチだった。

サラサラとした白い砂の上を靴を脱いで裸足で歩く。彼に手を取られ、軽く引っ張られながらレイチェルはキュキュ…と音の鳴る砂の上をワクワクした気持ちで踏んでいった。


「ふふ、ジョルジュ様面白いですね。踏んだところから音が鳴るなんて……なんか不思議…」

「ここの砂浜は観光名所なんだよ、向こうの方にも行ってみようか?」

「はい、是非」


 波打ち際できらりと何かが光るのが見え、少し背伸びをして遠くに目を凝らした。

目を細めながら一点を見つめるレイチェルをジョルジュは微笑ましく思ったのか静かに笑うと、少しだけ繋いでいた手を離して「ここにいて」と声を掛け波の方へと走って行く。

その後ろ姿を見つめながら、何があるのかしらと胸を弾ませ心待ちにした。


そしてすぐに戻って来たジョルジュは手に割れた瓶を持っていた。


「すまないレイチェル、キラキラと反射していたものはどうやらこの割れた瓶のようだった………期待させてしまっていたみたいだな」

「あっ、わたくしってば……」



 波に足を取られて思わず目の前にいたジョルジュに手を伸ばしてそのまま抱き着いた。

きゃっと小さな声を上げてから、自分の態勢に気付いて顔を真っ赤に染めると勢いよく離れて「ご、ごめんなさいジョルジュ様……」と涙目で謝る。


「あ、こんな事他の男にはしたらダメだよ?……でも、私にはいつでもしていいけどね」


 パチリと星でも飛んできそうなウィンクしてからご機嫌な笑顔で返す彼を見て、レイチェル今日何度目か分からない小さなため息と、原作での自分の立ち位置を思い出し…苦笑いを漏らした。


「オホホ…気を付けますわ……えぇ今後は」



「割れた瓶だけじゃなかったよ、綺麗な貝殻も見つけたから見せてあげようと思って持ってきた」

そう言って瓶を持っている側と反対の手を広げ、手のひらに小さなクリーム色の貝殻を乗せた。変わった形をしたその貝殻を見てレイチェルは「まぁ!かぁいい~~!」と溶けるような感嘆の声を上げる。


「気に入ったのならあげようか」

「いいえ、そんな受け取れませんわ!わたくしも何か貝殻を拾ってお土産にしようかしら?」

「そう…?なら綺麗な貝殻を一緒に探そうか」




*




 海岸では理想の貝殻とは出会うことが出来ず、お土産はお店で購入することにした。そしてフィンリーのためにお土産を見て回ることにしたレイチェルは、何故か自分の腕を組まれて歩いているジョルジュに視線を向けながらオホホ…と優雅に笑って内心大困惑を極めていた。



(な……なぜこんな密着しているの!?!?)



「じょ、ジョルジュ様…付いてきて下さってありがとうございます……ですが少し歩きにくくはありませんか?」

「そう?私は特に思わないけど……」

「………さようでございますかぁ………………!」


 わたくし、が、歩きにくいんですけどね?と心の中で怒りながら、表面上ではにこやかに、そして軽い足取りで腕を組んで歩く。


 市場のような場所では観光客向けのお土産の出店がずらりと並んでいて、どこも活気が溢れていた。歩くたびに屋台の店主に声を掛けられ、この街がとても豊かでそして素敵な場所であると容易に想像できるくらい……人々はみな楽しそうだった。


「えっと、弟にお土産を買うんだったね?何がいいか……この辺りなら香辛料が有名だけど…まだ幼い子にそんなもの買っても仕方ないね。飾り紐の店が向こうにあるんだ、一緒に見てみよう」

「はい、ジョルジュ様」


言われるがままに市場を歩き、彼のリードに従って進んでいく。

暫く歩いて行くと色とりどりの糸が並ぶ飾り紐の屋台に到着した。


「さぁレイチェル、あなたの弟は何色が好きだろうか?」

「えっと…………………」



(そう言えば…フィンの好きな色って何色かしら?)



 考えてみれば弟の好きなものをあまり把握していなかった。何を与えても喜ぶし、何をしているときでも楽しそうに笑う……強いて言うなら本を読むのが趣味、くらいしかレイチェルには思いつかないのだ。


「そ、そうですね……あの子の髪は綺麗なピンク色、そして瞳はパープルなんです……ふふ、何色が好きなのかわたくし姉なのに思いつかないわ」

「……それならレイチェルが彼に似合うと思った色で編んでもらったらいい」

「え?」

「大切な姉からのお土産だ、何を貰ってもきっと喜んでくれるよ」


 ジョルジュの言葉を聞いてレイチェルはぱぁ~と明るい表情を見せ微笑む。


「そうよね」と小さく呟き、ふふんと鼻歌を歌いながらフィンリーに似合いそうな透き通るような緑のビーズ、そしてせっかくの海のお土産だったので淡いブルーと白の糸を選び店員に手渡した。




 一時間程で完成した品を渡され、その出来栄えに思わず笑顔になりながらレイチェルは大切そうにラッピングしてもらった袋を胸に抱いた。―待っている間ジョルジュは他の店を回ったりしていてレイチェルにとっては小休止のようだった。


「…嫉妬してしまいそうだな、ほんと」

小さく声に出すジョルジュに、レイチェルは首を傾げながら尋ねる。

「何か言いましたか?」

「ううん、何でもないよレイチェル」


 さぁ、もう少し見て回ろう?と腕をまた組まれて2人で出店の端から端までを日が暮れるまで堪能させてもらった。




*




夕日が海へと溶けていく。


光が反射してオレンジ色をした海が何色ものグラデーションで彩られていく。

空の上には今か今かと待ちかねた一番星が降ってきそうなほど淡い紺色が広がっていた。



「弟思いのレイチェルの為にも、今日はここまでにしようか」


「…ジョルジュ様」

「今日、楽しかったかい?私はすごく楽しかった、幸せすぎて泣いてしまいそうなくらい」

「…………わたくしも、とても有意義な時間を…」

「あなたらしい言葉で、教えて欲しいな」


どきん、と胸が痛む音がした。


 今日一日、この海のある街で自分は何を考えていたのだろう…そう思い返して原作の事や弟の事、そして美味しい魚介類……自分とジョルジュとでは想いの重さがあまりに違うのは明確だった。



(でも…)



「たのし、かったです……きっとジョルジュ様が考えているより、ずっと」



(この胸の高鳴りは恋ではない、一緒にずっといたいとは思えないけど……)



「素敵な景色、美味しいご飯、活気あふれる街の人たち…どれを取ってもわたくしがお屋敷の中にいるだけでは知ることの出来なかったワクワクとドキドキです………病弱なわたくしが初めて知ることばかりでしたわ」


 視察に連れてきてもらえてよかった。王城の中での勉強だけじゃ知れない熱気を学べたから…でもこれはデートじゃないから。そんな気持ちを込めてレイチェルは目を見開いて彼に伝える。


「ジョルジュ様の見る世界を知れたことがわたくしにとっては一番の学びでしたわ、あなたが国民をあいしているその姿をしっかり見ることが出来てとても嬉しい。………それだけじゃ、ダメでしょうか?」


「………ははっ、ううん。ダメじゃないよレイチェル、全然ダメじゃない。」



―いつか彼には運命の人が現れる。


 その人は聖女様で、2人は恋に落ちて自分は邪魔者になってしまう。

その先の未来を知っているからこそこの人との関係に線を引いてしまう、いつかの未来でちゃんと婚約を破棄してもらえるように、自分の存在が恋の邪魔にならないように。



「わぁ、夕日沈んじゃいました…最後見逃しちゃったわ、残念…」

「またいつか見に来よう…私とレイチェルの、ふたりきりで」

「ふふ………そうですね、わたくしの心と体が元気であれば…ですかね?」

「私とは約束出来ない?」

「………ふふ」


 困ったように微笑むと、彼は何かを思い出したようにポケットに手を伸ばした。そしてハンカチを取り出すと中に大切に包んであった何かを開いた。


「忘れるところだった、はいこれ」

「……?」


するりと長い彼の指が伸びてくる、レイチェルの耳元にたらりと落ちる髪を整えるように掬ってからパチリと留めた。


「これ……?」


 レイチェルの髪にはクリーム色をした貝殻が一つ留まっていた。

指で触りながらその輪郭をなぞり、昼間に砂浜で見つけた貝殻の事を思い出す。


「あの時の貝殻ですか!?」

「そうだよ、とても珍しい形で綺麗な貝殻だったから……近くの工房で髪飾りにしてもらったんだ」

「………ぅ」

「う?」

「うれしいぃ……………」

噛みしめるように言い放ち、貝殻を手で優しく触れながらレイチェルは頬をピンク色に染めて満面の笑みを浮かべた。


「あの貝殻とっても可愛いと思っていたの、手鏡でちゃんと確認してみないと!」

わぁ、とっても可愛い!なんて小さな貝殻なの!?とレイチェルは一人で騒いで、ハッとした顔をしてから、ゆっくり顔を上げてジョルジュにお礼を言った。



「………レイチェルの可愛さには敵わないよ、私もその貝殻も、ね」



「……?」

「さぁ、帰ろうか。みんな待っているよ」

「はい、ジョルジュ様」




*




「おねえちゃん……なんかすっごく嬉しそうな顔をしてるぅ……」



じとーっとした目でフィンリーに見つめられ、帰って来て早々に頭をぐしゃぐしゃされた。



「海がね、綺麗だったの、それだけよ」

「ほんとうに?王子とは何もなかったの?ほんと?」

「……本当、よ?」

視線を逸らしながら貝殻のピンを指でなぞる。


「…好きになったの?」

「はぃ?」


「……やっぱ好きになっちゃったんでしょ王子のこと!?」

「そ、そんなことないわ?!」


「ぜっ…たいうそ!!王子の事好きになっちゃったんだぁ~~!!!!!」

「もう、違うって言っているのに…この子は」


 不貞腐れる弟の頭をぐりぐり撫でまわしながら、先程購入したお土産の事を思い出す。

侍女に預かってもらっていたその袋を受け取りフィンリーに手招きをした。



「さ、フィンいらっしゃい!お土産のお時間よ~!」

「お土産?」


「えぇ、わたくしがフィンリーに似合うのではないかと思って選んだものなの、少しでも気に入ってもらえると嬉しいわ」

「おねえちゃんが!僕のために?わぁ!!何でも嬉しい!!!なんだろうなんだろう~~!!」


 フィンリーは目を輝かせ、手をバタつかせてレイチェルに抱き着いてくる。もう先程までの不貞腐れた姿はどこにも見当たらない。そんな姿にくすりと笑みをこぼして袋の中から小さな箱を取り出した。


「はい、どうぞ」


フィンリーは箱にかかったリボンをするりと解くと、中身を見つめて目をまん丸にした。


「海がどんな色なのか……おねえちゃんが何を見たのかを僕も見たみたい…」

そう言って飾り紐を手で掴んで光にかざした。


 きらりと透き通る緑色のビーズは幾重にもガラスのように反射し、選んだ糸は綺麗なグラデーションに編まれていた。白から青に変わっていくその色合いはまるで今日見た海そのもののようで、レイチェルとしても大満足の品だった。


「どうかしら?」

「最高だよぉ~おねえちゃん!」

「ふふふ!良かったぁ」

「僕これ大切にするね、ずっとずっとず~っと大切にする」

「そんなに喜んでもらえるなんて…買ってきたかいあったわね」

「…おねえちゃんからのお土産だけら嬉しいの」


「まぁ……」


フィンリーは満面の笑みを浮かべてから、ズイっとレイチェルの目の前に小指を差し出した。


「え?これは……」

「や く そ く !」

「何の?」


そう尋ねるとフィンリーはレイチェルの手をとって、優しく少し強引な手付きで小指を絡めた。


「次に海に行くときは僕と一緒に行くっていう、未来の約束!」

「ふふふ、え~?おねえちゃんとでいいの?」

「おねえちゃんとが、いいの」


「分かったわ」と笑い返し、レイチェルは絡めとられた小指をぎゅっと結びなおすように繋いだ。



「―いつかフィンを海に連れていってあげるわ、おねえちゃんとの約束」




*




 オレンジ色が濃いブルーと混ざり合う。

空の色が鮮やかなグラデーションに彩られ、落ちていく夕日にロマンチックな情景を浮かべた。




 海を一望できる一面ガラス張りのオーシャンビューのホテルの一室でその溶けゆく光を眺めながら、指を絡ませるカップル…否夫婦が笑い合う。



「やっと約束を叶えられたわ」

「……約束、ちゃんと覚えてたんだ?レイチェル」



 失礼ね、勿論覚えていたわよ!とむくれながら、本当は最近掃除をしたときにフィンリーの執務室の机の引き出しから出てきた箱に入った飾り紐を見て約束の事を思い出したのだ。

 そう言えば小さい頃に…と当時の事を思い浮かべ、夫婦になってからバタバタした時間が多かったのでお互いの小休止という事でリゾート地であるこの“レイガルースト街”へとやってきたのだ。



夕日が沈むギリギリの時間まで観光を楽しみ、沈む瞬間はフィンリーと2人でゆっくりと眺めた。



 じわじわと海へ落ちていく丸い光を目で追いながら、「ロマンチックねぇ」と感慨深く感じるて声を出せば彼はくすりと笑ってレイチェルに耳打ちする。


「………じゃぁ、ここでキス…してもいい?」と。


ぱちり、と大きく一度瞬きをしてからふわり口角を上げて彼にしなだりかかる。

「いいわよ?目瞑りましょうか?」


「…俺のこと試してる?嬉しいけど、でもなんか……」

「なんか?」

「リゾート地の空気に流されるレイチェルもいいなって…」

「べ、別に流されたわけじゃないわよ!?」


はいはい、と楽しそうな声を上げる彼は絡めた指の先にキスを落として、それからまた頬を寄せて呟く。


「夕日が落ちたその瞬間、レイチェルをもらおうかなぁ」

「…?」


「あと少しの、このじれったさが……こう…気持ちが込み上げない?あと臨場感とか」

「……そ、そうね?」


まだまだ男心が分からないよね~と唇を尖らす彼に、レイチェルは首を傾げながら沈むその瞬間を眺めた。



3………2……1



ボスンと、体はベッドに倒され柔らかな布団に体が沈む。



「フィン……?」

「夕日が沈めば、もう夜の始ま~り……もう俺らの時間でしょ?」

「ロマンチックタイムよ~帰っておいで…」


「次は2人で綺麗な朝日を見ようねっ」


ぎゅう、と腰を抱かれて体を密着させられる。



「ま!嫌がっても今夜はぜ~ったい離してあげないけど」

「…はぁ、もういいわ?好きにして」


 大きくこれ見よがしにため息をついて片目をつぶって見せる。彼は嬉しそうに目を細めてから、その大きな手のひらで包み込むようにレイチェルの頬に触れた。そのまま近づく距離にドクドク鳴る心臓を押さえて目を瞑る。


が、いつまで経っても唇に温もりが落ちて来ず、目を開けようとした時にかぷり、っと頬を噛まれて思わず小さく悲鳴を上げた。


「んなっ…!?!?!?!?」

「へへ、なんかキス待ち顔が可愛くて食べちゃった」

「は………もう…」


ごめんね?と謝る表情は可愛らしくて思わず許してあげたくなった。


 甘い空間で二人きり、こうしてふざけあうみたいに愛し合って……それにフィンリーのすること全部になんだかときめいてしまう自分もいるのだ。


「許しちゃうわ、だって可愛いんだもの……」

「なるほど、レイチェル相手にこの顔はまだまだ通用するみたいっ!」

「…怒るわよ?」

「ごめんね」



 触れ合うだけのキスをして、大きなベッドに身を沈ませる。サラサラしたシーツの上を滑る様に彼と手を繋いで絡ませた。視線を向ければ、熱っぽい瞳をしたフィンリーがおでこをこつんを合わせてくる。



「愛しているじゃ足りない、でも愛しているって簡単に何度でも言うと重みが足りないから……たまらなく言いたくなった時は、その分いっぱい…いっぱいキスしていい?」



「…愛してるも言ってくれないとイヤ…」

「じゃぁ、いっぱい言う、それでキスもする。でも愛してるの言葉が軽くなっても知らないよ?」

「………軽いの?」

「ううん、めちゃくちゃ重いよ。俺の人生の愛しているは全部レイチェルのものだから、多分抱えきれないくらい重たいよ?」

「それでも両手でいっぱいで全部抱える、取りこぼさないようにキスもする…だから、全部教えて、伝えて?愛してるって気持ち、ぜん…ぶ、んんっ……」


 思い切り口内に浸食され、歯列をなぞられ、めちゃくちゃに舌に蹂躙される。

潤んだ瞳で上目がちに彼を見つめれば、満足気な彼が弧を描くように口角を上げぺろりと唇を舐めて笑った。


「そうやって俺のことを甘やかしちゃうから、ずっとレイチェルに執着しちゃうんだ……手放せないし、いっぱい嫉妬もする…そのくらい重たい愛してるだよ?分かってる?」



こくり、と頷いて「分かってるわ」と答えると、彼はまた大きくため息をついてから。

「もう知らない、レイチェルのこと大好きで愛してるから……今夜もぜったい手放さない!」と怒って唇を貪った。



吐息は甘く、口元はだらしなくひらく。


もうどちらのものか分からないような唾液をじゅるりと垂らし、夢を見るように愛を語らい、その夜はリゾート地を堪能した。



 宝石を散らばしたような満天の星々がいつの間にか空のどこかに消えていく。

うっすら見える雲の隙間から朝日が少しずつ昇っていった。




*




 窓を開けば、水面がキラキラと輝いているのが見えた。

綺麗な海のコントラストに思わず息を飲むレイチェルに、くすりと笑ってから小さく耳打ちした「また2人で来よう」と。



 可愛らしい笑顔を見せてから大きく頷く彼女は、のどが痛くて今日は声が出しにくいみたいで俺の手のひらに文字を書いて言葉を伝えてくれていた。

 一生懸命に指文字で言葉を伝える姿がまた愛らしくて、ずっと見ていたいような、でもぐちゃぐちゃに甘やかしたいような……思わずその手を引いてこちらを向かせてからキスをする。


角度を変えて何度も、なんども。


 甘やかな声色の息を吐く彼女に、気持ちがまた上がっていく。無理はさせないから、と微笑んで強欲な自分の心に従うようにレイチェルの事を抱えてベッドに戻る。

 ぎゅ、っとシーツの上に寝かせた彼女の両手を取って手を繋ぐ、指を一本一本絡めて…熱を全部感じ取れるように。



真っ赤になった顔を上から見下ろして、鼻先をすり寄せその鼻にかぶりついた。

驚いた顔をしたレイチェルに、一言、瞳を見つめて呟いた。



「これからもずっと、俺だけを見ていて…レイチェル」




(王子との思い出なんて全部俺が塗り替えてあげるから。ひとつだって心の中に残してあげない)




―これは、小さい時に何度も妬いた弟の僕からの仕返し。

そして、大人になって夫婦になった俺だけが出来る……特権。





―END―


*

*


読んで頂きましてありがとうございます!


こういうのを書きたいなぁと考えてからまるっと一ヶ月が過ぎていて自分でも恐怖しておりました……なんとか載せることが出来て良かったです。


いつも読んで下さる方々、本当にありがとうございます。

またSSを更新出来れば…と思いもう少し頑張ってみますので、

どうぞお時間ありましたらよろしくお願いいたします。


誤字報告も助かっております…!

見落としがちですみません、本当にありがとうございます!!



『婚約破棄された私が何故か生徒会長の犬になりました』

↑ゆったりペースで本編更新しております。(完結は未定)


『選ばれないシンデレラはやり直しを所望する』

↑こちらも本編更新中ですので、よろしければ見てやってくださいませ!

(完結予定)



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