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◎6万PVのお礼SS 『とある夏のふたり』

*



―トエウィースル領の外れに、恋人たちの泉と呼ばれる場所がある。



 そこに2人で行くと両想いになれる…とかそういうものではなく、その泉でデートの待ち合わせをして楽しく家に帰るまで仲良く出来たら幸せが訪れるというものだった。


レイチェルはナンシーからこの泉の存在を聞き、休日にフィンリーを誘ってデートに行くことにした。




 少しじんわりとした風が頬を掠める、蒸し暑くなって本格的に夏が近づいて来たなとレイチェルはスカートの裾を翻し約束の泉まで歩いて向かう。


 恋人の泉の事をフィンリーに話した時に彼は嬉しそうに頬を緩ませて「俺と?ふたりきり?」と喜んで来てくれると言っていた。

 春先から2人きりのデートを何度もしてきたし、気持ちはまだ伝えていないがいつかの未来もたまに思い描くようになった。



 もう少しすればフィンリーと2人で王都にある実家に帰ることになっている、それまでは大好きなトエウィースル領でたくさんの思い出を作りたいと思っているのだ。



*



「フィンはもう到着しているかしら~?ふふふ~」



 軽快にスキップをしながら泉の近くまで足を進め、その場でゆっくりターンして周りを見渡す。

どうやら彼はまだ来ていないようでレイチェルは近くの木陰に腰を下ろして待つことにした。


 少しだけウトウトしていると、泉の前に誰かが来た気配を感じる。

ようやくお出ましね?と待たされたことに御立腹しながらレイチェルは木陰から立ち上がって泉に向かう。



 そこには何故か顔を真っ青にしたフィンリーがいて、フラフラと周りを見渡しているようだった。

そんな彼の姿を見てレイチェルは慌てて傍に駆け寄る。



(まさか体調が悪かったなんて知らなかったわ!!!)



「フィン?大丈夫?今日はもう帰りましょう!?」

そう声をかけようと手を伸ばすと、レイチェルの手はふわりと彼を通り過ぎてしまった。


フィンリーの顔色は悪いままずっと周りをキョロキョロと見渡している。

そこでレイチェルは初めてこの場所が何か可笑しい事に気付いた。



「どうしてフィンはわたくしが見えていないみたいに……」


と声にしてハッとする。


「もしかして、本当にわたくしの事が見えていないの…?」



大変な事になってしまったと、レイチェルはフィンリーの腕を掴もうと何度も何度も手を伸ばした。



「お家に帰りましょう!フィン!お願い!聞こえないの?」

声を上げるたび彼には何も届いていないようでレイチェルはじわりと涙を目に溜めた。



(今日はデートしてから楽しくお家に帰る予定だったのに…!)



 そしてふと、自分の周りに纏わりつく光のようなものに気付いた。

その光に手を伸ばすと、実体は見えないが何か煙のようなものが人の形をとっているようだった。



「なに、これ………?」



 不思議に思いながらもレイチェルはその光を指でなぞる。

ふわっ、と揺れ煙は離れていこうとする…そんな事お構いなしに鍵はこれね!?とその煙を何度も何度も手で捕まえようと伸ばし掠めていく。



光はフラフラとフィンリーの方へ向かうと彼の周りをゆっくり回った。


レイチェルは光と同じように彼の周りをゆっくり回る。


そうすると光は彼の頭上で揺れ、煙でフィンリーの体を包み込んでしまった。


「きゃっ!?何をしているの!?!?」と大きな声を上げパタパタ手で煙を撒こうとしたが実体は捕まえられず、少し考え込んだレイチェルは煙と同じことをすることにした。



 フィンリーの体を包み込むようにぎゅう…と抱きしめる。

すると光はレイチェルの手に止まり、その後彼のおでこに止まった。


レイチェルは自分の手を恐る恐る彼のおでこに添える。

「フィン……大丈夫……?」



 煙はレイチェルの事も包み込んでいくようにして纏わりつき…スッと、浄化していくように消えていった。残った光はふわふわフィンリーの頭上を飛び回ると、ゆっくり彼の瞳の中に吸い込まれていった。



その光景に思わずレイチェルは大きな声で「光?!?!?!?!」と叫ぶ。



 瞬間、ぱたりと力が抜けるようにフィンリーが倒れ込む、彼を両手で支えると横たわらせとりあえず気道を確保した。スヤスヤ…と寝息を立てているだけのようで一安心したレイチェルは胸を撫でおろすと。



「なんだか…どっと疲れたわ…一体何が起こったのかしら?」


そう呟いて眠るフィンリーの髪の毛を優しくさすった。




 ふわ、ふわ…と光がまわりを点滅する。

突然の事に肩を揺らして驚いていると、どうやら泉の方で何かがピカピカ光っているようだった。

その光に手を伸ばそうとした時、膝枕してあげていたフィンリーが小さく唸った。




 暫くして彼の目が覚めた時に「おはよう」と笑って声を掛けた時に、涙目のフィンリーが「ちゃんと目が見える!!!」と喜んでいたので、どうやら彼はさっきまで視力を失っていたようだった。


 そういえば自分の体が彼に触れられなかったということは、実体がなかったのはわたくしの方だったのかしら…?と彼の手を握りしめた。



「なんか知らない間に眠ってたみたい…なんでだろう……でも不思議な夢を見たよ」

「へぇ、どんなの?」


「んー………自分が小さな光になって宙を舞う、夢?」

「なぁにそれ?ふふふ、でも…見て?」


彼の頬を捕まえてぐいっと泉の方を向かせる。


「いだだ…」と声を漏らす彼にレイチェルは「とっても綺麗な蛍じゃない?」そう微笑んだ。



足に彼の頭が乗ったままでは近くに行って見れないと、どけようとしたらその手を彼に掴まれた。



「フィン?まだ横になってた方が楽?」

「んー…体調は大丈夫なんだけどさ、ね?」

「なぁに?」


すりっと触れられた太ももの感触に思わず背中をビクリと揺らした。


「まだ、この温もりと柔らかさを独り占めしていたいなぁ…って…レイチェル、だめ?」

上目遣いでお願いしてくる彼に、顔を真っ赤に染めながらレイチェルはゆっくり首を縦に降ろした。


「きょ…今日だけだからね…?」

「ははっ、あ~りがとっ」



 そのまま遠くから泉の上で輝く蛍を眺め、彼に優しく触れられながら少しだけの間恋人同士みたいな距離感で…甘い空気というものを堪能した。


帰りはレイチェルの足が痺れてしまって家までおんぶで連れ帰ってもらった。



「恋人たちの泉には試練があったのね…!あの景色は楽しい思い出というかご褒美みたいな…!!!」

「家に帰るまでがデートだからねぇ…まぁ家に帰ってからも、デートだけど?」


 ふわりと持ち上げられた体はそのままダイニングのソファに降ろされ、自由になったレイチェルの体はぎゅうとフィンリーに抱きしめられた。



「ただいまのキス、しとく?おねえちゃん」

「ふふ、……遠慮させていただきます!」




これは、ふたりの夏の日の小さな…夢みたいな思い出のお話。



*



 後日レイチェルはナンシーに泉に行ったことを告げると、とてつもなく驚かれてしまった。


 今あの泉には誰も入れないように封鎖されているらしい、前に入ったカップルたちが突然性格が変わったように振舞いだしてから悪霊にでも取りつかれてしまったのではないかと心配されたそうだ。


レイチェルはナンシーに告げた。


「大丈夫恋人に試練はあるけど、あの場所はとても良いところだから何の心配もいらないわ…そうね夏の夜に行ってみるのはどうかしら?」と。



*




―じわり…夏が来る前の蒸し暑さに目が覚める。



「あつぅ…」と声を漏らしてからゆっくりと目を開けた。


 目の前には大好きな彼の顔と、巻き付いてくるような腕…それを一度払いのけてから近くに置いてあった水差しから水をコップに入れぐびぐびと飲み干した。



「懐かしい夢を見たわ………」



トエウィースル領で過ごした大切な記憶を呼び覚ますようにしてレイチェルはふわりと微笑む。

そうして、目の前にいるフィンリーに可愛らしい口づけを落とすと。


「わたくしの旦那様は、幽霊の類を引き寄せやすい体質みたいなの……ごめんなさいね、帰って下さる?」


そう言ってニコリと何もない天井に笑いかけた。





「んん、ふぁ………起きたの?レイチェル…」

「えぇ先に目がさめちゃった」

「そっかぁ」


 あの泉の日を境にレイチェルは少しだけ霊感的なものを得た、それは目で見えるものというわけではなく、体で何か感じるだけのもの。元からポテンシャルだけはあったのかもしれないが、それは今ではよく分からない。


 幽霊に怯えないで済むように、とレイチェルは自分の唇を寝起きの彼に押し付け、だらしなく開いた口に舌を入れ込んだ。



(なぜかこうしている内は妙な気配もないのよね…?)



「んんぁ……まっ、ひぇ…」

「だめ、待たないわ」


 有無を言わせず舌を絡ませ思考を奪っていくように角度を変えて口づける。

ぷは、と息を漏らせば、すっかり目の覚めた旦那様がひとりわなわなと震えていた。



「俺が朝弱いって知ってるくせに………まだ寝ていたかったのに……」

「そうだったかしら?昔はわたくしよりも早起きじゃなかった?」

「今は手に入れちゃったから早起きする理由がなくなったんだ!」

「早起きは三文の徳って言うじゃない?」


「それじゃ」


続き、してくれる?と出そうとした声は空しく口の中に消える。

いきなりキスをした後、レイチェルは彼を抱きしめて「大好きよ!」というと身を任せるように彼の首に自分の手を添えた。




 幽霊からだって何からだって、わたくしが守ってあげるわ。

だってわたくしは…大好きな旦那様に愛されて止まない奥様、なのだもの。





―END―


*

*


読んでいただきありがとうございます。

SSの長さがどの程度なのか分からず…そしてファンタジーに全振り…!


6万PV行ったらSS載せようと思い準備していたのですが、気づけばもうすぐ7万PV……

他のお話を書いていたので気づくのが遅くなってしまい、、、

たくさんの方に読んでいただいてとても嬉しく思います。

ブクマや評価も本当にありがとうございました!


レイチェルとフィンリーの素敵な未来を願って…!

何かのお礼でまた書けるといいなと思います…!


6/12 20時~ 

新しいお話を始めますので、宜しければそちらも併せてよろしくお願いいたします。


*

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