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*




「待っていたわ、レイチェル~!!」




 ぎゅう…と体を思い切り抱きしめられ、ほんのり瞳に涙を浮かべた王妃さまはレイチェルの体を離すまいと抱きしめ続けた。



「お久しぶりです王妃さま、無事王都へと戻ってきました」

「本当に、本当に久しぶりね…あぁまた会えて嬉しいわ」

手紙が無事届いて何よりよ。とウィンクする王妃にレイチェルはふわりと微笑んでみせた。



 抱きしめ続けた王妃の腕をゆっくりと離し、他に集まっている方々にも頭を下げて挨拶をする。テーブルに案内され、ソファ席に座れば隣に腰かけるルーガン夫人と目が合った。



「ふふっ、レイチェルさんお久しぶり~!…と言っても頻繫にお手紙でやり取りしていたからそんなに久しぶりな感じはしないわよねぇ~」


 優雅にティーカップを手に取るルーガンは艶やかな赤い紅の唇をにぃっと上げてレイチェルを下から見つめてくる。

 微笑むたびにお花でも舞いそうな笑顔にほわりと心が絆されそうになりながらレイチェルは自分の頬をぱちんと手で叩いた。



「こちらこそ!いつもたくさんの贈り物と素敵なお手紙をありがとうございます、ルー夫人とのやりとりはとっても楽しくて…」

言葉を続けようとしてルーガンに口を指で押さえられた。


 ルーガンはレイチェルの唇を押さえた指でを一度離すと自分の前まで持っていき、自分に指先を交差させるようにして絡めた。


「ふふっ、野暮なことね…またお手紙を送るわぁ、秘密の、お話をしましょう?」

うっとりするくらい妖艶な表情に思わず女のレイチェルの心臓もドキリとした。


顔を真っ赤にしながら頷いていると、前に座るステンリーがこら!とルーガンの事をしかる。


「いつもいつも………レイチェルさんはもう旦那様がいるのよ。あまり惑わせるようなことをして足を踏み外したらどうするの…」

ため息を漏らしながら怒るステンリーにレイチェルは目をパチパチと瞬かせながら視線を向ける。


「だってぇ……」

「だってではないわ、もうあなたって人は」

「足を踏み外してしまうのであれば…それは、それで……ねぇ?」

「ルー、あなた場所交換しましょう。レイチェルさんの隣は譲りなさい!」

「いやよ~!早い者勝ちだったでしょう?もう~~!」



 言い争う2人に目を向けていたら王妃が手を二度ほど叩いて、その場はスンと静かになった。



「はぁ、あなた達はいつまで経っても変わらないわねぇ…ここにミネルヴァがいたらもっと怒られているわ」


「ミネルヴァ…?」と小さくレイチェルが声に出せばルーガンは笑って答えてくれる。


「レイチェルさんの思い描いている人で間違いないわよぉ」

「え、っと……わたくしのお母様……のことですか?」


「「「 えぇ!間違いないわ! 」」」



王妃は頷いてから関係をレイチェルに耳打ちで教えてくれる。



―なぜ耳打ちで教えてくれたのかは不明だが、ここのご婦人方はみんな距離が近いので気にすることはやめた。―


「ミネルヴァとわたくしは従弟なの、そしてわたくしたち四人はオリバーライン学園の学友、そして……わたくし達はミネルヴァの恋のキューピットってやつね」

「キューピット……」

「レイチェルさんのご両親が婚約者になるまでを支えた盟友なのよぉ~」


 はて……と首を傾げれば、ご婦人方はみんな楽しそうに当時の話を始めた。



 レイチェルはてっきり今日王妃さまのお茶会に招かれたのは自身の結婚報告や、逃亡した時の御礼参りか何かかと思っていたので突然始まった両親の馴れ初め話に思わず目を点にしてしまった。


 そんな唖然としたレイチェルを置いて三人は楽しそうに当時の記憶を蘇らせるようにお喋りしている。


 2人が出会ったのはとある花の前だった、とか。先に想いを募らせたのは母だった、とか。気にはなるが流石に両親の恋バナを今聞くのは何となく気まずい気持ちになった。



「あ、あの……!」と耐えられなくなったレイチェルは胸の前で拳を握って思い切り話を遮るように声を上げた。




 レイチェルが突然大きな声を上げるものだから流石に驚いたのか三人は目を見開いてこちらを見ていた。



「両親の…お話はまたの機会に是非聞きたいな、と思いまして……」

えへへ…と笑いながらレイチェルが頬を掻いて言えば、周りも納得したように頷く。



「それなら、あなたのお話を聞かせてもらえるかしら?レイチェル」


「え…」

「あなたと、フィンリーのお話を聞きたいわ」


 自由になれる生活を捨ててまで戻って来たんだもの、心を揺さぶるような…そんな何かが2人にあったのではないの?と目を輝かせる王妃にレイチェルは口を引くつかせて笑った。



「そ…………そうですね……ありましたね……」



一体どこから話せばいいのやら、と思い出を頭に巡らせてレイチェルはゆっくり息を吸ってから吐く。



「では…」と言葉を区切ってから、2人で過ごしたトエウィースル領での一年間について語らせてもらうことにした。



 暮らし始めた夏の時から、姉弟としての時間を過ごしたこと、収穫祭や冬ごもりといったお互いの関係に変化が訪れた時の事を話して行けば王妃は嬉しそうな表情を浮かべてレイチェルのほうを見つめた。


 春にジョルジュが家まで尋ねてきたことについて話せば、周りの皆さんは不思議そうな顔をする。


 レイチェルもなぜ居場所が分かったのかしら…?と首を傾げながら話しを進めると、王妃は手を打って顔を上げた。



そして「あぁ、そうだわ手紙が来たのよ!」と声をあげる。



「手紙ですか…?誰からでしょう……」レイチェルは頬に手を当てながら困った顔をした。



こほん、と一度咳払いして王妃は言葉を続けた。



「フィンリーよ、彼からジョルジュに春頃かしら…手紙が届いたの、今ここにいるという報告だったはずだけど。でもまさかレイチェルに会いに行っているなんて知らなかったわ…」


だって、フィンリーと2人で暮らしているなんて初耳だったんだもの。と笑い声をあげる彼女にレイチェルは、はははと乾いた笑い声が口から零れていった。



(フィンがわたくしの居場所をジョルジュ様に……?どうしてそんな事を…?)



「まぁ、戻って来たあの子は振り切れたのか……すぐに聖女様との婚姻を進めてくれたから、こちらとしては勝手に出かけたことはお咎めナシにしていたのよね」

「そ…うなんですね……」

「―何か言ったの?」

「そんな、わたくしなんかの言葉では………」



(彼に気持ちはないと言った気がするわね……でも聖女様との事をちゃんと考えてくれたのね)



「レイチェルの言葉でしかあの子は動かせないわよ、きっと今もね…」

「え…」

「さぁ~!お茶会の続きをしましょう!今日のお菓子はね………」




 その後、ご婦人方とお茶会を存分に楽しみ夫婦という関係になったフィンリーとの話も根掘り葉掘り聞かれた。

 ステンリーにはまた数十年後に移住希望なので!とだけお願いして、その日はお開きとなった。


 結局お咎めなんかはなく、思っていたより自分の婚姻を祝福する会みたいだったな、と言葉を口にして王城を後にした。



 それでもレイチェルの心の中にはフィンリーの行動が腑に落ちないままで、どうしてもモヤモヤしてしまっていた。



(帰ったら絶対に聞くわ……どうしてそんなことをしたのかを…!)




*




「レ~~~チェル……ッ」



 家に戻って自分の部屋のソファでくつろいでいたら、ノックも何もなくフィンリーが勝手に部屋に入ってきてレイチェルの体を思い切り抱きしめていた。


 甘えるように触れてくる彼の手を押しのけ、レイチェルは面と向かって彼に尋ねた。



「ねぇフィンリー、教えてほしいの……

わたくしの居場所を手紙でジョルジュ様に教えたのはあなたよね?どうしてそんなことをしたの………」



縋る用な瞳で彼のパープルの瞳を見つめれば、彼はため息をついてからレイチェルの頬に手を添えた。



「なんで知っているの?手紙を送ったこと」

「今日、王妃さまにお茶会に招かれて…その時に聞いたの」

「ふーん、そうなんだ」



 彼に見つめられる、瞳は一度だけ揺れてすぐにレイチェルを視界に戻した。そのまま顔を近づけられてキスを落とされる。



「んぁ…っ、っふぃん……!」


わたくしは真面目に聞いているのよ!?と言っている途中で言葉は彼の口の中に消えていく。


 ぺろりと自分の唇を舐めるフィンリーは、熱を帯びた眼差しをこちらに向けてから耳元で小さく囁いた。


「教えて欲しい?」と。



 その問いに、こくりと首を縦に振れば彼はレイチェルの肩をソファに押し込んで耳をガジガジと甘噛みする。耳にあたる吐息にレイチェルはゾクゾク体を震わせる。



「フィン、ふざけていないで…教えて」

「んー、そうだなぁ……」


押し込んだ肩をパッと離して、レイチェルの顔を手で掴むと。



「だってさ、レイチェルってば俺の事好きなのに全然気持ちに気付けていないみたいだったから?誰かもっと分かりやすい身近な男を呼んでみようと思ったの」

でもお陰で気づいたでしょう?自分の心に誰がいるのかって、とニコニコ笑みを見せる。



「は、え?は……?」


「へへへ~、大好きだよレイチェル!誰かに触れられないと気付けない所も、俺の事好きってちゃんと気付いてくれる所も、ぜぇんぶ…大好き」


「え…っと……」


「俺はあの時、王子様との会話を近くで聞いていたから…全部知ってたよ。その上で、レイチェルに踏み込む覚悟が出来た、だって好きでもない男に抱きしめられて不快感を覚えたのに俺には同じ事を求めてきたんだから…」

嬉しい気持ちでいっぱいだったよ、おねえちゃん!と彼は可愛く微笑みレイチェルの顔を掴んだまま唇を奪う。



 さっきまでのニコニコの可愛い笑顔から、レイチェルの唇を奪う彼は熱っぽくて色気のある笑みを見せてくる。


 何度もキスをされ、角度を変えながら口内に入ってくる彼をただただ受け入れる。

 時折自分の口から漏れる甘い声に恥ずかしくて顔は真っ赤に染まっていく。頭はどんどんボーっとしてくる。


 触れられた手のひらが顔から首へ、そして背中に降りてくるのを感じてお腹の奥がきゅんと疼いた。

 フィンリーの首に自分の腕を回すと、にやりと笑う彼がソファにレイチェルの事を押し倒した。


 荒れる息を漏らしながら「怒ってないんだ?居場所をバラしたこと」とフィンリーに尋ねられる。

レイチェルはさっきまでモヤモヤした気持ちを胸に抱えていたが、これも全部彼の愛ゆえなのだ。と理解することにしていた。



「ちゃんと教えてくれたから、いいわ」と抱きしめるように体を寄せて言うと、その答えにフィンリーは目を丸くして動きを止めた。



「え…っと…?」


「フィンはわたくしが好きすぎて、鈍い姉をどうにかしようとしてジョルジュ様をけしかけた、ということでしょう?」



「………あ、はい」

「なら…もういいわ」

後日きちんとエイリスさまには謝罪しないと…と口にしたところで彼の顔が耳まで真っ赤になっていることに気付いた。


すりすり、と彼の耳に指を添えてコテンと首を傾けた。

「どうしたの?フィン」


口を何度かパクパクした後、フィンリーは真っ赤な顔のままレイチェルの胸元に顔を埋めた。


そして、バッと顔をあげると


「めっちゃくちゃキスしたい、いいですか……?」と声を上げて聞いて来た。


「は、ぇ…?」




「レイチェルは可愛すぎるから素直になったらダメだよ、俺の愛を真っ直ぐ受け止めないで…もっともっとって止まらなくなっちゃう…どこにも行ってほしくなくなる、お茶会にも行かないでほしくなる………あー…レイチェルが可愛い、昔からずっと可愛かったけど、俺のこんな独占欲も許してくれる、試しても怒らないなんて……神か?」



早口でまくし立てられるように言葉を紡ぐ彼にレイチェルの方が置いてかれたように、唖然としてしまった。



「フィン?その、キスしてもいいけど……あなた大丈夫?」

「全然平気」

「そう?」

「それじゃ、」


 レイチェルの両手首を覆うように捕まえて、ソファに押さえると優しく上からフィンリーにキスをされる。

 先ほどまでの奪われるようなキスではなくて、包まれるような優しい口づけにレイチェルはゆっくり応えるように唇を重ねた。



(さっきに強引な感じも…嫌いじゃない、なんて言えないわね……)



 どうにもフィンリーが何をしてもレイチェルは全部許してしまいそうなのだ。

 彼が勝手にしたことも、自分の心を知るためには必要なことだったと言えると思ってしまう、むしろそれがあったから…なんて考えてから、レイチェルは自分が彼に毒されてきたわねとまた笑ってしまった。



「でも、フィンのこと大好きだから…」


これで良かったのかもしれないわ………。心の声が小さく唇から零れていき、そのままフィンリーに抱きしめられる。



「挙式はまだだけど……つまみ食いって許される?」

「まっ……」

「こんなんじゃ全然足りないもん」


 ふわりとソファに横になっていた体を持ち上げられレイチェルはベッドまで運ばれていく。



 ぎしり、と鳴ったベッドにレイチェルは幼い頃の雷の夜を思い出した。クスクスと笑えば彼に「どうしたの?」と聞かれた。


「昔の事を思い出していたの、雷の夜はいつもあなたと抱き合って寝ていたなって……あの頃は無邪気な弟だったのに、いつの間にこんな…」


ちゅ、っと可愛らしいキスで唇を塞がれた。

「あの頃からずっと、気持ちは変わっていないけどね」

「はぇ……っ!?」


「雷の夜は一緒に寝ることが許される日、おねえちゃんを守れる自分だけの特権を持っていたから……特別な夜だったよ」

勿論今でも雷の夜もそうでない夜もお守りするけどね?とウィンクする彼にレイチェルはポポ…っと頬を染めて思わず口を尖らせた。


「はぁ、可愛い弟は幻想だったのかしら……」

「ね、もういいでしょう?」

「え」


するりと入ってきた彼の手にレイチェルは服を脱がされ、驚いた顔のまま目をパチパチ瞬きする。



「レイチェル、この世界で一番大好きっ」



そう言ってレイチェルが目を白黒して硬直している間にフィンリーは一人楽しそうに体を弄ぶように触れる。


「ひゃ…ぅ…あぁっ」



自分の体が電流が流れるみたいに痺れ、布越しに胸の先にキスをされ耳は彼のトロトロに甘い声で溶かされていくようだった。





*




 夕刻だった空が、真っ暗に染め上げるまで…星々が煌めく時間までゆっくりゆっくり時間をかけて愛されていく。



 レイチェルの心にはもうたった一人だけ。断罪の運命から救いたいと願った弟…否、旦那様だけが刻み込まれている。



 小説通りの未来は歩めなかったけど、王子と聖女は運命の恋で結ばれ結婚した。




 そして悪役令息と婚約破棄をされた姉の幸せなお話は是非とも前世敬愛した田上Pの新作小説のネタとして提供したいな、とレイチェルは2人で被った布団の中で一人妄想を膨らませていった。




「だって、この世界は…」



 大好きな小説『今夜、悪戯な運命に導かれて』の本編が終わったその先の世界なんだから。



―自分たちの……ヒロインと王子以外の恋のハッピーエンドだってあってもいいはずよね?




*


読んでいただきましてありがとうございます。

次回更新は5/31になります、次回で最後になります。



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