20
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最近ふとした瞬間に胸がときめいてしまう。
今まであえて意識してこなかった事ばかりだけど、そのどれもがフィンリーに関するものばかりだった。
例えば、ハグする時に優しく触れてから腕を回してギュッと抱きしめてくれて、押し付けられた胸板の厚さに…きゅんとする……。
手を繋いで出かける時に歩幅を合わせてくれるのに、家につきそうになった途端指を絡ませてカメのようなスローペースになって帰りたくないってアピールしてくるあの可愛い瞳に…きゅんとする……。
寝る時も抱きしめられて眠ることに慣れすぎてしまって、朝起きて腕が離れていたら寂しく思ってしまうし、そばにいてくれた朝は彼の可愛い寝顔が見れて…きゅんと胸が疼く……。
―自分の気持ちがよく分からない。自分の心がのぞけるのであれば、のぞいてみたい。
でも、こんな きゅん とする気持ちはあの触れ合う訓練をやめてからすこしずつ減って行った。
フィンリーに触られなくなってから、伸ばした手が寸前で下に落ちていく、そんな様子を見るようになってから何となくじれったい気持ちが込み上げるようになってきていた。
毎朝していたハグも、今はしていない、春になったから一緒のベッドで眠ることもやめた。
その代わりよく遊びに行こうと彼に誘われるようになり、外に2人きりで出かける機会が増えた。
あんなに楽しみにしていたはずの春の季節が、今はすこし切ない気持ちになる季節になっている。
「わたくし、どうしてしまったのかしら………」
復活させたお庭で土いじりをしながらレイチェルは心の中で自問自答を繰り返す、指先で芽が出たばかりの葉に触れてゆっくり優しい手つきで水をあげる。
夏に向けて他の種も畑に植えないといけない、今年は何を育ててみようかしら…と考えて「夏、かぁ…」と小さな声で口に出した。
夏になれば、一年という期間を終えてフィンリーが実家に帰って行ってしまう。
もうずっと毎日一緒にいたので寂しい気持ちが胸を侵食していく、畑にトマトが実りお庭にひまわりが咲く頃には彼はここを出ていってしまうのか…とそんな気持ちを胸に抱えた。
「夏になったら前から考えていた犬を飼い始めようかしら…?」
弟がいなくなる寂しさを埋める為に犬を飼うだなんて自分ってば寂しがりやになったものね、と冷たい笑い声が自分の口から漏れた。
(多分、すごく寂しく思っているんだわ、フィンリーと触れ合う訓練をやめたことを……)
自分から言い出した事なのにもう少し抱きしめられていたかった、なんていつも考えてしまう。とんだ寂しがりやの姉が爆誕してしまったものだ。
指先を土にぶすぶす差しながら穴をあけてその中に種をパラパラ…と入れていく、そして土に優しくお布団をかけるように蓋してあげた。
そんな種まきの動作を繰り返しやっていたら、遠くから馬車の音が聞こえる。
「荷馬車かしら…?何か届くって話は聞いていなかったと思うけど……」
この辺りで馬車の音がすればそれは大体がレイチェル宛の荷物を乗せたものだ、ステンリー家宛の馬車はこことは違う道を通るのでいつも判断基準にさせてもらっていた。
荷物が来るのであれば一度服の泥を落として着替えてこようかしら?とレイチェルは立ち上がり急いで泥を落とすと家の中に駆け込んだ。そして着替えだけ済ませて顔を水で洗う、髪についていた汚れも軽く流して整えておく。
馬車が来るたびにこうして身だしなみを整えている事には理由があった。
レイチェル宛の荷馬車が来るときは実家からかルー夫人宛の二択だったからだ、前者ならまだ普段の格好で出ても知っている人間相手なので気にされないが……後者なら大変なことになる。
ルー夫人はなぜかとてもレイチェルの事を気に入ってくれている、そして田舎暮らしで困ったことはないか、といつも気に掛けてくれているのだ。身の回りの物から食べ物、娯楽品、アクセサリーや衣類まで全てを気にして贈ってくれる人なのだ。
一度お茶会で会った事があるくらいの仲なのにここまで良くしてもらって恐縮だが、レイチェルが一度泥だらけの格好で荷物を受け取った時、その事がルー夫人にも伝わってしまい翌週にとんでもない量の衣類が届いたのだ。
貴族令嬢が泥だらけで人前に出るものではありませんという忠告として受け取っていたが、どうやらそういうわけでもなく、単に着る服が無いのかもしれないと心配されての行動だったらしい。
荷馬車一台分のサイズピッタリなドレスたちは、着れそうなものだけ分別させてもらい残りは実家の方へ送り返させてもらった。
ー部屋の中に入らなかったのだ…クローゼットなんて20着程度の大きさしかないのだから……。ー
そんなこんなで荷物を受け取るときは身綺麗にしておこうと心掛けている。
今日はどちらからの荷物かしら…?と遠くに見える馬車に目を凝らし、いつもと色の違う馬車に首を傾げた。
「綺麗な馬車ね…?ルー夫人の所の馬車は新調されたのかしら?」
確かルー夫人には二人の娘さんがいて、今年学園に入学されると聞いたことがある。お手紙はこの前出したばかりだから返事が来るにしては早いわね~と手を口元にあててクスクス笑っていると、近づいて来た馬車に思わず息を飲んだ。
ガタゴトと音を鳴らして家の前に止まった馬車には、王家の紋章が刻まれていたのだ。
(もしかして王妃様?ここまで会いに来てくれたのかしら!?)
久々に会えるのだと思うと心が弾む、王妃様にお会いしたらお話したい事が山ほどあったのでわざわざここまで来てくれたのだとレイチェルは高鳴る胸をワクワクさせた。
お手紙ではやり取りさせてもらっていたが、お顔を拝見するのは久しぶり…と自分の胸に手を当てダイニングの窓から外の様子を窺えば、馬車の中から出てきたのは。
“銀髪の髪に輝くようなオレンジ色の瞳”をした、背の高い男の人だった。
「ひゅ……………」
レイチェルは思わず喉を鳴らして窓から体を離した。
なぜかその場にはこのオランジェーズ王国の第一王子であるジョルジュ様がいた。
レイチェルの元婚約者で現聖女様の婚約者、そして…レイチェルが王都の実家から逃亡する理由となったあのジョルジュ様が立ち尽くしていた。
(な、なんで…!?!?どうしてジョルジュ様が?)
ここを知っているのは王都では王妃様と両親、そしてルー夫人のはずだ。と、そこまで考えてから一度ここを訪ねてきた“聖女様であるエイリス”の事を思い出した。
「あっ、あああああ…あの子ねぇ……!!!!!」
自分の顔を手で覆ってからソファの上に項垂れる、どうする!?と考える間もなくジョルジュはレイチェルの家のドアを叩いて呼び鈴を鳴らした。
(居留守を使う…?でもさっきまで畑にいたから、足跡でバレそう……)
どうしよう、どうしよう…と小さく口に出してから、震える手を握りしめて玄関へ向かった。
逃げてしまったのは自分だと、向き合わずにいたことは謝罪すべきと思い玄関の扉に手を置いて力を込めると、ゆっくりひらいた。
ギィ…と開いたドアの向こう側に目を見開いたジョルジュがいる。
彼は体を震わせてレイチェルの方に一歩踏み出す。レイチェルは家から足を踏み出してそのまま玄関の扉を閉めた。
何を言おうか、どうしようか困りながら瞳をウロウロ動かしていると先に声を出したのはジョルジュだった。
「やぁ、久しいねレイチェル。元気にしていたかい?」
その言葉にレイチェルはキョトンとしてから、もしかして普通に挨拶に来たのかしら?と首を傾げた。
「ジョルジュ王子、お久しぶりでございます。」
元気にしていたかい?の返事にはどう答えるか迷い笑顔で誤魔化した。
泥だらけの姿を見られなくて本当に良かったと胸をなでおろしていると、彼は突然思い切り頭を下げた。
「ひゃ!?」と小さく声を出せばジョルジュは「すまなかった」と謝罪の言葉を繰り返す。レイチェルは頭を上げてください!と彼に詰め寄りなんとか顔を上げてもらった。
そして今の状況が何一つ掴めなかったので「昔の事です、もう何も気にしていませんわ」と言うと彼のオレンジ色の瞳がギラリと光った気がした。
「レイチェル、ここでの生活は楽しいかい?」
「えぇとても、肌に合うのだと思います」
「そうか、王都より風が気持ちよく感じるね」
「…そうですわね」
何気ない会話が突然目の前で繰り広げられ、レイチェルはどうしたらいいのかを迷った。それでも部屋に上げることだけはしてはいけないと本能がそう告げる。
「ジョルジュ王子、よろしければわたくしのお庭で風にあたりませんか?」
にこりと久々に淑女の笑みを顔に張り付け庭に置いているソファの方を指さした。すこし考えるようなポーズを取ってから彼は頷きレイチェルの隣を歩いてくれる。
そのままソファに腰かけるとジョルジュはレイチェルに尋ねた。
「レイチェルは将来ずっとここで暮らすのかい?」
その問いかけに思わず言葉を迷ってしまった。
自分の中ではここで一生を終えていいと思っている、でもそれは今の話ではなくてもう少し先の未来のつもりだった。
一度実家に戻りたいとは思っている、でもここでずっと暮らしていいと言われたらきっと……
「そうですわね、わたくしとしては未来はまだ確定しておりませんが……住めたらいいなと思っております。今は療養として来ていますけどね」
「…私は、あなたに将来の選択肢を増やしてあげたいと思っている」
「………はぁ…?」
息を吐き出すように答えたその言葉に首を傾げた。
「レイチェル、考える時間は十分にあったと思う。それに私の気持ちはもうずっと変わっていないよ……あなたには私の側妃として王城で共に暮らして欲しい。正妃にしてやれなくてすまないと思っているが……」
堪えて欲しい…と頭を深く下げるジョルジュにレイチェルは間抜けな声を上げてしまった。
「は?なんで…?」と言った後に慌てて口を閉じてみたが出てしまった言葉はもう仕方がないと咳払いする。
「何か勘違いをされていませんか…?わたくしはもう婚約破棄をされた身の上、これ以上ジョルジュ王子の元にいくつもりはございません」
「聖女の事を気にしているのか?それなら…」
「いいえ、気にしておりません。エイリス様はとても素敵な方、そんな方があなたと国を導いて行かれるなんて素晴らしい事だと思っております」
「では王妃になれないことが…」
「いいえ、王妃にはなりたくなかったのです…わたくしは」
目を見て彼に訴えたレイチェルは、きっとこの人は何も変わらないまま自分の帰りを待っていたのだと気づいた。
レイチェルの中で婚約破棄された時に全てが終わったのだと思っていた。
念のため執着が暴走されたら怖いから保険で田舎に逃亡したはずだった、周りには療養だと言って。
彼はその言葉をそのまま受け取ったのだ、むしろもっと悪い捉え方をしていたのかもしれない、いつかの新聞記事に書かれていたように、捨てられた令嬢は体調を崩して田舎で療養している。というそんな誤解を抱えたまま彼は落ち着くのを待ち、今迎えに来てしまったのかもしれない…と。
ジョルジュには気持ちがないのに、きっと彼の中では私たちは両想いになってしまっているのだと気づいてゾッとした。
「王妃には聖女がなる…だからあなたは毎日城で私の帰りを待っていてくれたらいいんだ」
「…………」
思わず絶句してしまった。
この人は聖女が好きなわけではないの…?と体が震える。
「ジョルジュ王子、申し上げにくいですが…わたくしの事はもうお忘れください。あなたには聖女様という素敵な方がいます、それにわたくしは…あなたに自分の心を差し上げることが出来ません」
気持ちは受け取れないのだと言えば彼は髪を掻きむしって笑う。その表情はゾッとするくらい冷たくて身震いしてしまった。
「だめだよレイチェル、あなたのいない所で私は生きられない…」
「聖女様がいるでしょう?あの方との未来を考えられたのでしょう?」
「……国の未来は考えたよ、でも隣にはいつもあなたがいるのだと……」
「わたくしは、あなたが思っているような令嬢ではないわ」
「レイチェル以上に素敵な人はいないよ」
何を話してもダメそうだと理解してレイチェルはソファから立ち上がると、自分の手を彼の方に引かれて胸の中に抱きしめられてしまった。
「ずっと、夢を見ていたんだ…いつかあなたをこの腕に捕まえると…きっと学園を卒業したら迎えに行って結婚するまでの期間は共に暮らすのだと」
「離して…離して!」
訪れなかった未来について話す彼は正気には思えない。
どうにか身を捩って腕から逃れようとしても、力が強くて離れられなかった。どうにかしないと!と頭の中をフル回転させて一生懸命に考える、彼はずっとブツブツと何かを言っていたがそんなことは全部無視した。
レイチェルは王妃様の言うことは本当だったのだと今、理解した。
すぐに逃げてと言われて逃げなかったらきっと今頃自分は王城で囚われの姫にでもなっていただろう…そう思って背筋が凍えた。
「レイチェル、私に抱きしめられて何か感じない…?私はあなたをこの腕に抱けて幸せに思うよ……やはりあなただけなんだ、レイチェル、私だけの妃になってくれ」
ゾゾゾ…とその言葉に鳥肌が立つ。
抱きしめられてこんな気持ちになるのは初めてだ、昔ジョルジュにダンスのエスコートをしてもらった時いつもより距離が近くて違和感を覚えたことがあったが…それでもこんなに嫌悪感を感じたことはなかった。
回された腕が腰から上に上がってくる、その手のひらの体温にレイチェルは涙が出そうだった。
(同じように抱きしめられてもフィンに触れられた時はもっと気持ちよかったのに、どうして…)
そう心の中で呟いてから、ハッと目を開いた。
自分の心の中で気持ちを占めているのは“弟”の存在なのだと。
この気持ちが愛情なのか、それとも別の何かなのか今は考えられなかったけど、でもどうしてもジョルジュ相手にこのまま抱きしめられるのは嫌だと思った。
「わたくしの胸の中にある…この気持ちがなんなのか分からない。でも今一番傍にいて欲しいと思うのはフィンなの……だから、ジョルジュ王子ごめんなさいっ!」
そう叫んでから、震える肩に力を入れてレイチェルは思い切り彼の事を突き飛ばした。
そして玄関まで走って行き、扉を開けると「帰って下さい!あなたの気持ちには答えられない!聖女様を幸せにしてあげて、それしかもうジョルジュ王子には望んでいません!」と大きな声を出してバンっと扉を閉める。
彼の小さな自分を呼ぶ声を無視してしまったことは申し訳なく思った。
でも、抱きしめられて触れられた時の嫌悪感を暫く忘れられそうにない、と自分の体を両手でギュッと抱きしめてわしゃわしゃとさすった。
「こわすぎるわ………こんなの…わたくしはどうしたらいいの……?」
不安に胸が押しつぶされそうになる。
暫く玄関に座っていたレイチェルは、馬車の音がしたのに気づいてその場に座り込んでいた体を立たせた。
そして少しだけ扉をあけて外の様子を確認する。
もう馬車はそこには居なかった、帰ってくれたのだと安心してもう一度扉をしめた。
ふう……と大きなため息を漏らしてまたその場に座り込むと、玄関の扉が勢いよく開いた。
扉にもたれ掛かっていたレイチェルは、そのまま後ろに横転して瞳を思い切りあけて上を見つめた。
「うわ、こんな所で座って何してるの?」
フィンリーがビックリした顔でレイチェルの事を見下ろしていた。
その表情になんだか安堵を覚えて、ふふふと笑うとレイチェルは満面の笑みを彼に見せて「フィン、おねえちゃん少しわがまま言いたいの、聞いてくれる?」と尋ねた。
彼はいいよ、と頷いてひっくり返ったレイチェルの事を座らせてくれる。
レイチェルはフィンリーに耳打ちして「思い切りわたくしの事抱きしめて欲しいの…」と呟いた。
そのまま2人は顔を見合わせる、「出来るかしら?」とレイチェルが可愛らしく微笑めば、少し頬を染めたフィンリーが「喜んで」と返してくれた。
彼の両腕がゆっくりとレイチェルの体に降りてくる。
脇を通って腰を撫でるように触れるその手のひらに温もりを感じながらレイチェルは目を瞑った。どきどきどき、と高鳴る心臓に酔いしれてしまいそうになりながら体を彼の方へ預けた。
ぎゅう、と強い力で抱きしめてくれるフィンリーにレイチェルは「もっとギュッて」と体を寄せておねだりする。
「潰しちゃいそう……」って呟く声に「潰しちゃうくらいいっぱい抱きしめて」と自分の腕も彼に回した。
途端レイチェルの頭を彼の手が覆って胸元に顔を埋められる。
体はぎゅうぎゅうと肌と肌が触れ合って擦れてしまうくらい強い力で抱きしめられて、その少しだけの密着した時間にレイチェルはやすらぎを感じた。
(ずっと、抱きしめて欲しかったのかもしれない…)
彼の胸元からプハっと顔を上げると、熱っぽい瞳で見下ろされていた。
その視線にお腹のあたりがきゅんとして、何となく恥ずかしい気持ちでいっぱいになったのでフイっと顔を背けて、頬を胸元にコテンと置いた。
フィンリーはゆっくり体をレイチェルから離して、思い切り持ち上げて横抱きにした。そのまま運ばれていくので、どこに行くのだろうと思えばダイニングのソファだった、そこにどさりと彼が座ると、彼の足の間に自分を座らせた。
そしてレイチェルの手を取って指先を自分の指先で絡める。
視線が交わり、近づいてくる彼に。
レイチェルは思わず顔を伏せてしまった。
「うううう……」と声を漏らしたレイチェルにフィンリーはため息をついて「まだダメか」と声に出した。
情けない声を上げていたら、彼に名前を呼ばれ顔をもう一度上げた。
「おねえちゃん、気づいてる?」
「…何に?」
「僕のこと、結構好きって気持ちに」
「……ふぇ………?」
目をまん丸にしてフィンリーを見れば、彼はレイチェルの脇あたりに手を添える、そしてそのまま手を遊ばせるように首元まで持っていくと…頬に手をあてた。
「春になってから、いつも視線が熱っぽく感じてたよ?どうして?」
「熱っぽく……?」
「うん、こうして触れて欲しかったんじゃない?」
頬に添えた手が優しくレイチェルを撫でる、そして一度離してからもう一度触れた、次は強引な手つきで顎を持ち上げるように。
「フィン…?」
「ぼくのこと、好きって言って?」
「でも、わたくし達は…姉弟で…」
「そんなの関係ないよ、僕は義理の弟なんだから」
「でも…」
「でもは禁止、次言ったらその唇をを食べるから」と怒られ口をつぐんだ。
フィンリーの手は顎から外れて肩に降りてくる、懇願するような瞳を揺らしてレイチェルに迫る。
「この気持ちが家族への愛情なのか、恋愛の欲なのか…まだちゃんと理解できてないの。気づいたのはさっきだから……でもドキドキする気持ちはフィン、あなたにあるわ……今はそれだけじゃぁ…だめかしら?」
頬を染めながらそう答えれば、ははっと笑ったフィンリーはレイチェルの事を思い切り抱きしめ、ソファの上に体を押し倒した。
彼の長い前髪をくしゃみと掴んで、また笑う。
「ーようやく捕まえたよ、俺のおねえちゃん…ううん、レイチェル」
「なに??…ど、どういうこと…」
「早く俺の手の中に落ちてきて欲しいと思ってたんだ、もうずっと、ずっと前から」
彼のパープルの瞳が怪しく輝く、懇願するように揺れていたはずなのに今は恍惚としているようだった。
「ぼくはずっと、ずっとレイチェルの事が大好きで、傍にいたいと願ってたよ」
「フィン…?」
「これからは気持ちは隠さない、ううん、むしろレイチェルに恋を分かってもらうためにもっとアピールすることにしたよ」
だから、逃げないでね?と笑う弟は別人のようだった。
可愛くて無邪気な弟は、妖艶で強引な…そんな一人の男の人にしかもう見えなかった。
「ひえ………」と声を漏らして気づきそうになった気持ちにそっと蓋をした。
だって、この気持ちに今気づいてしまったらとんでもないことになってしまいそうだと、本能がそう告げたから。
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