15
*
「ああああああああ…………」
ソファに項垂れ、「やっちまった」と自分の顔を覆った。
こんなつもりじゃなかったし、こんな予定もなかった。
一週間一緒に過ごして毎日めちゃくちゃ楽しくて癒される日々を満喫していた、弟扱いはいつか変えたらいいって思いながら心の中にモヤモヤした何かを溜めて…それでも今役立たずな自分をどうにかしたくて本の知識を照らし合わせながら薬草や花の勉強をしていたはずなのに。
本に集中していたら、目の前にナイトウェアのままうろつくレイチェルが現れて、あろうことか体を密着させて手を掴んできたのだ。
(驚いて思わず肩を押してしまったけど、バランス崩して一緒に倒れちゃったし……いやだって………目の前に無防備な好きな人がいたら触りたくなるじゃん…)
あんなことするつもりじゃ…と顔を手で覆いながら、先程の自分の指先の感覚を思い出した。
しゅるしゅる、とリボンが解けて…はらりとレイチェルの肌に落ちていく、真っ白だった彼女の肌が少しだけ日焼けしていて思わずその後を指でなぞってしまおうかと思った。
そんな風に肌に触れることはギリギリ残った理性で止められた。
服の端をなぞるように胸元に触れればピクリと肩を揺らす彼女の顔が赤みを増して瞳を大きく揺らしていた。
このまま服なんて脱がしてしまってもいいんじゃないか…と考える自分の思考を脳内でぶん殴りながら視線を下にさげるとスカートがめくれて足が露出していた。
(正直さ、よく抑えられたよなって思うわけ…)
ずっと片思いしているおねえちゃんの服を剥くような真似したんだから、もう自分の気持ち伝えて抱かせてもらえばよかったんじゃない!?とかとち狂った考えが何度も脳裏をよぎった。
でも、自分が彼女にとって可愛い弟であることは変わらない。
泣いて縋って頼んで抱いてもきっと弟の我儘の範疇でしかないんだ、普通そんな弟なんて存在するわけないけど、ドルレット家は身内にだけお人好しで甘いから…俺のお願いはいつも通るんだ。
「めちゃくちゃ好きなのに、なんでこんな風に手を出しそうになっちゃうんだよ………俺」
おねえちゃんが望むなら犬にだってペットにだってなれるのに。と小さく呟いて、ダイニングのテーブルの上を片付けてから二階の自室に戻った。
どうにも、ここに来てから浮かれている自分がいる。
好きな人とひとつ屋根の下、―ただし異性として意識されていないけど―毎日楽しい日々を繰り返す生活。
もうずっとこんな生活でいいのに、田舎暮らし最高、と誰にも邪魔されない2人の時間に愉悦を覚えていた矢先これだ。本当に明日からどんな顔して会おう。
嫌な顔とかされたら…拒否られたら…そんな事を考える。
(でも、もしいつも通り顔されたら傷つくな…)
異性として意識してもらおうと思っていたのはもっと先の予定だった。暮らしに馴染んでから少しずつ、と思っていたのに……それもこれも全部レイチェルの寝間着がキャミワンピなのが悪い。あんな薄着で寝るのが悪いのだ。そりゃうっかり押し倒してしまったら手も出すさ!と開き直り、部屋から着替えを取ってお風呂に向かう。
頭の中でずっとレイチェルに嫌われたらどうしよう…もし嫌われて家から追い出されそうになったら…とりあえず泣き落として抱こう、もうここまで来たら絶対に手を出す、決めた決定だ!と頭をブンブン振って水滴を落とした。タオルに体を埋めてから思い切り息を吐く。
「いや抱いたらダメなんだって……………」
お互い同意の上で頑張りたいんだって、無理やりはプレイじゃないと燃えないんだって…とまた頭をゴシゴシ擦ってタオルを首に掛けた。
自分の部屋に戻ってベッドにドサッと横になる。
隣の部屋はレイチェルの部屋だが物音ひとつしない、きっともう寝てしまったのだろう。
はぁあ…とまた大きなため息が口から勝手に出て、布団の中に包まった。
毛布なんて時期じゃないけど明け方は少し冷えるんだよな、とお腹の上にのせて目を瞑る。
今日の事は反省して明日から頑張ろう、おねえちゃんの役に立ってから異性として意識してもらおう。そう目標を改めて定めてから拳を握ってぎゅうっと胸元においた。
*
「ふ…えっくしょん………」
ズルズル…と鼻水を吸いながら、今日何度目か分からないくしゃみをする。
(こんなはずでは……)
ぐじゅぐじゅになった自分の顔をタオルで拭いながら、隣に座る彼女に目をやる。
「んー、これは完全に風邪ね?熱も高そうだし……」
今日一日はベッドで寝てるのよ?と言われ部屋から出て行ってしまった。
頭はガンガンと響くように痛むし、のどはガラガラする。
鼻水は止まらないし、体はゾクゾク寒くて震える。
「さいっ、あくだ………」
昨日あんなことした天罰だろうか…姉はやはり神様に愛されているな、なんてボヤける頭で考えながらズルリと鼻水をまた吸った。
レイチェルはやっぱりいつも通りだった、昨日の事なんて気にしていないのだろう。
ーまぁ自分が風邪なんて引いてしまったからそれどころじゃないのかもしれないけど…。
そこまで考えて心がしゅんと萎んでいくような気持ちになった。
視界はぼやぼやして揺れている、天井をじとっと見ていたらドアが開く音が聞こえて冷たい何かが頬を撫でた。
「フィン、大丈夫?熱さましの薬草摘んできたの。これ貼って、それでご飯いっぱい食べて眠ったら明日には元気になるわ。大丈夫よ、それまでおねえちゃんが付いているからね」
頬に触れた冷たいものがスッと鼻先を掠め、ゆっくりおでこを撫でた。
(レイチェルの、手…冷たい………)
ひんやりした手に顔を寄せて、すりすりと近づけば上からクスリと笑う声が聞こえた。
ピトッとおでこに何かを貼られて、ツーンと鼻に爽やかな匂いが届いた。ゆっくり瞬きしていた瞳を閉じて布団から出した手を開いて、閉じた。
体が重くて、でも冷たいのが気持ちよくて。
どろどろに溶かされたように夢の中にすぐに沈んでいく感覚を感じてそのまま身を委ねた。
起きたらきっと熱が下がってると、おねえちゃんの役に立つ自分になると、そう願って。
*
「あら?フィン寝たの…?」
見つめれば視線の先でスヤスヤと小さな寝息が口から漏れ、苦しそうに胸を上下に揺らしていた。
頬に手を伸ばして指先でさするように触れる、そして布団の上においてある手に気づいて中に入れてあげようと掴めばぎゅうっと握られた。
「え?」と声を出せばフィンは少しうなされているようだった。
握られた手はそのままにしてゆっくりと彼の頭を撫でてあげる、きっとここまで無理をしてきたのだろうと心配そうに瞳をゆらしてまた視線を彼に戻した。
「昨日のこと、ごめんなさいね……おねえちゃん、どうしていいか分からなかった。男の人に触れられる経験がなくてドギマギしちゃったの……だめね、でも大丈夫よあなたの事はおねえちゃんが守るから、すぐに……すぐにいつも通りのわたくしに戻るからね」
小さく言葉を放って、レイチェルはふふふと笑った。
「こうして寝顔を見れば可愛い弟のままなのにね、男の子っていつの間にか成長していくのね……」
いつの間にか穏やかな寝顔になっていくフィンリーの姿を見てレイチェルは安心したように部屋を出た。
そのまま階段を下りてキッチンに向かう。
コトコトと食べれそうなものを手早く作って、ナンシーに薬を分けてもらえるように鳥で連絡をした。
暫く経てば大慌てのナンシーとシドニーが2人で薬や氷を届けてくれた。
「弟君は大丈夫ですか!?レイチェル様!?お医者様を呼びましょうか???」
「氷は砕いたほうがいいですよね!?氷山作りましょうか!?」
わたわたする2人に落ち着いて、と声を掛けてから「多分疲れだと思うから大丈夫よ」と笑って見せた。
「あぁ、確かにレイチェル様もよく熱を出しましたもんね…!」
「ここにきてすぐにね?だからフィンも大丈夫、ゆっくり休めば治るわ」
「ご飯とかは大丈夫ですか?」
「えぇ簡単に作ってみたから起きたら食べさせるわ」
「そうですか…とりあえずはよかったです!」
安心したように息を吐いてヘラっと笑うナンシーにレイチェルはお礼を言った。
シドニーは困ったような顔をレイチェルに向けて「昨日やっぱり体調悪かったのか…」としょんぼりする。
その言葉にレイチェルは首を横に振ってから答えた。
「日中は風邪というわけではなかったわ、夜に冷え込んで一気に体調崩したみたい、だから気にしないで?」
「そうですか…?」
「そうよ、それに夜は…」と言葉を紡ごうとしてハッと顔をしかめた。
なんてことないという素振りを見せてからレイチェルは昨日の事を2人に尋ねる。
「そうだわナンシー、昨日の花束はどうだった?」
「えっ……あぁ…」
「素敵だったでしょう?」
「―はい、とても」
ニコニコ笑ってナンシーに顔を向ければ、彼女は顔を赤らめて下を向いた。シドニーもにっこにこで頬を染めて頭を掻いている。
2人のそんな姿にレイチェルは口元を抑えて「え!?もしかして!!?」と小さな悲鳴のように声をあげた。
―2人はこくり、と頷きこちらを見て柔らかく笑った。
「実は…婚約を結びました、昨日…奥様とステンリー家の皆様にも承諾していただいて…」
もじもじしたようにまた下を向くナンシーにレイチェルは思わず抱きしめて祝福した。
「本当なの!?素敵!!わたくしも自分のことのように嬉しいわ!!」
「ありがとうございますレイチェル様」
「これが花束効果ってやつですね!レイチェルさん!」
「やだわ、わたくしの花束のおかげではなくて、シドニーの粘り勝ちみたいなものでしょう?」
「ははっ、確かにそうかもしれないです」
鼻の下を伸ばしながらフヘヘ~と綻ばせるように笑う彼を見つめてまたナンシーへ視線を戻した。
彼女は彼女で幸せそうな表情を浮かべてシドニーの方を見ていて、2人の恋が叶ったのだと思うとここに来てからずっと見守っていてよかったなと本気で思えた。
―去年シドニーが学園を卒業後に伯爵令息として領地運営なんかを学び始めた頃、ナンシーはよくため息をついていた。
パーティーに行くたびにシドニーは女の子たちにチヤホヤされるらしいのだと…可愛い嫉妬話を聞きながらニコニコしていたものだが、シドニーもナンシーが最近前よりもっと可愛くなって領民に声を掛けられているとムスっとした顔でレイチェル相手に話していくのだ。
2人のそういう話を聞かされるたびに、恋してるのね…青春ね……なんて枯れた言葉しか出なかったが、これから夫婦を目指していく2人にはこの恋の道のりは必要なものだったのかもしれないな、と心の中で思いムムムと尖らせていた唇をニカっと上げてまた笑顔を浮かべた。
そんなレイチェルの百面相を2人は見ながらどうしたんだろう?と首を傾げていたがそんなことはレイチェルは知る由もなかった。
後日お祝いを送るわ、と話をして2人の事を見送ってからレイチェルは一人キッチンに戻る。
「まさか婚約が成立するなんてね、ナンシーにはドルレット家の養女になってもらいたかったのに!」
そう声にしてから、幸せそうに微笑む2人の顔を思い出した。
もちろんナンシーの婚約の道としてドルレット家の養女として迎え入れて身分をシドニーと同等にして嫁いでもらうという手を考えてここ数年両親に相談なんかをしていたけど、
「身分の壁なんて乗り越えて幸せな道を掴んでしまうんだものね……」
ナンシーが長年シドニーの婚約を跳ねのけていた理由は一つ。
自分が今、平民に落ちた女の子だからだ。
「こんな私は彼に相応しくない」と言葉にして悔しがって涙する彼女を何度も見てきた、自分が彼女と親しい間柄にならないと見れない涙だっただろう…。
そんな彼女に身分があればと何度もレイチェルは養女の件を聞いていたが、ナンシーは自分の両親から離れることを良しとせず自分自身のまま彼とうまく行く方法を探し続けたのだ。
家が落ちぶれ一家みんなでトエウィースル領へ越してからナンシーはずっと肥料の研究をしていたらしい。彼女はお屋敷で働いていたが、家族は畑をしないといけなくてその手伝いが出来ない代わりに肥料を作り続けていたのだと言う。
今年に入ってようやく試し続けた肥料たちが上手く養分を循環させるようになり研究は大成功の結果を修めた。―ちなみにレイチェルの家の小さな畑や花壇の植物たちが元気に育っているのもナンシーの肥料のおかげだった。
彼女はこのトエウィースル領に還元できるほどの利益と実績を自分の手で生み出した。時間はかかってしまったと言っていたが、数年と言う短い期間で使用人として日々働きながら生み出せるのはすごいことだ。
ナンシーは念願叶ってシドニーからのプロポーズを受け入れたみたいだが、ロベイラ夫人は元より2人の関係に口を出すつもりはなく好きにしていいとずっとシドニーには言っていたらしい。
それでもナンシーの気持ちの問題もあったのでここまでちゃんと待ってから、ナンシーの好きな花を花束にして青空の下で告白したのは良かったのだろう。
きっと忘れられないくらい素敵な空間だったはずだ。
レイチェルはその景色を頭の中で思い浮かべて思わず「いいなぁ、憧れるわ…」とぼやいた。
鍋の中身を温めなおしてポタージュを器に入れる。
木のスプーンをトレイにのせて一緒にタオルの変えも手に取った。
そのまま荷物を抱えて二階に上がりフィンリーの寝ている部屋をノックしてから入った。
*
ベッドの上でポヤ~っとした顔で荒い息を吐く弟の姿を見てレイチェルは持っていたトレイを近くのテーブルに置いて駆け寄った。
「フィン、大丈夫?熱が上がってきたかしら……?」
そう言って彼の前髪をかき分けて額に手を当てる、じゅっと音がしそうなくらい高熱を出す彼に冷たい水で濡らしたタオルで触れた。
「可哀想に……煎じた薬草と、薬、それから食べられるものを持ってきたけど……食べられるかしら?」
「………ぁ…ぉ……」
「え?なぁに?」
「……レ…」
何かを言おうとしている弟のぱくぱく開く口元を見てから、その近くに顔を寄せてレイチェルはもう一度どうしたのか尋ねる。
彼に潤んだパープルの瞳でレイチェルを見つめられ、手を頬に伸ばされた。その手を取ると小さな声で「昨日はごめんね」と吐息混じりに言っているのが分かった。
レイチェルはバッとフィンリーの方を見て、頭をゆっくり撫でて笑って見せた。
「ばかね、おねえちゃん気にしていないわ…驚きはしたけど、あんな事をあなたに注意させてしまった事が情けない…こちらこそごめんなさいフィン、熱が下がったらちゃんとおねえちゃん気を付けるから、またいつも通りの可愛いあなたでいてくれる?」
フィンリーの髪の毛を指で梳いて、流れるようにその指先で彼のこめかみに、頬に触れていくと、彼に指先を掴まれた。
驚いて「え!?」と声を漏らすと、上目遣いのフィンリーに「や、だ、」と掴まれた指先を引っ張られてそのままパクリと彼の口の中に放りこまれた。
ぺちゃぺちゃ、と官能的な音を立てて舐められる指先の感覚に体がぞわりと震える。
「フィン!?悪ふざけはよして?!?」
手を振り払おうと力を入れても病人のはずの彼の力には及ばず、指先は溶かされるように舌の上を転がされていく。
野性的な瞳を光らせるように、彼の舌に指間を責められてなんとなくぞわりと震えていた体がゾクゾクと小刻みに揺れる。腰のあたりから何かが上がってくるような感覚に怖さを覚えて、思わずフィンリーの舌を舐められている指先でつかまえれば彼は自分の瞳を見開いてこちらを見た。
真っ赤な顔をした彼は熱が上がっているのか、レイチェルの方を見ると頭にハテナマークを浮かべて目をトロンとさせてから瞳を閉じた。
「フィンリー………?」
彼の名前を呼んでも反応がなく、さっきまで情緒的だった部屋の空気もガラリと変わっていくようだった。
ふらりと倒れそうになる彼の体を慌てて支えてあげると、熱い体からじわりと汗がにじんでいるのが分かった。
そのままゆっくり横にしてあげようと体に手を回したら至近距離でパチリと瞳をあけたフィンリーと目が合う。
彼はとろんとした瞳のままレイチェルのことをジッと見つめ、ふわりと可愛い笑みを見せた。彼の頭を枕にのせてあげて、手を離そうと自分の頭を上げようとした時「えへへ…」と小さく声をあげた彼に。
「ぬぇ…!?」
唇をぺろりと舐められた。
瞬間体を仰け反らせて距離を取る。
何が起こったのか分からなかったレイチェルは自分の唇に手をあてる、そして今彼に舐められた…?と考えて頭がボカンと爆発してしまいそうなくらい顔を真っ赤にした。
「ん、ななななななな…なぁっ!?!??」
言葉にならない叫びをあげ、ベッド横になる彼を見ればスヨスヨ…と目を瞑って眠っていた。
(な、なんなの!?!?何がしたいのよ!?!?!?)
舐められた唇を手で擦り、舐められた指先も服で拭った。
看病していただけのはずなのにどうしてこんな目に…?と頭を抱えてから、きっと熱で頭が可笑しくなってしまったのよ!と前向きな希望を心の中で可決した。
「ははは、ふふ、きっとそう…そうに決まっているわ…だってあんな、舐め……えぇ、そうね、わたくしが食べ物か何かに見えたのかもしれない…わたくしはアイスクリーム…」
体温だって低いものね?きっとそうよ、間違いないわ。なんて顔を真っ赤に染めたまま誤魔化すように言葉を重ねていく。
大丈夫、大丈夫、と自分の胸に手を当てフィンリーの部屋から飛び出した。
「はぁ、はぁ………風邪の看病ってこんな、こんな目に遭うものだったかしら!?!?!?」
今日はフィンリーと昨日の事は気にしないでと仲直りして、前と変わらない生活を送るために約束をしようと決めていたのに、とレイチェルは心の中で怒る。
「熱を出していたら何をしても許されるわけじゃないのよ……わたくしは…食べ物じゃないんだから…………」
真っ赤になったまま戻らない自分の顔を鏡で見て、頬を両手で覆い隠した。
―恥ずかしい、驚いた、苦しい、怖い、分からない、気持ちよかった……
自分の中でよく分からない感情たちが渦巻いて行く。さっきのフィンリーを思い出してその瞳に、表情に、お腹の奥がきゅんと疼く。どきどきと鳴る心臓は壊れそうに早い。
「あー……男の人に免疫をつけておくべくだったわ………弟相手にこんな気持ちになってはダメ、だめすぎるわ…」
王子には手や腰にしか触れられたことがなかった。
同年代の男の子と遊んだこともないし、身近にいたのはずっとフィンリーだけ。
最近はシドニーもいたけど、彼はきちんと友人の線引きをして触れる人だったから不快に感じたことはない。それに今までダンスのエスコートくらいでしか他人に触れられたことがないのだ。もしかして…とてつもない箱入り令嬢だったのかもしれない?と自分の境遇を考えて乾いた笑いが口から出た。
「仕方ないじゃない、来年成人を迎えるような男の人に…こんな風に触れられたのは初めてなんだもの、相手は弟だけど………」
これから一年一緒に暮らすのだ、こんなドキドキしてたら体がもたない、でも心臓が苦しく鳴るのだ。
「わたくし…どうすればいいの…………?」
自分の体をぎゅうっと抱きしめてベッドに体を倒した。
今日の事も昨日の事も忘れようと、どちらも不慮の事故なのだと。
そう言い聞かせて。
(こんな所で男の人に育った弟の成長なんて知りたくなかったわ……ほんとにっ!)
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