#7 勇者パーティー 襲来!!
えっと、皆さんにご報告があります。非常に大変な事態です。なんと、うちのクラスに特別職持ちが出現したとのこと。さっき、特別職持ちの数は日本で30もまだ確認されてないと記事で見たんだけど。
特別職は30にとどまらず、まだまだ現れると思うが、仮に、日本の人口を1億4000万人、日本で1000人特別職持ちがいると仮定しよう。そうすると、自分が特別職を引ける確率は、
1000÷1億4000万×100=0.0007143%
ということで、自分が特別職を当てるには宝くじ並みの天文学的確率を引かないといけない。ただの馬鹿だろ。
だが、うちのクラスに特別職が現れた。3人も。
……はい? 3人?
そう、3人もいるのだ。1人でも相当ヤバいのに、3人も現れたってどういうことだよ。日本政府から魔王倒せと呼ばれるんじゃないか?
まぁ、細かい事はいいとして特別職を持っている3名の選手をご紹介しよう。
まず、女子たちに囲まれてるあのチャラい高身長のイケメン、清水健一選手。
運動神経全振りにしてるステータスをしており、バスケ部をたった一人でインターハイを準優勝させたアホみたいな実績を持っている。
彼の特別職は『剣闘士』。物理火力型で強そうだ。RPGって結局、何も考えずに脳筋で高火力出し続けるのが一番強いからな。
次に、男子達に囲まれているあのお人形さんみたいな女子、西村望選手。
普段は本を読んでいることが多く、大人しめの性格だが、成績は常にトップクラスで谷口さんの次に可愛いと定評がある。
男子の流れが完全に谷口さんの方へ持って行ったが、特別職持ちということで注目が一気に西村さんの方に集まり、ご覧の光景である。
彼女の特別職は『賢者』。多分、僧侶と魔法使いの合体版。名前からみて、こちらも特別職の中でもかなりガチの方だろう。
最後に男女から一歩目を置かれるほど圧が凄いあのイケメン眼鏡男子、山本雄大選手。クラスの学級委員を務めており、谷口さんの男バージョンみたいなスペックをしている。彼の特別職は『勇者』。
……はえ? 『勇者』?
勇者って、あれでしょ。世界救うんでしょ? なるほどね、ふむふむ。もう驚きを通りこうして笑っちゃうね。
成程ね、そういうことか。うちのクラスに3人も特別職がいた理由。
この3人は勇者パーティーの一員なんだ。
いつかラスボスの『魔王』や、裏ボスの『創造神』を倒すために用意されてそうな職業だよね。
というか、世界中でうちのクラスが勇者パーティとして選ばれるとか凄い確率だな。この人達が世界救ったら、『俺のクラスメイトが世界救ったんだぜw』と威張れるじゃん、やったね。まぁ、勇者パーティ自体は他にもいっぱいいるかもしれないけど。
それにしても何かが引っ掛かる。勇者パーティと名乗るには、この3人だけでは何かが物足りないような。
「なぁなぁ、うちのクラスで3人も特別職がいるんなら谷口さんも持ってるんじゃないか!?」
「そうだな!あの3人であれほど凄い特別職を持ってるなら谷口さんはもっと凄いものを持っているに違いないよな!」
そっか、谷口さんがまだいた。
清水さん、西村さん、山本さんも充分に化け物だけど、この3人を軸に頂点に立ってる人物があの谷口さんだからな。谷口さんではなく、山本さんが『勇者』なのは少し気になるけど。
彼らが特別職持ちで、彼女だけ特別職持っていないのは、正直考えにくい。やっぱり勇者パーティは4人いないと駄目だよね。3人だと何か足りないと感じるわけだ。
「よし、みんなで谷口さんの特別職を当てようぜ。当てた奴に、1円上げるわ!」
「まじっ!?滅茶苦茶1円欲しいのだけど! よっしゃ、絶対に当ててやる!」
勇者パーティのバランスを考えて、『大魔道士』に1票で。
ガラガラガラ……
教室の入り口の扉が開く。遅刻ぎりぎりの谷口さんがやって来た。クラス中の注目が一気に彼女に集まる。
というか、滅茶苦茶疲れてそうな顔してる。もしかして、帰った後もずっと一人で授業作りしてたのか?
もしそうなら、もうお疲れ様としか言いようがないです、はい。
「えっと……みんなどうしたの?」
「谷口さん! 谷口さんの特別職って何でしたかっ!?」
さっき賭けてた奴が質問に迫る。どうしても1円が欲しいようだ。
「えっと……特別職?」
「はい! 一部の人は、基本職6種類以外に特別な職業が1つ選択肢にあるそうです! 谷口さんは何か特別職ありませんでしたか!?」
「ちょっと、調べてみるね。えっと……」
セレクト画面を開き、職業選択の一覧を見つめる谷口さん。その姿に誰もがはらはらさせながら、彼女を待つ。
「うーん、私には無かったみたい。」
「へ?」
「基本職の6種類しか選択肢なかったよ。ほら。」
「ほ、本当だ……!」
まさかの事態に周囲が騒めく。
谷口さんに特別職は与えられなかったか。意外だな。
てか、全然意外じゃないか。0.0007143%だもんな。普通に考えて、持ってた方がおかしかったわ。
それでも、谷口さんの取り巻き3人が特別職で、谷口さん本人が特別職持ちじゃないのは、やはりなんか違和感ある。
もしかしたら、谷口さんは秘められた凄い特別職を持っていて、絶体絶命のピンチの時に覚醒するタイプなのかもしれない。
特別職持ちの3人は、パーティー勧誘の倍率が一気に高くなってきている。つまり、特別職持ちではない谷口さんの倍率が下がることを意味する。
「大丈夫ですって! 俺は谷口さんが特別職持ちじゃなくても、何とも思いませんから! 俺と一緒にパーティ組みませんか!?」
「いいや、こいつさっき望ちゃん勧誘してたので信用ならないっす! 是非俺と一緒に!」
「コイツら全員、望ちゃん勧誘してたから誰も信用できないぜぇ? だから人生で谷口さんしか見たことない俺と……」
ごめん、逆だったわ。逆に倍率が下がることを狙いにつけた男子達が谷口さんに猛アピールしているわ、コイツら。
それにしても、特別職持ちじゃなかったのに凄まじい人気だな。むしろ、特別職持ちではなかったからこそ、より親しみやすくなったかもしれない。
「なぁ、もし望ちゃんと谷口さんのどちらか1人仲間にできるとしたら、お前だったらどっち選ぶ? 強さだけを見て。」
「そうだな。普通の人なら望ちゃんだろうな。『賢者』持ちだし。だが、俺は谷口さんを選ぶ!」
「ほう、どうしてだ?」
「もしかすると、谷口さんは秘められた凄い特別職を持っていて、絶体絶命のピンチの時に覚醒するタイプなのかもしれないからな!」
自分と全く同じこと考えてる奴いたわ。
「そ、そんな……俺の1円があああぁ!!!」
お前はな何故そこまで根絶してる。
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5時間目、運命の時。
昨日は睡眠時間が少なかったため、授業中は寝ないよう、必死に堪えた。だが、この時間になると、流石に目が閉じずにはいられなくなる。自分の知識が谷口さんによって発表されることになるのだから。しかも、全校集会形式で。
学年全員、体育館に集合。全校生徒が体育座り状態。周りには教師全員が取り囲んでいる。恐ろしすぎる。
谷口さんに教えたのは全てゲームで得た知識だからな。そんなくだらない知識を進学校で発表って。公開処刑のレベルじゃないぞ、恥かしい。
自分の知識を貸していることは、内緒にしてほしいと、予め約束してるけど、それでも怖いものは怖い。もし、くだらない内容だと、生徒や教師が谷口さんを叩き始めたらどうしよう。あーどうしよう、気分が悪い。
『それでは、第一回特別講義を開始します。講演者は生徒会長、谷口彩香さんです。よろしくお願いします。』
『はい。』
ひぇえええ!