#1 宇宙人 襲来!!
初めまして皆さん。自分、松本直人と申します。しがない平凡な高校2年生です。
自分はなるべく早く起床し、朝一に学校に向かい、ホームルームが来るまで勉強することが日課になっています。
そこそこいい大学に入る為に、現在猛勉強中。そう、ゲームや漫画と言った煩悩は既に捨ててる身です。
今日も居心地が良い。天気が快晴だから東からお日様が照らしてるので、ポカポカしていてあったかい。思わず、居眠りしてしまいそうなので気をつけなければ。さて、もうひと頑張りするとしますか。
『ちーっっす! アタシ、遠い世界からやってきた宇宙人だよー! 地球人のみんな~やほやほー!
突然だけど、みんなに『お・ね・が・い』があるの♪
今から10日後にー地球をファンタジーの世界に改変したいんだけどいいかなー? まあ、断られても勝手にやっちゃうんだけどねーきゃはは、うけるー!
ファンタジーの世界はね、魔物が出たり、武具を装備してダンジョンに行けたりできるんだー! ゲームみたいでしょっ!? すごいすごい!
そこで地球人のみんなにはね、10日以内に職業選択してほしいんだー!
最初の職業は 「セレクト画面」 から選択できるよー! セレクト画面は出て来いと念じれば、出てくるよー!
10日以内に職業選択しないと、「無職」 になっちゃうから気を付けてねー!
それじゃあ皆、まったねー!!!』
「……はい?」
********************
もう一度言おう、自分は勉強が大好きでゲームや漫画とは無関係の人間だ。もし、現実世界がRPGになったら? など考えたことなんて決して無い。
え? じゃあ、さっきの幻聴は何なのかって? お前がRPGやりすぎて、理想と現実の区別がつけられなくなっているのかだって?
べ、べべ、別にそんなわけじゃないでしょう!? 何、勘違いしてるのかね、君たちは。困っちゃうなぁ、自分はゲームやラノベとかは無関係の人間って何度も言ってるよね? そもそも、もし、自分がゲームやラノベが好きなオタクだったら、こんな朝一で勉強するなんて、普通ありえないからね?
あー、うん。はいはい、分りましたー。
そこまで言うなら、試してやろうではありませんか。
あの舐め腐ったギャル宇宙人は出て来いと念じれば 『セレクト画面』というものが出てくると言ってたよな? ここで自分が念じてセレクト画面が出てくれば、自分が理想と現実が区別できていない精神病と認め、真っすぐ精神科に行こうではありませんか。
セレクト画面、出て来い!
そう念じると、机の上に散らかってる沢山の教科書やノートを覆い隠すように、半透明のモニターが出現した。
―――――――――――――――
職業選択をしてください。以下の職業の種類の中からどれか一つタッチしてください。
*一度選択すると二度と変更できません。ご注意ください。
・剣士
・魔法使い
・格闘家
・僧侶
・歌うんです
・盗賊
―――――――――――――――
えっと、皆さん。精神科の案内をしてもらってもよろしいでしょうか?
********************
はい、薄情させてもらいます。自分は毎日RPGのゲームやラノベを楽しんでる陰キャオタクです。騙そうとして本当に申し訳御座いませんでした。
朝早く来てこうして勉強している理由は、なるべく早く課題を終わらして、夜の自由時間を1秒でも多く増やしたかったからです。
これでも一応、就職という親孝行しようと、真面目に理想と現実は区別して活動してるつもりでした。適当に勉強して、適当な大学に入って、適当な場所に就職すれば良いと思っていました。
けれど実際、現実を思っていた以上に舐めていたそうです。
毎日できるだけ自由時間を作りながら人生をエンジョイしていたら、何時の間にか理想と現実が区別できない身体になっていました。ギャル宇宙人の空耳とセレクト画面の幻聴、これが唯一の証拠です。
皆さんの多大なご迷惑を元に、これからはゲームやラノベは封印し・ま・せ・ん⭐︎
ぜーったいに嫌ですー!!!
何で唯一の生き甲斐を捨てないといけないの? たとえ、精神病になろうとも、自分は絶対やめません。頼む、誰も止めないでくれぇ。
「うおお、ホントに画面が出てきたぞ! まるでファンタジーみたいだ! 見てみろよ!」
「え、何処にあるんだ?」
「ここだぞ! こ・こ! 目の前に『職業選択してください』って書いてあるじゃん!」
「は? 見えねぇんだけど。お前さっきから何で幻に指を指してるんだ?」
「幻じゃねぇわ! ちゃんと『いでよ、セレクト画面!』と念じたら出てきたんだって! お前もやってみろよ!」
「はぁ、ギャルみたいな宇宙人が出てきて、ステータス画面が出せるって夢みたいなこと言うなよ。ここは日本なんだぞ? 少しは現実みろよ……うおお!!! すげぇええ!!! お、俺の目の前にセレクト画面がっ! ありがとうございます! 宇宙人様っ!」
「てめぇ、俺の発言全否定しながら、さり気なく念じてるんじゃねぇよ! この宇宙人信者がっ!」
「宇宙人信者になって何が悪い! もし、宇宙人が侵略したら、なんと、学校が休校になるんだぞ!!!」
「た、確かにっ!? うおおおおお!!! ありがとう、宇宙人様っ!」
気が付くと、他のクラスメイトが教室に入ってくる時間帯になっていた。相変わらずうるさい奴らだ。少しは真面目に課題しているこっちの気持ちにもなってくれよ。
あれ? もしかしてだけと、あの二人って自分と全く同じ出来事を話していた? いや、まさかね。
嫌だ、信じたくない! 自分の精神病が他人の会話にも影響されているということを! うぐぐ、まさか知らない内にこんなに重症になってたとは。
そうだ、これは夢でも幻でもなく現実だ。まずは、夢ではないことを証明する。指で思いっきり顔をつねってみるとしよう。
いたたたたたたたたっ!
よ、よし、これで夢ではないはずだ。え? もっと思いっきり? う、うるさいっ! これ以上やったら腫れちゃうでしょ!? 絶対にやらないからね!
いーいたいいたいいたいいたいっ!!!
……と、とにかく、次は幻覚ではないことを証明する。
え? どうやって証明するかって?
ふっふっふ、いつでも、何処でも、そして誰とでも! ここが幻ではなく、現実だと完璧に証明できちゃうスーパーミラクル道具が自分の手元にあるんですよ! では、ご紹介しよう!
てっててーSNSぅー!
SNSで世界中からの声を聴けば、自分が幻覚なのか現実なのか確実に証明できる。さぁ、早速、周りで同じ事態になっているか確かめようではありませんか。
――――――――――――――
世界トレンド 1位:宇宙人襲来!!
『ギャルみたいな宇宙人の声が聞こえたんだけど病気かな?www』
『おい、未来のタブレット端末みたいなのが出てきたぞ!』
『職業選択の中に 「歌うんです」 という明らかに場違いなものあるんだけどwww』
『ああああ、宇宙人だぁぁぁ! 人類は終わりだぁあああ!!!』
――――――――――――――
「………」
あのー、もしかして本当に現実ですか?
********************
どうやら、宇宙人が襲来してきたことは夢でも幻覚でもなく、本当に現実らしい。ほら、今、朝のホームルーム前なんだけど、クラス中で宇宙人の話題をしてるでしょ?
よかった、精神病じゃなくて。いや、よく考えたら全然良くないじゃん。
宇宙人が『地球をファンタジーみたいな世界に変えるぜ!』とか物騒なこと言ってたよな?
クラス中で『学校が休校になるぞ!』と盛り上がってるけど、普通に宇宙人が声掛けてきたんだぞ。
最悪の場合、宇宙人が人類を対象に襲撃してくるかもしれない。人類にとって緊急事態じゃないのか?
コイツらは何でそんな平気な顔で盛り上がってるんだ? 怖いもの知らずにも程があるぞ。
わんちゃん、コイツらなら宇宙人相手でも勝てるんじゃないか? 自分はこの人たちとは違ってちゃんと『危機感』を持っているというのに。
あと、学校の休校は学生にとっては幸せなイベントなのかもしれない。
だが、考えてみてほしい。休校が1日入るということは、遠い日の休日に『補講日』が追加され、学校に行くことが強制される事を意味する。
休日に学校行くこと以上に嘔吐する出来事なんて、この世に存在しないだろう。
自分にとって、人類の緊急事態なんて『どうでもいい』から、学校が休校にならないかを祈るばかりである。