苦労はしないさ
「おいアンタ・・・『元』勇者さんかァ?」
怪しげな男について歩いていると、前方から声をかけられた。
明らかにガラの悪い男五人組だ。
俺を先導していた怪しげな男が、『ひっ』と短い悲鳴を上げて俺の後ろに隠れた。
「そうそう、俺が『元』勇者様です。何お兄さんたち、俺そんな怖い顔される覚えないんでせけど」
「そっちにはなくても、こっちにはあるんだよ」
リーダーっぽい男がそう言うと、それに合わせて周りの男たちが笑った。ニタニタと、嫌な笑い方だ。
「めんどくせぇ」
俺に直接恨みがあるのか、恨みがある誰かに他もまれたのかはわからないが、黙ってここを通すつもりはなさそうだ。
「わかった、相手してやるからとっととこいよ。ほら、ほら早く来い」
軽く挑発してやると、リーダー以外の男たちが各々の武器を構えて、俺に向かって走ってくる。・・・まっすぐ、一直線に。なんとわかりやすい動きだろう。
最初の男はナイフ。次の男はオノで、次は拳。
そんな感じで、順番に大きく獲物を振り下ろしてくる。
「はぁ・・・」
俺はため息をつきながら、そのすべてを紙一重で躱して見せた。
そうすると、男たちは自らの勢いを殺しきれずに転んでしまう。・・・バカ丸出しだ。
「なんだよ、情けない奴らだな」
それを見ていたリーダーがため息をつく。
「だってよ~」
転んだうちの一人が情けない声を上げてリーダーを見る。
「さすがに無理があると思うんだぜ?元勇者を倒すなんてよ」
「バカ野郎が。いくら元勇者と言ってもこいつは名も知れない男に負けた雑魚なんだぜ?・・・まぁ、お前らはもう黙ってみてろや」
その声を聴いて、転んでいた男たちがゾロゾロと引いていく。俺はそれを止めることもなく黙ってみていた。
わざわざ止めることはない。というか相手もしたくない、面倒くさい。
・・・と思っていたのだが。
「見てろよーお前ら。この俺が勇者を倒す瞬間・・・をっ!!!」
リーダーが不意に、目の前の『空間』を殴りつけた。
「ぐっ・・・っ」
その瞬間・・・俺の顔に鋭い痛みが走る。
右手で触って確認してみると、鼻から血が出ていた。
・・・おかしい。何が起こった。リーダーが殴りつけたのは何もない空間だ。そもそも俺に拳が届くような距離じゃない。
恨めし気にリーダーを見ると、そいつはニタリと笑った。
「驚いたか?こいつが神様に与えられた俺の『ギフト』だ。お前にはない代物だな」
得意げに、自慢げに、男は笑った。
「この俺様は、見えてさえいれば遠くにいる相手でも触ることができる」
「なるほどな、遠くのものに触れる、ね。たったそれだけか」
そう言い放つと、リーダーはあきれたような顔で俺を見た。
「たった?それだけ?ーーーはっ。わかってんのか?このギフトがあれば、俺は一歩も近づかないでお前のことを殴り殺せるんだぜ?」
「そうかい、可能だってんならやってみな」
「なら遠慮なく、やらせてもらうぜっ!」
軽く挑発してやると、男は先ほどと同じように眼前の空間を殴りつける。・・・が、今度は俺の体のどこにも痛みはなかった。それどころか、痛みを受けたのはーーー
「ぐはっぁ!」
ギフトを使ったリーダーの方だ。
「バカが」
そう吐き捨て、俺は一気に距離を詰める。
そして、拳を押さえ痛みに悶えるリーダーの腹に一撃を入れる。
その一撃だけで、悲鳴を上げることもなく巨体が沈んだ。
「触れるだけで勝てるんなら、だれも苦労はしねーよ」
地べたに沈んだリーダーに声をかけるが、無論反応はない。
「それで、お前たちはどうすんだ?」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
少し睨んだだけで、残りの男たちはいっせいに逃げ出していく。気絶したリーダーを置き去りにして。
「やややっ!さすがは勇者様!!!」
「元だよ、元」
隠れていた怪しげな男がひょっこりと出てくる。
「いやはや・・・・わかりませんな。なぜ男の方が痛がってたのですか?」
「簡単な話だよ、魔力で体全体を強化したんだ。・・・つまりあいつは、固い地面を思いっきり殴ったみてーに自爆したってわけ」
軽い挑発に乗り、相手の状態も見ないからバカを見る。観察なんてのは戦いの基本だというのに。
「それよりさ、早くいこう。大分時間を使ったしさ」
「ほいさー!」
男は元気よく返事すると、謎のステップで進み始めた。
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