イライラの頂点
「・・・」
イライラする。頬杖を付き、無意識に踵を何度も床に打ち付けてしまうほどに。
イライラする。とりあえずイライラする。
意味もなく立ち上がり、部屋の中をぐるぐると回ってみるが・・・なんの効果も得られなかった。
なんでこんなに心が荒れているのか。その理由はきっと簡単だ。
ーーー元勇者とフェルンが『デート』に行ったから。
それ以外に、昨日と今日で違うところはないんだから、理由はそれしか考えられない。
「・・・よし」
家から出よう。気分転換に散歩の一つでも。
ずっと椅子に座って、同じ場所ばかり見ているから余計に気が滅入るのだ。
そう思い、家の扉を開けると・・・
「およ?」
・・・『知らない男』が、驚いたように私を見ていた。
「君が噂の奴隷ちゃん?」
問いかけて来たくせに、私の返答なんてお構いなしに男は言葉を続ける。
「あのヘタレ勇者の『モノ』だって聞いてたから、どんなブスかと思ってたけど・・・案外かわいいじゃん?」
男はクイっと、私の顎を持ち上げる。
・・・なんだこの馴れ馴れしい態度。ムカつく。ただ単純にムカつく。
「あんたね・・・」
大声で怒鳴って、文句を言ってやろう。そう思った時。
「やめないか、アオイ。その行動は勇者らしくないな」
男の後ろから、声が聞こえてきた。声の主はヴィルラド。そしてその横にいる女性はシュトラ。
・・・そう。私の顎を持ち上げたのは現在の勇者で、この人たちは名誉ある勇者パーティの方々だ。
「もぉ、そう固いこと言うなよな。これだから貴族さんは」
現勇者は肩をすくめてから、再び私の方を向いた。
「なぁアンタ、俺の『女』にならないか?・・・っても、アンタに決定権なんてないんだがね。あいつのモノはぜーんぶ俺っちのモノだからね、今も昔も」
・・・その時、私のイライラは頂点に達した。逆に変な笑いが出てくるほどに。
「バカっぽい顔をしているとは思っていたけれど、口を開いてみてもやっぱりバカなのね。おバカな勇者さん?」
あざ笑ってそう言い放つと、勇者の顔が不機嫌そうに歪む。
「・・・は?」
「あーあ。そこの奴隷の言う通り本当にバカだなアンタ。楽しいことしに行くってウキウキで言ってたからついてきたけど、よ。こりゃ失敗だったな」
後ろにいたシュトラがわざとらしく肩をすくめて見せる。
勇者の顔がどんどんどんどん歪んでいく。その怒りは当然、すべてが私に向けられている。
鋭い目つきで睨まれる。彼の優しい目つきとは正反対だ。
この世界にきて、何の苦労もせずに勇者となり、簡単に彼の全てを奪ってしまうような男。彼の苦悩も、努力も、一つとして知りもしないし興味もないのだろう。
「たかが奴隷のくせにさ、ちょっと顔がいいからって調子乗りすぎじゃね?」
「私程度の顔がいいなんて。あんた恋人の一人も出来たことないんじゃないの?・・・ま、脳みそだか犬のふんだかわからない頭の中してるようじゃ仕方ないでしょうけどね。パっと出てきて勇者になって全部がうまくいって、いい気になってのぼせてるところに悪いんだけど、いきなり気安く話しかけてきて、女性の顔に触るなんて完全にアウトだから。そんなんじゃ一生モテないわよ?」
早口でまくし立てる私を、勇者パーティの皆々様はポカンとした様子で見ていた。
「あらごめんなさい。私ったら心も口も素直すぎるので、ついつい思っていることをそのまま言ってしまったわ。非常に申し訳なく思っています」
わざとらしく口元に手を当てて、バカっぽい顔をして見せる。
言い過ぎたかな・・・とも思ったが、まあいい。きっと、こんなことを現勇者に言える機会はこれだけなのだから、今までためていた気持ちを全部吐き出してしまえ。
「ー--っ!このクソアマがッ!!!」
沸点の低い現勇者は、ついに我慢の限界といった様子で、拳を振り上げる。
しかしその拳が、標的である私に届くことはなかった。
「いかんな。簡単に女性に手を挙げては」
ヴィルラドが、現勇者の腕をつかんだからだ。
現勇者は、顔を真っ赤にしながら抜け出そうともがくが、ピクリとも動かない。
対するヴィルラドの表情はとても涼しげだ。
「力ですべてを解決しようとするのは野蛮人のすることだ。栄光ある勇者の取るべき行動ではないと知れ」
つかんでいる腕にさらに力を込める。メキメキという嫌な音が私の耳にまで届いてきた。
「あーもうわかったって!ギブギブ、降参だよっ!」
その言葉を聞くヴィルラドはつかんでいた手をあっけなく話した。
現勇者は赤くなった腕をさすりながら、激しくヴィルラドを睨んだ。
「あーもう台無し、最悪だよ。部屋でAV見てたら親が勝手にに入ってきたみたいな気分だ」
そして、よくわからない言葉を吐き捨てて、どこかへ去ってしまった。
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