いい加減
家の外に出ると知らない奴らに絡まれる、したがって必要以上の外出はしない。かと言って、家の中ですることもないので・・・。
「・・・何よ」
今日も今日とて、不機嫌そうな顔をした奴隷の彼女を眺める。
とても整った、美しい顔立ちをしている。ほんの少しくらい、笑った顔を見せてくれてもいいのに。
・・・そういえば、笑った顔どころか、不機嫌そうな顔以外一つも見たことがない。
まあ仕方ないか。俺は彼女に嫌われているんだから。
「あなたもしかして、今日も一日そうしているつもり?」
彼女の問いかけに、俺はだまって頷く。
「・・・あなたねぇ」
奴隷の彼女が深いため息を吐いたとき。玄関からノックの音が聞こえてくる。
・・・この家に来訪者が来るのは二回目。一度目の来訪者はミリエラだ。
自然と顔が強張ってしまう。
「なに怖い顔して突っ立ってんのよ。早く行ったら?・・・勇者のくせにどんくさいのね」
「はいはい、わかりましたよ。それと、『元』勇者な」
俺は玄関へと向かった。
☆
「わー!ここが勇者さんの新しいおうちっ!!!・・・ということは、ここで毎日奴隷さんとスケベぇなことをばーーーって痛いっ!?」
変なことを言い出したフェルンにチョップをお見舞いする。果たして彼女は昔からこんなキャラだっただろうか。
「バカなこと言ってんなよ。今日は何しに来たんだ?」
「それがですねー・・・」
先ほどのテンションはどこへやら。彼女は僅かにうつ向いて、手をもじもじさせた。
「ほ、本日はっ!!!」
やがて、意を決したように俺の顔を真っ直ぐ見ると。
「おデートのお誘いに上がりましたっ!!!」
頬を真っ赤に染めて、そういった。
「デート?俺とお前が?」
フェルンの発した言葉の意味はきちんと分かる。・・・が、それでも理解できない。俺とフェルンがデートするという状況が。
「デートって言っても、そんなたいそうなモノじゃないよ?ただ今日は久しぶりに何の予定もないから、暇つぶしに付き合ってもらおうと思って・・・」
「なんだ、そんなことか。デートだなんていうから身構えちまったよ。・・・それだったら」
俺は奴隷の彼女を見る。すると彼女は・・・
「私はいかないわよ」
俺の言葉を先読みして、そっぽを向きながらそう言った。
「いいじゃないか別に。今日も家でジッとしているつもりだったんだろ?」
「・・・それだとデートの意味がないじゃない」
彼女がボソッと何かを呟いた。
「なんて?」
「と、に、か、く。私は絶対行かないから」
「でも・・・」
あんまり、長い時間彼女を一人にしていたくない。もしまたミリエラの時のようなことがあったら・・・。
「・・・っ、でもじゃないっ!いい加減一人でゆっくりさせなさよっ!!!」
奴隷の彼女が不意に大きな声を上げる。
「今でこそマシになってきたけど、女盗賊とのことがあってすぐの頃はあなた、私がお手洗いやお風呂の時も扉の前でジッと待っていたでしょう!?」
席を立ちあがり、俺の方に詰め寄ってくる。
「もう一度言うから、ちゃんと聞いておきなさい!」
ビシッと人差し指を鼻の頭に突きつけられる。
「いい加減!一人で!ゆっくり!させなさいっ!!!」
「・・・はい」
彼女の圧に押され、俺は頷くのであった。
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