いきなり過去編突入 1
勇者。
俺はそう呼ばれた。
呼ばれ続けてきた。
俺の名前を呼んでくれるのは、思い出の中のお父さんだけだ。
そんな父も数年前に他界した。母は俺を生んだ時に命を落としたらしく、声も知らない。
しかしそれをあんまり悲しいとは思っていない。薄情かもしれないが、母とは会ったことがないし、父も幸せそうに逝けたから。
・・・とにもかくにも、俺は両親を失ってから、『俺』ではなく『勇者』になった。
普通の子供のように遊んだことはなかった。来る日も来る日も魔法と剣の勉強。
でも、それがつらいことだとは不思議と思わなかった。・・・ま、普通に遊んだことがないから、普通に遊ぶ楽しさを知らなかっただけなんだけど。
そんなこんなで、毎日魔法の勉強をし、剣の稽古をして。
そこそこの年になったところで、王都に行ってこの国の王様に会った。
教会の爺が先に王様に話を通していたようで、俺と王様の初対面は滞りなく進む。国の成り立ちとか、魔物の卑劣さとか、あんまり興味のない話ばかりだったが。
ーーー長くてつまらない話のあと、俺は『仲間』と出会った。勇者パーティのメンバーだ。
一人目は金色の髪の女性。男みたいな喋り方が特徴で、一人称は『オレ』。名前はシュトラ。
二人目は、これまた女の子。ピンク色の髪をした優しそうな子だ。名前はフェルン。
そして最後は長髪で黒髪の貴族、名前はヴィルラド。貴族だというのに鼻につく感じがしない、気さくないい奴だ。
・・・仲間といっても、俺はみんなのことをよく知らない。そしてみんなも、俺のことをなんにも知らない。
そんな俺たちの夢はでっかく平和な世界だが、取り敢えずは町の近くで悪さしている魔物の退治や、柄の悪い盗賊団のお仕置き、簡単なダンジョン攻略から始めた。
さすが勇者パーティと言ったところか、いやはやみんな強い。
魔力の量や戦闘技術はさることながら、目を見張るべきはその『ギフト』だ。
ギフトとは、神様からの贈り物。簡単に言えば、先天的に生まれ持った特殊能力といったところか。
無論、誰でも持っているわけではない。ギフトをもって生まれるのは数万人に一人と言われている。
ギフトの内容にも様々なものがあり、植物と話せるようになるとか、明日の天気がわかるとか・・・戦いに向かないものも当然ある。
ギフトを授かり、さらに戦闘向きな特殊能力・・・いったいどれほどに低い確率なのだろうか。
勇者パーティであるみんなの『ギフト』はすさまじいものだった。
まずはこのパーティの癒し担当のフェルン。彼女の持つギフトの名前は『天使の指先』。彼女が指先で触れれば、どんな大けがでもすぐに治ってしまうそうだ。
その奇跡を目の当たりにした人は口々に言う。怪我を治しているというよりは、時間を巻き戻しているようだったと。
次に貴族のヴィルラド。彼の『ギフト』もすごい。彼の能力は、相手の嘘が分かるというものだ。
一件地味に見えるかもしれないが、とても強力だ。知能が高い魔物は会話もできるし狡猾に嘘も吐くのだから
そして次に、シュトラ。彼女の『ギフト』は・・・すいません、彼女の能力は知りません。
『あ?オレのギフト?・・・いくら大将が相手でも簡単に教えてやんねーよ。オレを他のお人好きしと一緒にすんなよな』・・・とは彼女の談。
なるほど、理解できる。信用しあうというには、俺たちの時間はあまりに短い。
それに、彼女はギフトなしでも十分に強い。そのナイフ捌きは圧巻の一言だ。
・・・ここまでは俺の頼れる仲間を紹介してきました。
大変長らくお待たせいたしました。待ちに待ったおおとり、勇者パーティの心臓、この世界の救世主、神の使い。
そんな勇者の『ギフト』はーーー。
ーーーなんにもありませんでした!!!
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