不穏な空気
ーーー家に侵入するのは難しいことではなかった。
すでに下見はしていたし、前回来た時に軽い細工もしてあった。
何よりここは、元勇者が住まうにしては平凡すぎる家だ。どこかの富豪の家に侵入するよりも数倍は楽だろう。
家の主は今、女とのデートをしている。しばらくは時間があるはずだが、かと言って時間は有限。モタモタしている理由は無いし、そもそも私の性分じゃなかった。
・・・迷うことなく家の中を進み、目的のものがある場所まで移動する。
そして、小さな箱を手に取ると、思わず笑みが零れた。
「バカよねぇ。勇者なんてただのバカなお人よしなんだから」
その箱には、元勇者が父からもらったという指輪が入っているはずだ。
希少な石を使っているとも言っていたし、何より勇者の持ち物、その価値はさらに上がるだろう。
ニヤついた顔のまま箱を開ける。するとそこには。
光輝く、勇者の両親の形見の指輪がーーー
「ーーーは?」
存在しなかった。
「探し物は見つかったかしら?」
背後から声を掛けられる。
慌てて振り返った私の視線の先には。
「ミリィ・・・いいえ。ミリエラ・ガーターさん?」
元勇者が先日買ったという、奴隷の女がいた。
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