『だれか』との思い出
翌日。運命の日。
俺のーーー初デートの日。
奴隷の彼女を連れて家を出てたった数歩でその足取りが止まってしまう。
・・・デートって何すればいいの?
それは当然の疑問であった。デートなんてもちろん、女の子とまともに話したことなんてほとんどない俺にとって。
右にも進めないし、左にも進めない。前はもちろん後ろにも。
可愛い女の子とのデート。俺と奴隷の彼女の関係を考えれば、煌びやかなものになるはずなんてないのに、その言葉だけで俺は委縮してしまう。
「はぁ」
そんな俺を見て、彼女は深いため息を吐いた。
「大丈夫よ。あなたみたいなポンコツ勇者に最初から期待なんてしてないわ。ーーー行きたいところがあるから、ついてきてくれない?」
彼女はそういうと、歩き出す。
俺のことなんて無視した歩調で・・・はなく、俺が付いてくるのをちゃんと待ちながら。
それから、俺と彼女はいろんなところを周った。
様々なお店に入った。だけど彼女は何かを買ってほしいなんて一度も言わなかった。
様々な場所に行った。だけど、どんな場所でも彼女が駆けだすことはなかった。思い出を語ることもなかった。
・・・俺たちの間に、会話なんて少しもなかった。
彼女は様々な場所で、様々なお店で、なにかを懐かしむように、抱きしめるように目を細めていた。・・・初めて見たよ、そんな表情。
俺はそんな彼女を眺めていることしかできなかった。
・・・もしかすると、今日彼女が周った場所は、昔想い人と歩いた場所なんじゃないだろうか。
彼女は俺を置いていくことはなく、時々立ち止まっては、俺が追いつくのを待ってくれた。ーーーだが、並んで歩いてはくれなかった。
きっと彼女の隣に並ぶべき人が、別にいるんだろう。それが少し悲しかった。
俺は彼女の恋人なんかじゃない。彼女の人生をたった数枚の金貨で買っただけの人間だ。隣を歩くなんて、きっとできない、彼女には嫌われてしまっていることだし。
だけどせめて、知っていたいと思った。
彼女が何で俺をあんなに嫌っているのかを。
今日は一日、どんな思いで歩いていたのかを。
そして・・・彼女はなぜーーー奴隷になったのかを。
「なぁ」
少し先を歩く奴隷の彼女に呼びかける。
「なによ」
振り向いた彼女は、いつものように不機嫌そうな顔だった。
「教えてくれないか?君の・・・これまでとこれからを」
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