名前のない勇者
俺には名前がない。
「それじゃあ後のことは俺に任せて、隠居生活を送ってな」
こんな人生を左右する大切な場面ですら。
「バイバイ、『元』勇者さん?」
本当の名前を、呼んでもらえないのだから。
ーーーその日俺は、勇者でありながら、勇者パーティを追放された。
☆
勇者パーティを追放されたままの足で、行きなれたお店に入ると。
「いらっしゃーい・・・って、一人?」
名前までは知らないが、顔見知りの店員が話しかけてくる。この店の顔と呼ぶべき女性だ。
「あぁ、今日は一人だ」
「どうしたのよ、世界を救う勇者様がそんなしけた顔しちゃってさ」
あぁ、ここでも思う。俺には名前なんてない。あるのは勇者なんてたいそうな肩書だけだ。
「・・・もう勇者じゃないんだよ。残念ながらな」
「なによ、訳あり?」
俺はコクリと頷く。
余程深刻そうな顔をしていたのだろうか、彼女は優しく笑った。
「名前も知らない仲だけど、愚痴くらい聞いたげる。深くないからこそ、大切な関係ってやつもあるじゃん?」
そういうと、彼女は俺を奥の席に案内した。
ちょっと待っててねと微笑み、そのままどこかにいってしまう。
誰にでもフレンドリーに接することができるのが、彼女が人気の理由だと昔誰かが言っていた。
その誰かとは、二度と会うことがないんだろうな。なんせ俺はパーティを追放されたんだから。
そう考えると、どうしようもない虚無感に襲われる。
ーーーそんなことを考えていると、私服に着替えた彼女が俺の前の席に座った。
「おまたー」
「そんなに待ってないけど」
「かー!さすが勇者様はお堅いねー」
「もう勇者じゃないんだよ」
「そうそうそれ。一体全体、なんでそんなことになったのさ」
「もう仕事はよかったのか?」
問いかけると、彼女はグっと親指を立てる。
「勇者様に指名されたって言ったら店長が行って来いって。勇者様待遇ってやつだよ兄貴」
「だから俺はもう勇者じゃ・・・って、それはもういいか」
「で?それでそれで?」
彼女が目をキラキラさせながら身を乗り出してくる。
「もう勇者じゃないって、その言葉の通りだよ。勇者パーティを追放されたんだ」
ありのままを伝えると、彼女は納得していない様子で首を捻った。
「追放って、あのパーティはあなたがボスだよね?あなたが勇者なんだし。誰があなたを追放になんてできるの?」
「んなもん、新しい勇者に決まってんだろ」
「ん?んー?ちょっと待ってね。確かあなたは、生れたときに、『君は勇者だ!いつかこの世界の闇を暴き、光で包み込むだろう!』って言われたんだよね?」
「うん、そう。大体はそんな感じ」
俺には神託があったという。
教会のとても偉い人が、生れたばかりの俺を見てそういったのだとか。
神の使いだとか、勇者だとか、暗闇をはらうとか、そんなん。
もちろん俺はまだおぎゃおぎゃ言っていたころだし、1ミクロンも記憶にない。
物心ついてから会った教会の鰓人とやらは、腰が直角に曲がった爺だった。半分ぼけてて、その辺の赤ん坊に適当なこと言ったってのが俺の見解。
・・・教会の偉い人を『半分ぼけてる』なんていってんだから、俺に信仰心なんてかけらもない。そんな奴が神の使い~なんて呼ばれてるんだから笑わせる。
「あなたが追放されたのなら、誰があなたの代わりになるのさ。勇者はあなた一人じゃないの?救世主が何人もいたら意味がないし。新しい勇者だなんて胡散臭ーい」
「ま、そう思うよな」
俺は彼女が持ってきてくれた飲み物を飲み込み、深く息を吐いた。
「それじゃあちょっと長くなるけど、全部話そうか。・・・愚痴、聞いてくれるんだよね?」
問いかけると、彼女は笑顔で頷いた。
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