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ゆめいろジャンピング  作者: 水平リイベ
4/15

合格してから自己紹介

「はーい、じゃあここにいる子全員合格ね!それじゃあ自己紹介をはじめましょうか、まずは俺、早原トオル二十七歳、これが音楽プロデューサーとしての初仕事です!てへっ、みんな〜トオルPって呼んでネッ」


 全然可愛くない舌ペロてへっをしたパイナップルプロデューサー改めなんとこれが初仕事だというちょっと心配になるような言葉を発したトオルPは、私たちにもそれぞれ自己紹介をするように促して、パンパンと手を打った。


「えー、そんなことしなくてもみんな顔見知りなのに……」


 最年長、中三の十四歳ということで、まずはぶつくさ文句を言っているノノからそれは始まった。


「えーっと、みんな知っているだろうけど、結城ノノです‥‥‥中三十四歳、以上!」


 あっさりと手短な自己紹介を終え、ふーっとため息をつきながらどすんと座布団の上に座り込んだノノを見て、トオルPは何だか不服そうに唇を尖らせている。


「えー、それでいいの結城ちゃん?これから始まる一大プロジェクトの幕をあげる自己紹介なんだよーもうちょっと意気込みでも付け加えてよぉ」


 ガラガラ声に似合わぬかわいい口調で注文を付けるトオルPをギロリと横目でにらんでから、ノノはもう一度重い腰を上げて「はーい、がんばりまーす、えいえいおー!」と、ふらふらと右手を上げてまたぺたんと座り込んだ。

 トオルPはまだ何か言いたそうに口をもごもごさせていたけれど、これ以上の争いごとを避けたいと思った私は、その口が動き出す前にパッと立ち上がって自分の自己紹介を始めてしまった。


「はいっ!花池このは中二の十三歳ですっ、えーっと、アイドルだとか考えたこともなかったけど、うん、みんながんばろー!」


 わざとらしいガッツポーズの後に続くのは、きらりちゃんの抜けた中学一年生カルテット。


「えっと、牧山まつりです‥‥‥ちゅ、中一十三歳、あの‥‥‥あの‥‥‥」


 おどおどもじもじして涙ぐむまつりちゃんの腕をぐっと引いて座らせたのは‥‥‥

「前田アンナ十二歳!踊るのが大好きで、まつりを誘ってこのオーディションに来ました!がんばります!」


 スポーツが得意で、小学校のときから三重飛びができるほどの縄跳び名人のアンナちゃん。


「小杉ゆうり十二歳、よろしくです」


 ぼやーっと短いあいさつで切り上げるマイペースなゆうりちゃん。


「小杉まや十二歳、ゆうりが来るから来ました」


 同じくやる気のなさそうなぼやーっとした挨拶で最後を締めるのは、ゆうりちゃんの双子の妹のまやちゃん。


 総勢六人のいちいち名乗りあったりなんかしないでも子供のころからよく知っている同士の自己紹介は、なんてこともない感じで無事に終わった。

 トオルPはそんな私たちをちらりとも見ずに何だか難しい顔で机の上のメモに何かを書いている。

 テーブルの上にあるお茶うけの豆菓子を取るついでにこっそりのぞきこんでみると、そこには私たちの詳細なプロフィールとかじゃなくて、ピョンピョンとはねて踊るうさぎっぽいイラストがめっちゃ微妙なタッチで描かれていた‥‥‥


「はい、じゃあ今日はこれで終了ね、これから土曜の午後と日曜日はデビューに向けてのレッスンになりまーす、みんな体操着を用意するように!ほんじゃま、かいさーん」


 トオルPはイラストのメモをくしゃくしゃに丸めてパイナップルシャツの胸ポケットにしまうと、くるりと背を向けてぷらぷらと手を振って私たちに帰るように促したのだった。


「なんか、拍子抜けしちゃったねー」

「うん、メインイベントはきらりママが切れてるとこだったかもね」

「あはは、月曜日に学校で会ったら、きらりめっちゃへこんでるかもねー」

「いやー、私はやっぱりアイドルよりも出る向きだー次は読モにチャレンジだって開き直ってるよ、きらりのことだもん!」

「違いない」


 一年生カルテットはがやがやと雑談しながら豆菓子をぐわっと掴んでぽーんと口に入れ、さっさと家に帰ってしまった。

 けれど、私とノノはお父さんズを待っていっしょに帰らなければならないため、トオルPとお父さんズが集会所の隅で何やらこそこそと話し合っているのを、お茶を飲み飲みぼけーっとしばらく待っていた。


「ねー、このは、みんなやる気なさそうだったけど、大丈夫かね、コレ」

「あー、そーねー、まぁ、ウチらもやる気の欠けらもないけどね」

「そりゃそうだ、ぷぷっ」


 クスクス笑い合っているうちに、いつの間にかお父さんズは車のキーを持って私たちの前に立っていて、トオルPの姿は影も形もなくなっていた。


「よーし、ノノ、このはちゃん、今日はお疲れだったな!せっかくだから合格祈念にもちまるやで焼肉でも食ってくか!デザートのタピオカプリンパフェもつけちゃうぞ!お母さんには食べてくるかもって電話してあるしな」

「わー、お父さん今日は気前いいじゃん!行く行く!」


 名ばかりのオーディション合格のお祝いに焼肉に連れて行ってもらえることになり、ノノは飛び跳ねそうになって今日一番の笑顔を見せていた。

 もちろん私も、わずかな豆菓子とお茶でふくらませていたお腹にガツンとしたものを入れたくなっていたので、いっしょにワイワイ喜んで、お父さんズと私とノノはノノのお父さんのミニバンで国道沿いの焼き肉屋のもちまるやへと向かった。




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