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ゆめいろジャンピング  作者: 水平リイベ
3/15

ローカルアイドルオーディション⁈

 そして三日後の日曜日、中学の近くにある集会所で、町おこしプロジェクトの一環であるローカルアイドルグループのオーディションが行われたんだ。

 畳敷きの部屋で、地味に、実に地味に。

 湯飲み茶わんの置かれた長テーブルをはさんで、審査員である今日はピンク地のパイナップルシャツプロデューサーとノノと私のお父さん、そして参加者、その中には何故か私とののも入れられていた。

 スカウトされたはずなのに、審査員側の身内びいきのコネ採用だと思われないように一応参加するようにってことだったんだけど‥‥‥でもさぁ‥‥‥


「ねー、スターフィールドセブンっていうことは、七人合格なんだよね?」

「うん、このはと私と他五人しかいないよね‥‥‥」


 このオーディションの募集条件は町内の学校に通う十二歳以上の女子、星原町には高校は無いし、三人しかいない小六の女子はまだお誕生日が来た子がいないから参加できない。必然的に星原中の女子だけが対象になるわけなんだけど、全校集めても十二人しかいない女子のうち七人がここに集まっている。


「オーディションとか、全然やる意味ないよね‥‥‥」


 顔を見合わせてやる気なく足を伸ばしている私たちをよそに、一人だけやる気満々の子が手をビシッと垂直に上げて、すぐ目の前にいる審査員の三人に向かって狭い集会所中に響き渡る様な大きな声を出して質問をした。


「あの、CDデビューは、いつになるんですか!」


 その声の主は、中学一年の宮本きらりちゃん、今は無きティンクルフィールドモールが子供服のセールをするときに、ちょくちょくチラシに載っていた自称チャイルドモデルだ。

 モールの社員の子供たちである他の子が棒立ちでひきつった笑いを浮かべる中、まるでガールズコレクションのランウェイモデルのようにビシッとポーズを決めるきらりちゃんの姿は、違う意味で目立っていた。

 カジュアルな子供服にそぐわないギャルのようにセットされた髪型と薄化粧は、わざわざ遠出して町外の大きな美容院でやってもらっていたらしい。

 町のおばさんたちがしていたうわさ話によると、短大生のときにギャル向けのフリーペーパーの読者モデルをしていたきらりちゃんママが、モールの社員の子供たちの枠にお得意さん枠でなんとかねじ込んだのだそうだ。

 もちろんノーギャラで、洋服も美容院代も自前。


 はりきり母子は今日もなかよく一緒で、質問するきらりちゃんの後ろでは、蝶のような巻き髪でバサバサのつまようじが何本も乗っかりそうな強烈なまつげをしたきらりママがうんうんと何度もうなずいている。

 その迫力に気おされたのか、私とノノのお父さんコンビはちらちらと目線を合わせて困り顔をしているけど、パイナップルプロデューサーは全く動じずきらりちゃんよりも大きな声で返事をした。


「いやー、今のご時世CDはねー、まずは配信ですよ!配信!町の特設サイトでそのうち配信しますからお楽しみに!」


 大口を開けてガハガハと笑うパイナップルプロデューサーに、今度はきらりママのはげしい質問の嵐がおそいかかる。


「配信って、全国に有料配信するとかサブスクとかじゃないんですか?町の特設サイトなんて、そんなの町の人間しか聴かないじゃない!うちのきらりちゃんはね、全国でも通用する逸材なのよ!それをこのくすぶった町のアイドルにわざわざ応募してあげているんですからね!」


 きっちりセットされたお花のような形の巻き髪を振り乱して、きらりちゃんママはラメで彩られた半月のような目をぐわっとつり上げてパイナップルプロデューサにテーブル越しにぐいっと詰め寄る。

 その権幕にも、パイナップルプロデューサーは全く動じずににやにやと笑い顔を見せているばかりだ。

 横で見守っている私たちの方がドキドキしてしまって、伸ばした足はいつのまにかきっちり正座とかしちゃっていた。

 一方のお父さんズといえば、すっかりおろおろしてマンガみたいに青ざめた顔になっている。


「あ、あのですね‥‥‥宮本さんの奥さん」


 ノノのお父さんがやっとかすれた声を出すと、それを掻き消すように大きな笑い声が集会所中、いや外にまで届くくらいに周囲を埋め尽くした。


「がっはははははー!いやー、向上心があって、結構、結構、しかしね、これはまだオーディションなんですよ!オタクのきら、なんだっけナントカピカリちゃんが合格するかもまだわかりませんしねー!」

「何ですって!なんて失礼な人なの!帰るわよ、きらりちゃん」


 すっかり腹を立てて茹だこのように顔を真っ赤にしたきらりちゃんママは、「でも、でもママ」と言いながら名残惜しそうに何度もこっちを振り返るきらりちゃんの腕をぐいぐい引っ張って連れて行き、バーンと激しく音を立ててドアを蹴飛ばし、オープンカーに飛び乗るとドルンドルンブルルンブルンと派手なエンジン音を立てて、さっさと去ってしまった。

 その後、パイナップルプロデューサーの東京でのコンビニグルメとかかなりどうでもいい話をえんえんと聞かされたあとオーディションは突如終わりになり、私たち六人はいつの間にかスターフィールドセブン改めスターフィールドシックスのメンバーとなっていたのだった。


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