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ゆめいろジャンピング  作者: 水平リイベ
2/15

スカウトされちゃった⁈アイドル誕生⁈

 漕ぎなれたあぜ道とはいえ、夏真っ盛りの七月の暑さの中では耐え切れず、私たちはみどり屋のテーブルにべたっとなりながら溶けかけのシンプルな苺かきそれしかないからをちびちび食べて、追い出されるようにして店を出て花丸ストアの駐輪場でミルクチョコチップを分け合っていた。


「うーん、やっぱ安定のおいしさだね、三十円とは思えない」

「ちょっと、私が買ったんだから値段言わなくてもいいでしょ」

「ふふーん、荷物持ちのバイト料が三十円じゃねー」

「もー、いちいち嫌味なんだから」


 学校と同じようにどうでもいいことをダベってだらだらしているそのすぐ後ろに、不審な男が近づいていることに、私もノノも全く気づいていなかった。


「ねぇ、君たち!後ろ姿から見てかーなーり可愛いのではないかとお見受けした!さぁ、こっちへ振り向いて!さぁ、さぁ」


 背後から急に響いてきた大きなガサガサ声に私たちはぎょっとしてしまい、思わず顔を見合わせて首を振った後、一目散に走って花丸ストアの中に逃げ込んだ。


「何あれ、こんな田舎に不審者?」

「聞いたことない声だったよね、やだ怖い」


 ガタガタふるえながら食料品売り場の棚に隠れるようにしてひそひそ声で話していると‥‥‥


「あっ、こんなところにいたんだお二人さん、もー、逃げないでよね、あやしくないし、怖くないよー、ほらお兄さんのこと見てみて」

『ひぎゃー!』


 私たちは声の主を確かめることなんてことはとても出来ず、転がるようにして駐輪場に戻ってそのまま無言でチャリを漕ぎ続け、となり同士のそれぞれの家へと帰って行った。

 もちろん、買い物なんてできるはずがなかった。


 二階の自分の部屋までなんとか辿り着いてもふるえも動悸もおさまらず、汗がダラダラなのに寒気まで感じてきてしまって、私はベッドの上でタオルケットを頭から被って、お母さんが隣町の農協のパートから戻ってくるのをひたすら待ち続けた。

 ブオーン

 締め切った窓の外からお母さんの車の音がかすかに聞こえたときは、ほっとして目じりからちょっぴり涙が流れてしまった。


「このはー、電気付いてないけどどうしたの?自転車はちゃんとあるんだけどなぁ」


 ドアが開くのと同時にお母さんの声が聞こえたとたんに、私は部屋を飛び出して階段を駆け下りて、お母さんにぎゅっと抱き付いてしまった。


「おがぁさーん、ごわかったよぉー」


 胸にしがみついておいおい泣く私の頭をお母さんはポンポン叩いてなだめてくれて、おつかいが何も出来なかったことについても全然叱らなかった。

 そして、ひっくひっくしながら私がなんとか説明した不審者のことを難しい顔をして黙って聞いたあと、私を連れてノノの家へと向かった。


「あら花池さん、私もノノからさっき話を聞きましてね、そちらへ伺おうと思っていたところなんですよ」


 ノノのおばちゃんもお母さんと同じような難しい顔をしてうんうんうなずき、スマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。


「お義父さん?えぇひろこです、ノノから大変なことを聞きましてね」


 おばちゃんはノノのおじいちゃんに花丸ストアで私たちが出くわしてしまった不審者について詳しく説明していた。


 それから十分後、町内放送で不審者についての情報が町中に流された。

 ノノのおじいちゃんは、星原町の町長さんなんだ。

 そして、そのまた十分後のこと。

【先程の不審者情報ですが、地元の有志により無事確保されました】

 最新の情報が放送された。


 私とノノ、そしてそのそれぞれのお母さんがほっと胸を撫で下ろしたその三十分後のこと‥‥‥

 私とノノのお父さんが、思いがけない人物を連れて家に帰ってきたんだ。

 ノノがまだ怖がっているので、家でいっしょに出前のおそばで晩ごはんを食べていると、大きな笑い声とともにお父さんがドアをドーンと勢い良く開けた。


「おーい、このは、杏子帰ったぞー、珍しいお客さんも一緒だぞ」

「おじゃましまーす!」


 このガラガラ声は、忘れもしない、あの不審者。

 私とノノはまたふるえ出し、テーブルの下でぎゅっと手を握り合った。

 そして、恐怖のあまり声も出ない私たちの前で、ガラガラ声の主、パイナップル柄のシャツのあやしい男はスッとサングラスを外し、指先でくるくると回しながらニカッと大きなやけに白い歯を見せて笑った。


「ねー、君たち、アイドルやらない?」

『はぁー?』


 思わずあきれた声を出し、ぽかんとした私たちの前にパイナップル男はサッと名刺を差し出した。

 そこには【星原町おこし協力隊、隊長、音楽プロデューサー早原トオル】という文字がピンクのラメラメででかでかと書かれていた。

 私とノノの手のひらは汗でじとっとしめりだし、ふるえはいつの間にか止まっていた。


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