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ゆめいろジャンピング  作者: 水平リイベ
13/15

みんなの前で、お披露目会

 私たちが必死の特訓をして息切れをせずに歌いながら通しでダンスの振り付けをこなせるようになったころ、星山流星祭りまで残すところ十日となっていた。


「うん、これなら人様に見せても問題ないね!」


 トオルpはそんな私たちの様子を見ながらうんうんうなずき、とあるアイディアを口にした。


「えー、ここまで応援してくれていたみんなのお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、うーん、家族みんなに練習の成果を披露しようと思いまーす!」


 いきなりの重大発表に私たちは、すっかりおたおたしてしまった。


「えー、恥ずかしいよー」

「うんうん、まだ十日あると思っていたのに……」

「僕もまだ心の準備が」

「えー、なんでなんで、私はもっといっぱいの人に見てほしいけどー」


 えーっと、きらりちゃん以外は。


「トオルp、そういうことは事前に教えておいてよね!」


 ぷーっと頬を膨らさせたノノに向かって、トオルpはひょっとこのような変顔をして、「えー、だって、トオルpも今思いついたんだもん」とか、いつもの可愛くない可愛い子ぶりっ子をする。


 思いつきって……いい加減だなーって反論したいところだけど、こんなときのトオルpに何を言ってもムダって私たちはもうわかりすぎるほど、わかっちゃっているんだ。

 結局なし崩し的に三日後の土曜日、本番一週間前に、家族向けのお披露目会がこの集会所で開かれることになった。


 当日はいつものレッスンはお休みになったんだけど、様子を見に来てくれたキリンさんがリハーサルもきっちり指導してくれた。


「はい、ゆずる、歌い終わったらそこでくるっと回ってにっこり、ハイハイいいよー、ゆりあはサビのところでサッと足上げてー、OK!ノノもこのはもその調子、ステップは細かく踏んでー、きらりはラップのとき腕の振りを忘れないでー、はい、いいよいいよー」


 リハーサル中のキリンさんは何度もうなずきながら、良いところを褒めつつ的確に指導してくれて、ちょっと不安だった私たちの中にどんどん勇気と自信がみなぎってくるようだった。


 そして、いつもの不思議ドリンクを飲みながら体をほぐしていると、輪になっている私たちの間にひょっこりキリンさんが腰を下ろした。


「トオルちゃんもねー、素直じゃないのよ、アンタたちに自信をつけさせたくてこういう場を設けたんだと思うわー」


 独り言のようなキリンさんのつぶやきに、私たちの脳裏にはあのときのトオルpの変顔がよみがえった。

 そっかー、あれは照れ隠しだったんだ。


「じゃね、今度会うのは本番当日だけど、今日のお披露目もその後のレッスンも気張ってやりなさいよー」


 仕事のため夜のお披露目会の時間まではいられないキリンさんは、片手をひらひらさせながら颯爽と集会所を去っていった。

 そして、入れ替わるようにがやがやと登場したみんなの家族とトオルpの前で、私たちスターフィールド5のおひろめ会、プレデビューの舞台が幕を上げたんだ。


「僕たちの曲、ゆめいろジャンピング、聴いてください」


 ゆずる君の挨拶から始まり、ゆりあの華麗なジャンプ、そしてやっぱりゆずる君の歌!


「夢の色はカラフル、入道雲の向こうまで大きな大きな虹がかかった、日が暮れるまではまだ長い、さぁはじまりの歌を歌おう」


 自分の担当した歌詞から始まる歌をパーンっと弾けるような声で歌い出し、なんとか音程の安定した私とノノのコーラス、そしてきらりちゃんのラップが続き、いよいよオーラス。


「ぐるぐるひらひらひらりまわってゆくよー」


 いつもならくわーっと広がってゆくハイトーンボイスで締めるところなのに、ゆずる君の声はかすれ、ゲボゲボと咳込んでしまった。


「大丈夫ゆずる君?」


 曲終わりにみんなでかけつけると、ゆずる君はまだ苦しそうに咳込みながら、ニコッと笑って右手を上げた。


「げほっ、大丈夫、ごめんね、僕ちょっと風邪ひいちゃったみたい」

「そっかー、本番は来週だよ、無理しないでね」


 女子ばかりの私たちはそれで納得していたんだけど、激励会と称して大人たちにうなぎ屋さんに連れていかれたときも、ゆずる君は元気がなくてうなぎも半分残してしまい、デザートのあんみつパフェも一人だけ注文しなかった。


 そして、次のレッスン日、本番の五日前になってもゆずる君の声は戻らなかった。

 トオルpはいつものふざけた口調とは違って、真摯にゆずる君に語り掛けた。


「ゆずる、声の調子ずっと悪いんだろ、風邪じゃないよな、声変わり始まっちゃったんだな」


 ゆずる君は無言のままうんうんうなずき、その頬には一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

「今回は無理して歌うな、のどをつぶしたら大変だ」


 でも、トオルpのその言葉に今度はぶんぶん頭を振り、必死に抵抗した。


「いやです、今回だけはやらせてください!この歌をどうしても歌いたいんです、もう僕にはこんな高い音が出せなくなる、そしたら自分たちの歌、ゆめいろジャンピングが歌えなくなってしまう!」

「ゆずる!お前の歌の魅力は高音だけじゃない!のどだけでなく歌い手としての未来もつぶすな!」


 けれど、トオルpも決して意見を曲げず、本番五日前にしてメインボーカリストの座は振出しに戻ってしまったんだ。


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