表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/112

第八話 難しい日常

翌日の朝――いつも通り一冴は目を覚ました。


隣のベッドでは梨恵がまだ寝ている。いつもと変わらない光景――しかし、自分は男だともうバレた。この「女子の部屋」に自分はいる――女子の格好をした、それでいて名実ともに女子ではなくなった自分が。


いつも通り顔を洗い、制服に着替え、髪を結う。


それが終わったとき、梨恵のアラームが鳴った。


暁闇(ぎょうあん)の中、梨恵が起きあがる。


「おはよう――梨恵ちゃん。」


寝ぼけ眼を梨恵はこする。


「うん――おはよう。」


そして一冴は鞄を手にした。


「じゃあ、私は先に食堂いってくるね。」


一瞬、梨恵は詰まる。言葉にはならない言葉が二人の間に通った。いってらっしゃいと言う代わりに、うん、と梨恵はうなづく。


やがて朝食の時間となった。


いつもと同じ席に四人は着いている。


目玉焼きを箸で切りながら、紅子が口を開いた。


「それにしても、私の傘盗んだの誰だろ。」


一冴は首をひねる。


「こうも雨が続いていて、昨日の朝だって雨が降ってたのに、傘を忘れてきた人がいるのかなあ? しかも二人いっぺんに盗まれるとか。」


本当は――誰が盗んだのかもう見当がついている。


紅子は溜息をついた。


「けど――今日はどうやって登校しよう? 私、傘はあれ一本しか持ってないんだが。」


「あ、私も。」


窓の外へ目をやると、先日ほどではないが雨は降り続けている。


梨恵は、何かに気づいた顔となった。


「傘だったら――朝美先生に相談したらええでないかな? 予備の傘を持っとんさるって話どっかで聞いたことあるにぃ。」


「そうなんだ。」


うん――とうなづいて梨恵は視線をそらす。


梨恵との間に何かが隔たった気がした。紅子が前にいる以上、今まで通りの日常を演じる他にない。しかし、先日までと同じ日常はもうないのだ。


それから登校した。


雨はまだ止まなかった。初夏だというのに、雨のせいで気温は上がらない。


教室へと這入り、ショートホームルームも終える。


授業が始まる前の休み時間、一冴は菊花へと近づいた。


「菊花ちゃん――ちょっといい?」


菊花は不思議そうな顔をする。


それから教室を出て、階段の陰へと移動した。休み時間であっても、そこには人の姿がない。監視カメラもない。ここなら、音声を拾われる危険もないだろう。


そして、先日の出来事を説明する。


菊花は驚愕した顔となった。


「え――てことは、バレちゃったの?」


「うん。」


だが、どういうわけか問題がなかったことを知ると、菊花は安心した顔となる。


「そう――なんだ。」


そして、菊花は首をかしげる。


「それにしても――その女の人って、誰?」


「そんなこと、私の方が訊きたいよ。」


「けど、少なくともいちごちゃんの事情を知ってる人ってことだよね?」


「うん。」


菊花は考え込んだ。


しばらくして、真剣な眼差しを向ける。


「ねえ――今日のお昼休み、空いてる?」


今度は一冴が首をかしげた。


「別に――予定はないよ?」


「そう。じゃあ、ちょっと二人だけで話したいことがあるんだけど――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ