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第五話 むぢな

放課後のことである。


文藝部での活動を一冴は終え、紅子と共に玄関へ向かった。菊花はいない。どこへ行っているのか、最近は放課後に姿を見せないのだ。


雨は激しい。時として稲妻が奔り、ぱっと空が明るくなる。


玄関へ着き、傘立てから傘を探した。


ところが、傘はどこにもない。


紅子が情けない声を上げる。


「どうしよう――同志(タヴァーリシ)いちご。傘が――ないんだが。」


「あの――私も。」


紅子はぽかんと口を開ける。


「まさか――盗まれた?」


「かもしれない。」


外を見やる。相変わらず雨は激しい。


「どうしよう」と紅子は言う。「傘を貸してくれそうな人は――」


「いないだろうねえ。」


雨は激しい。このまま待ち続けることはできない。


梨恵はもう帰っただろうか。この時間ならば、恐らくは部屋には着いていない。だが――ぐずぐずしていたら、濡れて帰るばかりか、梨恵の前で着替えることとなる。


紅子は不安そうな顔をする。


「このままでは門限になってしまうぞ? しかも、私たちは今日、夕食当番ではないか? もしも濡れて帰ったとして――身体を拭いていたら、当番に遅れてしまうぞ?」


「――そうだねえ。」


一冴は歯がみをする。


「どうする? 吶喊する?」


「そうだな。」紅子は顔を引き締める。「吶喊しよう。」


「じゃ――行こか。」


勢いをつけ、二人は玄関から飛び出た。


雨の中を駆ける。


冷たい雫が髪や服に染み込んだ。


梨恵より先に寮へ着かなければならない。しかし、もしも梨恵が先に帰っていたら、どうしたらいいのだろう。背中を向けて着替えればぎりぎり誤魔化せるだろうか。


桜の葉のトンネルを駆ける。鎮守の杜は暗い。樹々にさえぎられて雨は少し弱まったような気がした。しかし、ふりしたたる雫は一回り大きくなる。


このとき、梨恵とすれ違っていたことに一冴は気づかなかった。


寮まで駆け、玄関へと飛び込む。


ずぶ濡れの紅子が声を上げる。


「ひー! もう、びしょびしょだ。」


「ともかくも、早く帰って着替えなきゃ。」


「そうだな!」


それから、それぞれの部屋へと駆けこんだ。


梨恵はまだ戻っていなかった。そのことに一冴は安心する。


備え付けのタオルで水滴をさっと拭く。制服を脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、クローゼットを開いた。下着をしまっている箪笥を開け――そして凍りつく。


キャミソールが――ない。


慌てて他の箪笥も空ける。


当然のように、キャミソールは全て消えていた。


何が起きているのかは分からないが、上着を羽織らなければならない。


そう思い、ハンガーにかけられた服を手にしたときだ。


ドアノブを開ける音がした。


心臓が高鳴る。


そして、明かりがふっと消えた。

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