第四話 いちごちゃんはスレンダー「美少女」?
その日の二時間目は体育だった。
雨が降っているので、体育館でバレーボールが行われた。
クラスメイト達がチームに分かれてボールを打っている。かけ声、ボールのはじける音――屋根から聞こえてくる激しい雨音。
球技にうちこむ一冴の姿を、窓辺から梨恵は眺める。
スレンダーではあるが、少女にしか見えない。しかも美少女の部類だ。緋色のリボンに留められたた黒いサイドテイルが、一冴の動きに従ってゆらめいている。白い肌。頸筋。紅梅色の体操着から伸びた細い脚。
あれが少年ということがあるのだろうか。
だが、抽斗の奥に隠されていた物は何だったのだろう。ただでさえないあの胸が偽物だとしたら、もはや平板ではないのか。
一冴が今までとってきた挙動不審な態度は何だったのか。
やがて授業が終わった。
やや駆け足で一冴は更衣室へ向かう。
梨恵はそれを追い、更衣室へ這入る。
少し急ぐように一冴が着替えていた。
「いちごちゃん、いつも急いで着替えとらん?」
一冴は慌てふためいた。
「え、そう?」
「うん。いつも早めに更衣室這入っとるが。」
「いや、私はそんなふうには思わなかったけど。」
「そう。」
一冴は素早くセーラー服をまとい、更衣室から出ていった。
何も――そこまで急ぐことはないではないか。
まさかそんなことがあるわけがないとは思っている。だが、あの態度は何なのだ。何か、触れられたくない別の理由でもあるのだろうか。
梨恵もまた着替え終わり、更衣室を出た。
教室へ向かい、渡り廊下を歩いていた時だ。
何者かから声をかけられた。
「伯伯伎さん。」
梨恵は顔を上げる。
見知らぬ教師がそこにはいた。口元に引かれた紅が大人びて見える。その姿は、かつて噂で聞いた女教師のイメージを連想させた。
「――はい?」
そして、「彼女」は――山吹は――そっと耳打ちをする。
「上原いちごさんをあまり疑わないように。日曜の午後に貴女が部屋でやったことは、データから消しておいたから。」
――日曜の午後にやっていたこと。
データとは何のことだ。
山吹は、一枚の小さな紙を梨恵に渡す。
「絶対に誰にも見られないようにね。」
それだけ言うと、颯爽と去っていった。




