第十話 二〇七号室
同時刻、二〇七号室で彩芽は目を覚ました。
しかし全身が動かない。指先にさえ力が入らないのだ。
彩芽にとって、それは初めての経験ではなかった。一度目は実家で寝ていたとき、二度目は祖母の家に泊まったときに起きた。あのとき目にした異様なもののことを思い出し、背筋が冷える。
彼岸と此岸とがダイレクトにつながったのだ。
何が原因なのだろう。歴史的にも、立地的にも、白山女子寮はそんなことは起きない場所のはずだ。
やがて、ドアを透けて老婆が現れた。
続いて、経帷子をまとった死者たちが次々と這入ってくる。さらには、件や餓鬼や、この世のものではない拷問を受けた者も這入って来た。
彩芽は目を閉じようとする。しかし閉じられない。全身の震えで歯がかみ合わなくなる。この世にないものが見えるとは言え、餓鬼道や地獄道に堕ちた者まで見たのは初めてだ。
蘭のベッドを死者たちは囲いだす。
死者たちは口を開いた。声というより、その言葉は頭の中へ直截ひびく。
――眼を開けろ。そして儂らの姿を見るのだ。
――お前だな、不埒な真似を孫にしとるのは。
――儂らを呼ぶ声がするので、三途の川を渡って来たぞ。
――儂は餓鬼道から来たぞ。
――儂は地獄からやって来たぞ。
しかし、すやすやと蘭は眠っている。
「菊花ちゃんの大切な処が丸見えですわ♡ ふふふ。」




