第六話 男がいる?
昼休憩のこと、いつものメンバーと共に梨恵は教室で昼食を摂っていた。
メロンパンを手に取りながら口を開く。
「にしてもな、今朝の伊吹先生すごかったなー。」
一冴は苦笑する。
「みんなびっくりしてたよね。挙句、持ち物検査ですだなんて絶叫してたもんだから。多分、昂奮したせいでさらにドバドバ鼻血が出たんじゃないかな?」
一方、紅子は難しい顔で言う。
「けど――何で薄い本が落ちてたんだ?」
一瞬、その場が静まり返った。
紅子は声をひそめる。
「ここだけの話――男がいるんだと思うよ、男が。」
梨恵は首をひねる。
「――男?」
「だって――そうじゃん。でなきゃ、男向けの薄い本なんて何で落ちてるんだ? しかも、男の娘が女子寮に潜入してるって内容の。もし菊花の言う通り、下着泥棒の犯人が内部の者だったなら、女装した男が寮に潜り込んでるという可能性もあり得るぞ?」
菊花が口をはさむ。
「いくら何でも非現実的でない?」
一冴も同意する。
「そうだよ、ラノベじゃあるまいし。」
「だが、戸締りもされているのに、誰が薄い本を誰が置いたんだ? しかも、あの薄い本は白い液体で濡れていたそうじゃないか。」
牛乳パックのストローに口をつけかけ、菊花は眉をひそめた。
一冴は目を逸らす。
「いや――いくら何でも男がいるとか――」
小さな声で梨恵はささやく。
「え、けど、男子がおるだったら、そういうこともあるでないの? だって、男子って毎日でもしとるだら?」
そして、ふっと考え込んだ。
自分は――今、何を言ったのであろう。
一冴の後をつけたあの夜、トイレで感じた気這いは何だったのだ。
紅子は気まずそうな顔となる。
「な、何を――してるというんだ?」
菊花が口を開く。
「でも――下着泥棒は去年から始まったんだけど。つまり、犯人は今の二年生か三年生の可能性が高い。けど、あのエロ漫画が落ちてたのは一階だったじゃん。何の関係もない悪戯だとも考えられる。」
居心地の悪そうな顔をしたあと、一冴は訊ねる。
「ところで菊花ちゃん――下着ドロについて聴き込みするとか何とか言ってたけど、本当にやってるの? 昨日は部室にも来なかったけど。」
「うん、やってるよ。」
「なんか分かったの?」
それなりには――と菊花は言う。
「とりあえず、パンツが消えた時間に洗濯場で変な人を見なかったか――って訊いて廻ったの。そしたら、一〇三号室の宇津木さんと、二〇一号室の木花先輩が、ちょうどその時間に洗濯場を使ってた。この二人も、変な人は見てなかったって。」
「――そうなんだ。」
「まあ、二人のどちらかが犯人という可能性もあるけど。」
「あんま人を疑うのやめなよ。」
「だって、犯人を捜すってそういうことじゃん。」
菊花は少しふくれっ面となる。
「あとは――朝美先生に聞いたんだけど、一昨年までは、窃盗事件は寮では全く起きてなかったって。けれども、昨年の五月からパンツが消え始めてる。被害者の中には木花先輩もいるの。木花先輩は、昨年は岩永先輩とルームメイトだったのに、岩永先輩のは盗まれてない――ピンポイントで木花先輩のが盗まれてる。」
木花と岩永の姿を梨恵は思い浮かべる。
木花は美人だ。一方、岩永は綿菓子のように太っている。
「今までの事件と今回の事件との犯人が同一人物か――っていう問題はあるのね。けれども、可愛い子のパンツをピンポイントで盗んだのは、犯人が寮生だったからじゃ?」
「なるほど。」
梨恵は軽く溜息をついた。
「にしても、菊花ちゃんすごいな――ほんに聴き込み調査やっとるんだ。」
紅子は呆れた顔となる。
「ちょっとやりすぎじゃないか? いや、変質者がまぎれ込んでるかもしれないわけだし、気持ちは分かるが――。神経質になりすぎっていうか――。寝る前には必ずお経も唱えてるし、ちょっと怖いんだが。」
一冴はうなづく。
「うん。夜中にトイレに起きたときとか、廊下からも聞こえるんだけど。」
菊花は目を瞬かせる。
「何が?」
「お経。」
「そんな聞こえてた?」
「うん。しかも消灯時間が過ぎて結構たった頃に。」
「さすがにそんな時間には唱えないよ。」
「そうなの?」
「うん。唱えるのは、消灯時間の前だよ?」
一冴は首をかしげた。
「じゃ――あれ何だったんだろうね。」




