表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/112

第四話 同期の花

四月二十九日――火曜日。


朝食を摂ったあと、一冴は外出の準備をした。


生成り色のフリルつきカットソーの上に、桜色のワンピースをまとう。


一か月以上、男の服を着ていない。女子の姿にも慣れ、動作や声も自然になった。そこに安心を覚える。お洒落には気をつかっていた。外見は気になるし、できれば蘭から振り向かれたい。


まるで造花の百合が、本物の百合になりたがって無駄な努力をしているようだ。


――本当に?


本当に――自分の全ては男子なのだろうか。


ノートや筆記用具、学生証などをバッグに入れた。


洗面台では、理容師が使うような(はさみ)を使って梨恵が自分の髪を切っている。


ドアがノックされたのはそのときだ。


「いちごちゃーん、もう準備できたー?」


紅子の声だ。


「うん、今いく!」


一冴はバッグを手に取る。


「じゃ、梨恵ちゃん、お先に。」


「うん、行ってらっしゃい。」


寮を出ると、涼しい風が肌をなでた。


入寮したときは満開だった桜は散り、蒼々とした葉がしげっていた。斑点を散らしたような木漏れ日が石畳へ落ち、桜の樹々の枝葉とともにゆれる。


「それにしても」と紅子は言う。「私、街に出るのって実は初めて。」


「そうなの?」


「自慢じゃないけど、入寮してから引きこもりだったから。」


「確かに自慢にならないね。」


「だから、街の様子とか全然分かんないんだ。」


「そう。――けど、私は梨恵ちゃんと何度か出てるし、案内なら任せて。」


よかった――と紅子は言う。


「図書館にも、もう行ったの?」


「ううん――まだ。」


――嘘だけど。


本当は――この街の図書館は何度も利用している。


上原一冴はこの街にいない。古い知人と街ですれ違っても一冴だと気づかれない。自分も彼らを他人と思わなければならない。


ここにいるのは、女子の「上原いちご」だ。


「――でも、安心して。行き方は分かるよ。」


「まあ――そりゃさすがに分かってなきゃね。」


学園を出る。


徒歩で高台を下り、ふもとで路面電車に乗る予定だ。


「「貴様と俺とーはー、同期の桜ー♪」」


坂を下りながら、二人で歌を歌う。


「「おーなじ兵学校のー、にーわーにーさーくー♪」」


一冴のスマートフォンが鳴ったのはその時だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ