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第十一話 幼なじみの戸惑い

さかのぼること一時間ほど前のことである。


一冴と同じように、菊花も白山女子寮へ着いた。蘭に導かれ、入居する部屋まで案内される。


その扉を蘭はノックした。


「筆坂さん――いらっしゃいますか?」


はい――という声がして、ドアが開く。


出てきたのは、やや長めの髪を襟足で二つに結った少女である。いわゆる「たぬき顔」だ。前髪には、紅い星のヘアピンがついていた。


彼女へと、菊花を蘭は紹介する。


「こちら、今日から筆坂さんのルームメイトとなる東條さんです。」


途端に菊花は固まる。


――あれえ?


理事長の権限で、菊花は一冴と同じ部屋になるはずだった。それが、目の前に今いる少女がルームメイトとはどういうことか。


ぺこりと頭を下げ、彼女は自己紹介をする。


筆坂(ふでさか)紅子(べにこ)です。――よろしくお願いします。」


「あ――ああ。」


気を取りなおし、菊花も挨拶をする。


「東條菊花です。――よろしくお願いします。」


蘭と別れ、部屋の中へ這入った。


引っ越し業者の手により、荷物は既に届いていた。段ボールが三つ。一つは百五十センチほどの高さがある。無事に届いていて安心した――菊花にとって最も大切な物が入っているのだ。


部屋が違うのは何かの間違いなのだろう。とりあえず、しかるべき場所にこれを置かなければならない。


段ボールを開けていると、紅子が話しかけてきた。


「東條さんって――理事長の東條さんって本当?」


「本当だよ。」


「で――その大きな段ボールは何?」


「仏壇。」


紅子の顔が引きつった。


「――仏壇?」


段ボールが剥ぎ取られる。


紫檀(したん)の仏壇が現れた。


ベッドの隣の棚へと菊花は目をやる。


「地べたに仏様を置くわけにもいかないから――ちょっと手伝ってくれない? そこの棚の上に載せたいと思うんだけど。」


「え――ああ――はあ。」


言われるがまま、二人で仏壇を持ち上げる。


仏壇を置き終えると、別の段ボールから、紙で梱包された何かを菊花は取り出す。梱包を剥ぎ、仏壇に竝べだした。本尊、位牌、老女が写った小さな遺影――。眉をひそめながらその光景を紅子は眺めている。


「何で――仏壇?」


「え――だって、私がいなきゃ誰が仏様に線香を立てるの? お祖母(ばあ)さまだってまだお墓に入ってないのに。」


紅子は首をかしげる。


「お墓に入ってない――って?」


「まだ埋葬してないのよ。」


言いながら、梱包の一つを菊花は剥ぐ。


中から骨壺が現れた。


遺影の前の棚へと骨壺を置く。


仏具を竝べ終えると、線香を立て、(かね)を鳴らし、合掌した。


「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。」


菊花は手をほどき、紅子に向き直る。


「それじゃ筆坂さん――これから一年間、同じ部屋だね、お祖母さまとも。よろしくね。」


「ああ――ええ――はあ。」


そんなことよりも――と菊花は思う。


「ちょっと――お手洗い行ってくるね。」


「ああ――どうぞ。」


部屋から菊花は出る。


人の姿がない場所を探し、洗濯場へと這入った。


スマートフォンを取り出し、電話をかける。


呼び出し音のあと、麦彦がでた。


「もしもし、菊花か?」


「あ――はい。お祖父さま、私です。今、寮へ這入りました。」


「おう――そうか。それは何よりじゃ。」


「あの――ところで――少しお尋ねしたいことがあるのですが――」


「うむ、何じゃ?」


「私と一冴とは、同じ部屋になる予定でしたよね? その、男だってバレたら不味いので、私がフォローするという話だったと思うのですが――」


「一冴?」不思議そうな声を麦彦は出す。「何のことじゃったかのう? 大体からして、白山女学院に男が入るわけがなかろう。それで何がバレるのじゃ?」


その言葉に含んだ意図があることを悟り、菊花は愕然とした。

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