表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/112

第九話 幼なじみはツンデレ

自分にとって一冴は何なのだろう――と菊花はよく考える。


幼いころから菊花は一冴とよく遊んでいた――というより、無理やり遊びにつきあわせていた。


佳倫がいるため、口実はいくらでもある。おままごとでは犬の役をやらせ、魔法少女ごっこでは敵役をやらせた。菊花の行動は時に逸脱し、おはぎだと騙して泥だんごを食べさせたり、砂場に組み伏せて頭から砂をかけたりした。


一冴はだまされやすく、からかえば面白い。


しかし、小学校になれば距離が開く。特に二年生の時はクラスが違い、それぞれに新しい友達ができた。それが菊花は不満だった。お気に入りのおもちゃが、自分から離れたような気がする。


――かずさ、女の子とばっか遊んでて超きもい。


不満を晴らすように菊花は一冴にちょっかいを出した。男子たちの苛めに加わったり、雪が降ると雪玉を投げつけたり、当番では厭な役割を無理やりやらせたりした。


結果――むしろ距離は開いてゆくこととなる。


それに気づいた後は菊花もおとなしくなった。


代わりに、佳倫との親交を深めることとなる。


佳倫と遊ぶという理由で、菊花はよく上原家を訪れた。


結果、一冴とは一定の距離をたもっている。しかし、それだけだ。菊花と佳倫が居間でゲームをしていても、一冴は無視する。どうせならば、僕も仲間に入れてと言うべきではないか。もちろん、そうなったらなったで揶揄(からか)っただろうが。


その感情は、時として罵声となった。


中学に入り、一冴は露骨に蘭を気にかけ始める。そのたびに苛立った。自分の物であるはずのものが、どんどんと自分の物ではなくなってゆく。


一冴のことなど自分は好き「ではない」のだと思った。


ただ、一冴は自分の思い通りにならなければならないのだ。


二月初旬のこと、チョコレートを作った。中には、唐辛子の粉を大量に入れる。これを食べれば、一冴は辛さでむせび泣くに違いない。自分は、それを面白がるために作るのだ。


しかし、二月十四日――菊花はそれを渡せなかった。


大好きだよ――と言うのでもいい。義理だよ――と言うのでもいい。こんなものはどうせ悪戯(いたずら)なのだから。ともかくも渡せばよかったのだ。しかし、それができなかった。


家に帰り、そのチョコレートを自分で食べた。


普通のチョコレートの甘みのあとに、酷い辛さが襲ってくる。


仮初(かりそめ)の言葉であっても、やはり恥ずかしかったのか。いや――このチョコレートは酷く辛い。たとえ仮初の言葉であっても、こんなものを渡した途端、その気もちまで本当に仮初になるからではないのか。


チョコレートが辛すぎたため、涙が出た。


やがて自分は白山女学院へ入る。東條家に生まれた以上、それは定められている。しかしそうなれば、一冴とはさらに離れてしまう。小学生の時、中学生の時――やがて入る高校と、段階を踏みながら一冴は離れてゆく。


一冴の女装を知った時はうれしかった。バラされては最もまずい秘密を握ったのだ。しかも、まるで着せ替え人形のように一冴の女装は似合っていた。


それから半年ほど経ち、一冴の父が麦彦に融資を頼んだ。


ひらめいたのはそのときだ。


一冴の女装姿を麦彦に見せればいい。そして、白山女学園へ入学させるのだ。成功するかどうかは分からない――しかし、こういう非常識なことが麦彦は好きだ。そのうえ、麦彦は菊花を猫かわいがりしている。


そうして、菊花が一冴と相部屋になればいい。


――女が女を好きになるわけがない。


もはや一冴は誰にも盗られないのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ