イケメン妖怪ハンターリックの冒険最新版 魔性のアメニラ
リックは古今無双のスケべな妖怪ハンターです。
「猫又風情が、我が夫プントラを……。必ずやその仇、討たせてもらうぞ!」
リックが見れば、飛びかかりそうなくらいスタイル抜群で、長い黒髪の見目麗しい女性が言いました。服装もスリットの深い真っ赤なチャイナドレスで、これもまたリックの好みです。
「彼奴は女に目がない。それも若い女にな。ボウッとした奥方共々、地獄に送ってやる」
その女性はニヤリとしました。
いつもと違う緊迫感のある始まり方なので、遂にこのシリーズは完結するのかと想像する地の文です。
「お腹空いたにゃん……」
そのリックは食うや食わずの日が続いており、フラフラと街道を歩いていました。
「お前様、しっかりなさいませ」
美人幼な妻の遊魔が言いました。
「そんにゃ事言ったって、もう一週間も水以外何も口にしてないにゃん。いつ死んでもおかしくないにゃん」
虚ろな目で言うリックです。
「お前様は妖怪なのですから、一年くらい食べなくても死なないとお爺ちゃんが言ってましたよ」
遊魔は笑顔全開で言いました。お爺ちゃんとは、鴻均道人という仙人界の頂点にいるスケべなジイさんの事です。
「わしはスケベではない。ドスケベなのじゃ!」
どこかで胸を張って気色の悪い事を言う鴻均道人です。
「あんにゃジイさんの言う事、真に受けちゃダメにゃん、遊魔。身体のほとんどがスケベと嘘でできてるにゃんよ」
何故か自分の事を言うリックです。
「違うにゃん! 鴻均道人の事にゃん! 僕の身体は、愛と優しさと勇気でできてるにゃん!」
いけしゃあしゃあと嘘を吐くリックです。きっと酷い目に遭うと予言する地の文です。
「不吉な事を言わないで欲しいにゃん!」
未来が見える地の文に切れるリックです。
「そうなんですかあ」
それにも関わらず、遊魔は笑顔全開で応じました。
しばらく歩くと、そこそこ大きな街に入りました。
「この大きさの街なら、きっと賞金首の妖怪がいるにゃん。お役所に行ってみるにゃん」
リックは杖を突きながら言いました。
「はい、お前様」
遊魔は笑顔全開で応じました。
二人は街の目抜き通りにある大きな建物に行きました。そこがこの街の役所です。
「賞金の懸かった妖怪はいるかにゃん?」
リックは窓口の役人に尋ねました。
「いないねえ。この街は賞金稼ぎのハンターが来て、妖怪を退治したから、もう全然いないよ」
役人はリックがガタガタと崩れ落ちるような事を言いました。
「そうなんですかあ」
それでも遊魔は笑顔全開で応じました。そして、バラバラになったリックを拾い集めると、役所を出ました。
「遅かったにゃん、別の妖怪ハンターが来た後だったんだにゃん」
リックはがっくりと項垂れました。その時、視界の端に可愛い女の子が見えたので、
「お嬢ちゃん、どうしたにゃん?」
早速風のような速さで近づき、声をかけました。女の子はボロボロの服を着ており、顔にも痣があります。
「助けてください!」
女の子がいきなり縋りついてきたので、
「にゃん!」
リックは焦って遊魔の方を見ました。しかし、遊魔は近くの屋台の饅頭に気を取られていて、こちらを見ていません。
「どうしたにゃん?」
リックは女の子を押し戻して尋ねました。女の子は潤んだ目でリックを見上げて、
「私、妖怪の邸から逃げ出してきたんです」
「妖怪の邸から?」
リックはビクッとしました。そして、
「わかったにゃん。ここでは人目があるから、あそこで訊くにゃん」
宿屋を見つけて言いました。
「お前様!」
ところがその瞬間、遊魔に見つかり、渾身の踵落としを食らって地面に減り込みました。
しばらくして復活したリックは、女の子と遊魔を伴って近くの料理屋に入りました。
「私はここから二里程行った所にある妖怪の邸で働かされていました」
女の子は食事をして人心地ついてから話し始めました。お金は遊魔が大道芸をして稼いだものを使いました。
「二里? でもそこはこの街の役所の管轄にゃん。どうして街は何もしないにゃん?」
リックは不思議に思って尋ねました。女の子はリックを見て、
「その邸は見えないんです。妖怪の妖術で結界が張られていて、普通の人は気づかないんです」
「そうなんですか」
リックは遊魔と口を揃えて応じました。
(ちょっと手強そうなので、女の子を連れて逃げるにゃん)
リックはすぐに逃げ支度をしようとしましたが、
「お前様、自分で見つけた妖怪を退治すると、賞金がよくなると聞きましたよ」
遊魔が言いました。
「おお!」
リックは多くなった分で女の子とあんな事やそんな事をしようと考えました。
「考えてないにゃん!」
涙目になって地の文に切れるリックです。
「その邸に案内するにゃん。僕があっと言う間に退治してやるにゃん」
リックは胸を張って言いました。スケべな仙人と同じ格好です。
「その言い方、やめて欲しいにゃん!」
地の文の言葉選びにいちゃもんをつけるリックです。
そして、リックと遊魔は女の子の案内で妖怪の邸を目指しました。
しばらく進むと、リックがピクンとしました。
「近いにゃん。人間の目は欺けても、この妖怪ハンターリック様の目は欺けないにゃん」
気取って言うリックですが、遊魔と女の子はさっさと先を歩いていました。
「置いていかないで欲しいにゃん!」
涙ぐんで二人を追いかけるリックです。
「あそこです。あの大きな木の脇から入るんです」
女の子が指を差した先には、大きな桃の木がありました。
(嫌な奴の事を思い出したにゃん)
リックは性格と根性が悪い猿の事を心の中で罵りました。
「ここから入ります」
女の子は桃の木の根元の横をすり抜け、消えました。
「わわ!」
リックはその見事なまでの結界に驚き、遊魔と顔を見合わせてから、女の子を追いかけました。
「よく来たね、猫又。今日があんたの命日になるよ」
そこにはチャイナドレスの女性が何十人もの妖怪の手下を引き連れて待っていました。
先程の女の子はその女性の横に立ち、笑っています。
「騙したにゃんね!」
リックは可愛い女の子が妖怪の味方をしたので、ショックを受けていました。
このままでは、賞金で女の子とあんな事やそんな事をできなくなるからです。
「ち、違うにゃん」
当たっているので動揺して地の文に切れるリックです。
「可愛い女の子を使って僕を騙して、お前は何者にゃん?」
リックはチャイナドレスの女性に言いました。
「私はアメニラ。お前が殺したプントラの妻だよ」
チャイナドレスの女はリックを睨みつけました。
「プントラって誰にゃん?」
リックはキョトンとしました。
「忘れたのかい!? 余計許せないね! やっておしまい!」
アメニラが号令をかけると、手下達が一斉にリックに向かってきました。
「僕は強いにゃんよ!」
リックは得意の火炎術で手下達をあっと言う間に退治しました。
「使えない連中だね。でも、あんたの弱点は知っているよ」
アメニラは妖艶な目で言うと、ドレスの裾をめくりました。
「おおお!」
リックの目はそこに見えた綺麗な太腿に釘付けです。
「お前様、どこを見ているのですか!」
それに怒った遊魔がリックに真空飛び膝蹴りを決めました。
「ムギャン!」
リックはその衝撃で気絶してしまいました。
「バカな奥方だね。自分の夫をのしてしまうなんてさ。笑っちゃうよ」
アメニラが遊魔を嘲りました。
「僕の遊魔をバカ呼ばわりするなにゃん!」
突然リックが復活して、一足飛びにアメニラの目の前に行きました。
「覚悟するにゃん、脚の綺麗なおねいさん!」
その掛け声に呼応して、遊魔の胸当ての中から数十匹の子猫達が飛び出してきました。
「ウギャア!」
アメニラは子猫達にドレスを剥ぎ取られ、ざんざんな目に遭いました。
子猫達が遊魔の胸当てに戻ると、リックは気絶したアメニラを妖術で作った縄で縛りました。
「一件落着にゃん」
リックがドヤ顔で言った時です。
「うぐ……」
リックの腹から、青龍刀の切っ先が飛び出していました。
「抜かったねえ、猫又。それは私の分け身。本物はこっちだよ」
青竜刀を刺したのは、女の子でした。女の子は青竜刀を抜くと、ブンと振って血を払いました。
「し、しまったにゃん……」
リックは口から血を吐いて倒れました。
「お前様!」
遊魔が泣きながらリックに縋りつきました。
「あんたもすぐにそのバカ夫の後を追いな!」
アメニラの本体がリックに縋りついている遊魔に青竜刀を振り下ろしました。
「何!?」
アメニラは目を見開きました。遊魔が真剣白刃取りをしていたのです。そして、青竜刀をへし折りました。
「旦那様の仇ーっ!」
遊魔は涙を流しながら、全身全霊の真空飛び膝蹴りをアメニラの顔面に炸裂させました。
「ぶべええ!」
アメニラは鼻血まみれになり、もんどり打って仰向けに倒れました。
「お前様!」
遊魔はすぐにリックに縋りつきました。
「お前様、しっかりなさいませ! 死んではなりませぬ! 遊魔を残して、死んではなりませぬ!」
遊魔はリックを凄まじい勢いで揺らしました。
「ま、待ってにゃん、遊魔! 本当に死んじゃうにゃん……」
息も絶え絶えにリックが言いました。
「僕は刺されたくらいじゃ死なないにゃん。だって僕は、遊魔の真空飛び膝蹴りと踵落としを食らっても、死なないんだにゃん」
リックは刺された腹を擦りました。すると傷は塞がっていました。
「お前様!」
遊魔が泣きながらリックに抱きつきました。
「く、苦しいにゃん、遊魔……。今度は窒息死しそうにゃん……」
リックは必死に訴えましたが、遊魔はしばらくそのままでいました。
めでたし、めでたし。