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お題小説

ゆびきり

作者: 水泡歌

 冷たい空気に世界は満ちていた。

 辺りは一面、銀世界。

 道を行き交う人々は、みんなが白い息を吐きながら歩いている。

 誰も立ち止まることはない。

 そんな中、1人の少年だけは違った。

 少年はジッとそこに立っていた。

 一つの空き地に立っていた。

 灰色のコートを着て、水色の手袋をはめ、白いニット帽をかぶり、空き地の真ん中に立っていた。

 少年は時々小さく寒そうに震える。

 けれど、それでもそこから動こうとはしない。

 彼には約束があったから。

 それは、遠い昔の約束。


 少年がまだ子供だった頃。

 好きだった1人の幼なじみの少女がいた。

 2人はお互いのことが大好きだった。

 ずっと一緒にいたいと思った。

 けれど、その願いは叶わなかった……。

 少女は引っ越してしまうことになる。

 2人は泣いて泣いて別れを惜しんだ。

 その時、約束した。

 10年後の冬、2人一緒に遊んだ空き地で会おうと。

 2人はゆびきりをした。

「うそついたら針千本の~ます。ゆびきった!」

 2人は涙でいっぱいの顔を見合わせ笑った。


 それから10年後。

 少年は約束の空き地に行った。

 昔の約束を守るために。

 10年後の冬……。

 その約束はあまりにも範囲が広すぎて約束の日がいつなのか少年はわからなかった。

 だから少年は冬の季節になると毎日この空き地に足を運んだ。

 その一日が終わるまでずっと空き地で待ち続けた。

 冬も半分過ぎようとしている。

 約束の少女はまだ来ない。

 少年は小指を見ながらつぶやいた。

「もう忘れてしまったのかな……」

 少年の白い息がため息と共にもれる。

 その時、空き地に現れた人がいた。

 少年はその人に気付き顔を上げる。

 それは――少女の母親だった。

「おばさん……」

 少年は驚きの声をあげる。

 少女の母親はゆっくりと少年に近づくと悲しげな目を向け言った。

「ひさしぶりね。今日はね、あの子の変わりにここに来たの」

 少年に嫌な予感がはしった。

 まさか、あの子の身になにか……。

 少年は震える声で尋ねる。

「あの……もしかして彼女は」

 少女の母親はゆっくりとうなずくとポケットから少年に一つの物を差し出した。

 それは携帯電話だった。

「え?」

 少年はとまどう。

 少女の母親は優しく笑うと少年に携帯に出るように言った。

 少年はおそるおそる携帯を耳にあてた。

 そこから聞こえてきたのは、

「ひさしぶりだね、たっくん」

 少年が約束した少女の声だった。

「え……」

 少年はビックリして声が出ない。

「びっくりした? びっくりするだろうな、うん」

 少女はおどけた声でそう言うと、突然、真剣な声に変わって話し出した。

「ごめんね、たっくん、約束守れなくて。あたしさ、病気で入院しちゃって。そっちに行けなくなっちゃったんだ」

「病気? 大丈夫なの?」

 少年は心配そうな声で返す。

「ああ、大丈夫、きっと治すから。けど、今年の冬は無理っぽい。ねぇ、たっくん、あたし、針千本のまなきゃだめかな?」

 本気で心配しているその声に少年は思わずふきだした。

「ねぇ、ゆりちゃん。じゃあさ、針千本の変わりにもう一度ゆびきりしようか?」

 少年の提案に少女の声がはずむ。

「うん、いいよ! じゃあね、今度は来年の冬!! 来年の冬に会おう?」

 少年は笑顔で答える。

「いいよ。じゃあ、約束ね」

 少年は自分の前に小指をつきだし言った。

 少女も一緒に言う。

『ゆびきりげんまん、うそついたら針千本の~ます。ゆびきった!』

 空き地に楽しそうな笑い声が響いた。

 そして電話を切る前、少年はいたずらっぽく言った。

「次、約束破ったら本当に針千本だからね」

 少女は電話口で「え~」と嫌そうに言った。

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