第一話 アリシア、宿を経営する
青々とした草が生い茂る草原の上をを一人の少女が黒い髪を風になびかせながら箒に乗って飛んでいきます。白のローブに身を包み、黒の三角帽子をかぶった可憐な少女は一体誰なのでしょうか。それは私です。というのは半分冗談ですが。私は国から国へと旅をしています。なんで旅なんかしているのかって?だって楽しいじゃないですか、旅をするの。風の吹くまま気の向くまま、自分の行きたいところに行くのが楽しいんですよ。というのは理由のうちのほんの一つで、他にもちゃんとした理由はあるのですがその話はまたおいおいするということで。
私は今魔法使いたちが集まる国へ向けて飛んでいます。私はいかにもかわいい魔女といった格好をしていますが、正確に言うと魔女ではないのです。正式に魔女として認められるには今向かっている国で行われている試験に合格する必要があります。試験は毎月一度、満月の日の夜に行われるそうです。なんでこんな言い方なのかって?だって私もこの試験については詳しく知らないのです。旅の途中で偶然この話を聞いたのでせっかくなので受けてみようと思ったわけです。そして今日はその試験が行われる前日なのです。
しかしそんな軽い気持ちで受けてみようと思ったことを今後悔しています。だって、魔法使いが集まる国、とっても遠いんですよ。前に訪れた国から箒で二日ほど飛んでいますが、いまだに国の影すら見えてきません。もしかして道を間違えたんでしょうか。しかし、今から引き返すにしてもまた二日もかけて戻りたいとは思いません。前の国はそこまでして戻りたいと思うほどの魅力もありませんでしたし。
とりあえずこのまままっすぐ進んで目的の国にたどり着けたらラッキーくらいで考えておきましょう。別の国に着いてしまったらその国でもう一度情報を集めればいいですし。しかし、この調子だと今日もまた野宿をする羽目になりそうです。別に野宿することが嫌というわけではありませんよ?ただ私だって旅をしているとはいえ年頃の女の子です。さすがに何日も体を洗えてないのはなかなかに辛いのです。野宿するにしてもせめて湖のそばとか、体を洗えるようなところでしたいです。そうこう言っているうちに日が暮れてきました。夜間に箒で飛ぶのは危険なので、野宿に適していそうな場所を探していると、ありました。遠くにうっすらと高くそびえる壁が見えたのです。風のうわさで魔法使いが集まる国は高い壁に囲まれていると聞いていた私はその国が今の私の目的地であると確信しました。私は早速そこに向けて箒を飛ばしました。国が見えているのに野宿をする理由もありませんからね。私が入国するために門の近くに降り立つと早速衛兵が出てきました。
「こんにちは、旅の人。入国するのでしたら手続きがございますのでついてきてください」
「分かりました」
そういって私は衛兵に連れられて検問所に案内されました。
「それでは旅人さんのお名前この国に訪れた理由を教えていただけますか?」
「私の名前はアリシアです。この国に来たのは明日行われるはずの魔女になるための試験を受けに来ました。」
「……残念ですが、あなたは明日の試験には出ることができません」
おや、私の聞き間違いでしょうか。今私が明日の試験に参加できないと聞こえたような気がしたのですが。
「今、私が試験に参加できないとおっしゃいましたか?」
はい、あなたは少なくとも今回の試験に参加することはできません」
いったいなぜ私がそのようなことを言われなければならないのでしょうか。もしかしたら知らないうちに魔力量を測られていて、試験を受けるのに足りないとか、この国の住民にならなければいけないとかあるのでしょうか?
「ああ、あなたが試験を受けるだけの器がないとかそういうことではございませんよ」
おっと、どうやらすぐに分かってしまうほどに顔に出ていたようですね。
「では一体私が試験を受けられない理由とは何なのですか?」
「実は試験の申し込みの締め切りを過ぎているのですよ」
なんと、そんな単純な理由でしたか。
「試験の申し込みは試験当日の三日前に締め切ってしまいますので、次回の試験でよければ申し込みができますよ」
次回の試験ということは大体一か月後ですか、一か月間も同じ国には留まりたくないですがまたこの国に戻ってくるのもめんどくさいですし…
「分かりました、一か月後の試験に申し込みします。それまでこの国に滞在していてもよろしいでしょうか」
「承知いたしました。それでは、アリシアさんの滞在期間は次回の魔女試験が終わった日の翌日までとさせていただきます」
「あ、それといくつか聞きたいことがあるのですがよろしいですか」
「ええ、どうぞ」
「ではまず魔女試験の申込場所と滞在期間中にこの国で働いてもいいかを教えてください」
「申し込みはこの先にある大通りをまっすぐ進んだ先にある役所でできます。それと、就労については同じく役所で正式に手続きをとれば可能です。」
「そうですか、ありがとうございます」
じつはそろそろ私の旅の資金も残り少なくなってきたのでどこかで稼がなければいけないとは思っていたのです。普段は道中で見つけた薬草などを売っているのですが、どうせ長期間滞在するのならここで少しまとまったお金を稼いでおくのも悪くはないと思ったのです。
というわけで、私は一か月ほどこの国に滞在することになりました。
まず私はこれから泊まる宿を探しに行きました。できるだけ安い宿を探して歩いている道中では明日試験が行われるということもあってか、魔法使いたちが魔法の練習をしている姿を多く見かけました。それに、魔法使いが集まる国というだけあって、店には魔法使い御用達の看板が立てられていたり、魔法を使った大道芸を行う人を見かけたりと、かなり活気がありました。ある程度安くて、体を洗える場所があるような宿を探しているうちにあたりはすっかり暗くなってしまいましたが、ようやく私が望んでいたような宿を見つけることができました。見た目は若干ぼろっちいですが、お風呂もあって一泊の宿代は相場の半額の銀貨二枚
でした。もうこれ以上のところを探すのもめんどくさかったので私はここに泊まることにしました。
「いらっしゃいませ!ご宿泊ですか!」
そんな元気な声で飛び出してきたのは私と同じくらいか少し年下くらいの少年でした。
「えーっと、今お店には君しかいないのかな?」
「はい!この宿は今僕が一人で経営してます!」
どうやらこの宿にしたのは失敗のようです。仕方ないですが他の宿を探すことにしましょう。
「あ!待ってください!お客様!せめて話だけでも聞いていってください!」
ふむ、どうやら少年の様子を見る限り何か複雑な事情でもあるようですね。
「私はまだお金を払ってないですし、ここに泊まる予定もないので客ではないですが話だけなら聞いてあげてもいいですよ」
「ありがとうございます!申し遅れました、僕の名前はアロって言います」
こうして私はアロという少年からこの宿屋はもともと両親が経営していたものであること、その両親は事故に巻き込まれて死んでしまったこと、それから一人でこの宿を切り盛りしているがアロ一人で経営していることを知るとお客さんが帰ってしまい、なかなか宿泊客が来てくれないことを話してくれました。
「分かりました、それなら私がこの国に滞在する一か月の間このお店の経営をお手伝いします」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「ただし、条件があります」
「条件…ですか…?」
「ええ、私が働いて得た金額の一部を賃金として私に支払ってください」
「え?それだけでいいんですか?」
「何ですか、私がもっとひどいことを要求するとでも思ってたんですか?」
「……はい」
なるほど、私はそんな風に見られていたのですね。ちょっと心外です。でも、いきなり来た客が急に店の手伝いをすると言い出したら疑うのが当然といえば当然なのですが。
「とりあえず私は明日役所で就労の許可をもらわないと働けないので今日はただの客として泊まらせてもらいます。金額は確か一泊で銀貨二枚でしたよね」
「いえ、お客様なら無料で泊まっていただいて大丈夫です」
ん?今こいつ無料で泊まっていいと言いました?
「だってこれからお手伝いしていただく方にお金を払わせるのも失礼ですし…」
「あのねぇ、そんなこと言っていたら結局利益を上げられないでしょう。それに今日はなんの手伝いも無いただの客だとさっきも言ったはずです」
「でも…やっぱり…」
ああ、もう煮え切らない奴ですね。こっちだってただで泊まらせてもらえてその上お金まで貰ったらなんか申し訳ないじゃないですか。
「分かりました、それなら今日は正規の料金を払って明日からは半額で泊めていただくというのはどうですか?」
「分かりました。それでお願いします、お客様」
「それと、そのお客様って呼ぶのやめてもらえますか。ほかのお客さんと間違えそうですし、なんか…むずがゆいです」
「でも、僕まだお客s…あなたの名前を聞いてないです」
おっと、そういえばまだ名前を言ってませんでしたね。私としたことがうっかりしていました。
「私の名前はアリシアです。気軽に呼び捨てで読んでいただいて構いません」
「アリシアさんですね。これからよろしくお願いします!」
呼び捨てでいいと……まあいいでしょう。
そんなわけで私は今日からこの宿に泊まることになったのです。一晩泊まってみて分かりましたが、アロの作る料理はとても美味しかったですし、部屋も外見からは想像もできないほどきれいで、掃除が隅々まで行き届いているのが分かりました。「料理のほうは小さいころから両親の手伝いとかやってましたし、掃除もお客さんが来なくて暇だったので、せめてお客さんが来た時のためにきれいにしとこうと思っただけですよ」
そういってアロは微笑んでいました。両親がいなくなって辛いでしょうに。私に出来ることといえばせめてこの宿にたくさんのお客さんが泊まってくれるようにするだけです。一晩泊まって宿の料理もおいしいですし、サービスも掃除もしっかりしていることが分かったので、あとはお客さんさえ入ってくれればあとは泊まった人の口コミで人が集まることでしょう。
「とりあえずここで働くために役所で就労の許可を貰ってきますね」
「分かりました、お気をつけて!」
そして役所に向かうついでに軽くこの国の観光もしたのですが、この国では意外と空を飛んで移動する人も多いようで、空を見上げてみると箒で飛んでいる人もちらほら見かけました。流石魔法使いが集まる国と呼ばれるだけあります。そんなことを考えて歩いていたら役所に到着していました。思ったよりも近かったですね。早速就労の許可を取り、忘れずに次回の魔女試験の参加登録も済ませました。そうして早速宿に戻り、準備を始めました。
「アロさんにお聞きしますが、あなた、絵を描くのは得意ですか?」
「絵、ですか?まあ、人並みには描けると思いますけど」
「そうですか、それならこれから私が言ったものをこの紙に描いてください。その間に私はほかの準備をしておきますので。」
「分かりました。でも本当にこんなのでいいんですか?」
「大丈夫ですよ、たぶん。私も実は経営のことに関してはずぶの素人ですが何となく成功する気はします」
おっと、そんな疑惑の目を向けられても今更後戻りはできませんからね。とりあえず私は私でやることがあるので、そろそろ動きましょうか。私は入り口から外に出ると箒に乗って空に飛び立ちました。
それにしても彼が絵の描ける人でよかったです。あまり人には言いたくありませんが、私の絵はとても他人に見せられるようなレベルじゃないですからね。公衆の面前にさらすとか処刑以外のなにものでもありませんし、何より客が寄り付かなくなってしまいます。
そんなことを考えながら空を飛んでいましたが、私の予想通り少なくともこの付近には私のやろうとしていることをしている店は無いようです。
とりあえず目的は果たしたので宿に戻ることにしましょう。
「ただいま戻りました。絵のほうの進捗はどうで…」
私はそこまで言いかけて自分の目を疑いました。私がついさっき頼んだはずの絵の下書きが終わっていたのです。頼んだ用紙の大きさもかなりの大きさのはずなのですがかなりのクオリティーで仕上げてました。私が頼んでから今帰ってくるまで三十分かかったかどうかというレベルなのですが…。
「あ、おかえりなさいアリシアさん。すいません、まだ下書きしか終わってなくて…」
「いやいや、謝ることないですよ。むしろ私が思ってたよりも格段に速いペースで進んでいるんですが…」
「あれ、そうですか?これくらいのペースが普通だと思ってたんですけど…」
「そ、そうですか…」
何ですか、絵が描けない私に対する当てつけですか。それともこれが普通の人の感覚で私がおかしいだけなんですか?
「と、とにかくこのペースで描くと、あとどれくらいで終わりそうですか?」
「色塗りは正直あまり得意ではないので多分今日一日かかると思います」
「それなら大丈夫です。ただ、あまり無理をしないでくださいね」
さて、私はあれが完成するまでやることがないので宿の中の掃除でもしていますか。
そんなこんなで翌日、目を覚ますとアロが描き終えたということなので早速見に行ってみました。そこにあったのはアロが手描きで丁寧に描いたこの宿のポスターでした。
「お疲れ様です。本当に一日でよくここまで仕上げてくれました。これならだれに見せても恥ずかしくないです」
「ありがとうございます!頑張って描いたかいがありました」
「それでは今からこれを持って屋根の上に行きますよ」
「屋根の上…ですか…?」
さて、アロは私がこれから何をするのか分からないといった顔をしていますが気にせずにやっていきましょう。なんせ私にはこれから大仕事が待っているのですから。
「アリシアさん、屋根の上にこれを持ってきていったい何をするんですか?」
「まだ分からないんですか。これからこの絵を屋根に張ります」
実は前に空を飛んでいたときにここら辺は私のような魔法使いが空を飛んでいたのは見かけましたが、空から見やすい位置にある広告とかの類は一切なかったのです。なので私たちがこんな風に屋根にポスターを張ることで、空から見たときにとても目立つのではないか、と考えたのです。
「で、でもそんなことしても雨が降ったりしたら濡れて使い物にならなくなってしまいますよ」
「そうならないように私がいるんですよ。今からガラスを生成してこの絵にコーティングします」
正直、物体の生成は魔力の消費がとても激しいのであまり使いたくないのですがアロがここまでしてくれているんです。こちらもできることはやっておかないと失礼でしょう。
「コーティングが終わったら風とかで飛ばされないように固定するので釘かなんか持ってきてください。その間に私が魔法を使います」
「分かりました、お願いします!」
…さて、ここからが大変ですね。とりあえず始めましょうか。
私は魔法で杖を亜空間から取り出し、魔力を集中させます。別に杖が無くても魔法は使えるのですが、安定して魔法を使えます。特に今回のように消費魔力の大きいものは基本的に杖を使ったほうがいいでしょう。
さて、私は集中させた魔力をガラスに変換し、絵の上のほうから順番にコーティングしていきます。途中で集中力が切れるとガラスが薄くなったり、途中でなくなったりしてしまう可能性があるので気を付けないといけませんね。
「アリシアさん、持ってきましたよ!」
はぁ、なんでこいつはこんな最悪なタイミングで来るんですか…
「アロさん、今、私、集中しなきゃいけないので、話しかけないで、いただけますか」
「あ、す、すいません!」
話しかけるなといったでしょうに…。とにかく今は私のやることに集中しないと。
そのまま集中して続けること数分。
「ふぅ、何とかできました」
「お疲れ様です!」
随分と気楽に言ってくれますね。こっちは魔力を限界ギリギリまで使ったというのに。
「では、あとはそれを持ってきた物でしっかり固定してください。私は少し疲れたので下で休ませてもらいます」
私はアロになにか言われる前にさっさと下に降りました。魔力を一度にたくさん使うととても疲れるんですよ。具体的に言うと、とても、眠くなります。
私は自分が借りている部屋に戻るとすぐに深い眠りに落ちました。
次の日、私は部屋の外から聞こえてくる物音で目を覚ましました。
おかしいですね。アロならば普段はもっと静かに歩いているはずです。なんでも泊まっているお客様が不快な思いをしないようにするためらしいですが。
もしかしてこんな時間から盗人でも現れたのでしょうか。今この宿には私を除けばアロしかいません。アロは普通の少年ですから、簡単に抑え込まれてしまったのかもしれません。
私は杖を取り出すと慎重にドアを開けました。そこで見たのは楽しそうに話をしながら歩く浴衣姿の二人組の男でした。
私は予想外の光景に唖然としていると、アロが受け付けのある方向から走ってきました。
「アリシアさん、お目覚めになられたんですね!三日も目を覚まさなかったので心配しましたよ」
なんと、私は一日だけ寝ていたと思っていたのですが、どうやら三日間眠っていたようですね。
「すいません、心配を掛けましたね。魔力を使いすぎてしまったようです。ところで、あそこにいた人たちは何なんですか?」
「実はポスターを貼った日の夜から魔法使いのお客様が少しずつ来てくださってそこからだんだんお客様が来てくださるようになったんです!」
「そ、そうなんですか…」
正直私もこんなにすぐに効果があるとは思っていませんでした。もしかしたら魔女試験が終わってすぐだったので、まだ結構な数の魔法使いがこの国に残っていたのかもしれません。魔法使いの間では噂はすぐに広まるので、その影響かもしれませんね。
「とりあえず
「とりあえずアリシアさん、今お客様が多くて一人だと大変なので手伝ってください!」
「手伝うのは構いませんが、私に出来ることなんてあまりないですよ」
「たぶん大丈夫です!受付とそれが空いたら掃除をしていただくだけで大丈夫です」
「分かりました。ただ、受付のやり方だけ教えていただけませんか?受付の経験なんて皆無ですので」
「はい!是非お願いします!」
そこから私は宿での仕事をこなしながら、きたる魔女試験に備えて空いた時間で魔法の勉強と練習も続けました。宿のほうもお客さんの数も順調に増えていきました。アロ曰く、両親が亡くなる前と同じくらいのお客さんが来てくれるようになったんだとか。正直言ってとても忙しかったですが、充実した時間を過ごせました。
しかし私は旅人の身。いずれこの国を離れなければいけません。私は魔女試験まで残り数日になったとある日にアロを呼び出しました。
「アロ、私は魔女試験が終わったら出国をします」
「そんな!せっかくここまでしてくれたのにどうしてですか!」
「もともと私は旅人ですから。本来なら一つの国にここまで長く留まることは無いんです」
「そんな…でも…」
「とにかく私は魔女試験が終わった翌日にはこの国を出ます。それまでに新しく雇う人を決めておいたほうがいいですよ。さすがにこれを一人で経営するのは大変でしょうし」
アロには冷たく当たっているかもしれませんが、これもしょうがないことなのです。実際私がこの国に滞在できるのはその日までですし、アロには私に依存してほしくないのです。
「でも、今の僕にはアリシアさんしか信頼できる人がいないんです…」
アロはうつむいたままつぶやきました。
「僕の両親が死んでから周りの人はどんどん僕から離れていって、みんな僕に対して冷たく当たるようになりました。そんな中でアリシアさんだけが僕に優しく接してくれて、僕は両親が死んでから初めて安心することができました」
「そうだったのですか…」
私はアロがここまで思っているとは考えもしませんでした。確かに客が来なくて困っているのは分かりましたが、それでも元気に接客してくれてました。だから、ここまでアロが私のことを信頼してくれているとは思わなかったのです。しかし…
「あなたがそこまで信頼してくれていたのは素直にうれしいです。でもやっぱり私はこの国を出なければいけません。でも、きっとあなたなら私がいなくてもうまくやっていけますよ。」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「だってほら、周りのお客さんがこんなに笑顔で過ごしているんですから、きっと大丈夫です」
「でも、それはアリシアさんが手伝ってくれてたからで…」
「私なんて結局受付くらいしかしてなかったじゃないですか。仕事のほとんどはアロがやっていたでしょう。だから、もっと自分に自信をもって大丈夫なんですよ。あなたならきっとできます」
そう言うとアロは黙ったままうつむいてしまいました。彼にはかなり辛いことでしょうが、これを乗り越えないと彼はここから先きっとうまくやっていけないでしょう。
「それでは私は部屋のほうに戻りますね」
「…待ってください」
「…なんですか?」
「自分でもこのままではダメなんだってことくらいは分かっています。でもやっぱり不安なんです。アリシアさん以外の人とうまくやっていけるのかどうか。だから、せめてこれから一緒に働いていく人を選ぶのを手伝っていただけないでしょうか。アリシアさんが認めた人ならうまくやっていける気がするんです」
「わかりました。それくらいならお安い御用です。では明日から早速準備にうつりましょう」
次の日から新しく雇う人を探すために店の前に張り紙を張りました。条件は私が雇われた条件よりも若干よくなっているので、ここで働きたいという人はそこそこの数がやってきました。その中から私とアロが選んだのはマロンという名前の魔女でした。彼女は魔女試験を見事に合格した立派な魔女で、私が魔法の練習をしている時に彼女が一生懸命練習していた姿を見たこともありました。また、彼女は過去に今の私と同じような状況になったことがあり、そんなときにアロの両親に助けてもらった恩があり、ぜひここで働かせてほしいということでした。私とアロはマロンなら安心できるということで、彼女を採用することにしました。
早速次の日から仕事を覚えてもらうためにマロンには宿に来てもらいました。彼女は私が思っていた通り、真面目に仕事に励み、。(料理も掃除も私より上手だったのは悔しいですが…)
そのまま残りの数日が経過し、とうとう魔女試験当日になりました。マロンは私から受付業務を、アロから料理や掃除などその他全般のことを教わり、この宿の従業員として立派に成長しました。これなら私がいなくなってもアロと二人でやっていけるでしょう。
「それでは、行ってきますね」
「はい、頑張って下さいね。お祝いの料理を作って待ってますから」
「あんまりそういうのがあると緊張するのですが…。とにかく、自分にできる精いっぱいのことをやってきますから、待っててくださいね」
そう言って私は空へと飛び出しました。魔女試験に合格できるのはごく一部の者だけだと聞いていますが、今の私には合格を信じて待ってくれている人がいます。今日まで練習も勉強も欠かしたことはありませんし。今なら何とでもなると思えてしまいます。
私はほんの少しの不安と大きな期待を胸に魔女試験が行われる会場へと青空の下を飛んでいきました。
こんにちは、きっこです。今回初投稿になります。初めてのことだらけで読みにくかったり、誤字脱字があったり、日本語がおかしいところがあるかもしれませんが、優しく指摘していただければ幸いです。マイペースで投稿していきますので、気に入った方はこれからも読んでいただければ嬉しいです。
最後に、この作品を読んでいただいた皆様に多大なる感謝を述べてあとがきとさせていただきます。