雨恋──Amagoi──
六月十日
雨の日のこと
冷たい指先
肌寒い朝
雨が好きだ。
しとしと、ポツポツ、ザァザァと、多彩な表情を見せる雨が。
雨が好きだ。
街路樹に水滴がつき、草木の青い匂いが際立つ。他者さえ引き立てるそんな雨が。
雨が好きだ。
こんなにくだらない命を宿すわたしの前にも等しい、そんな雨が。
わたしが通う大学には、小さな森がある。正門に至るまでの短い通路の頭上が無数の枝葉に覆われている。わたしはその場所が好きだ。木々たちは季節によって雰囲気を変え、夏ならば夏、冬ならば冬とすぐにわかる見た目に変わる。その様子が、どんな環境にも適応する植物の神秘に満ちている気がするから。
この日は雨が降っていた。手のひらサイズの葉っぱに垂れ落ちた雫が無数の音を奏でている。あたりを取り囲むパーカッションに耳を傾けながら、わたしは傘を前側へ傾ける。大きな粒になった一滴が傘の骨から滴った。
無垢で純粋な樹木の音色に比べて、わたしはひどく空虚な毎日を送っている。最近の悩みは、自分のしたいことがわからないことだった。
例えば何か新しいことを始めたくて、誰かに「あれ、始めてみようかな」と持ちかける。するとその誰かは言うのだ。
「え、やめとけば?」
わたしは言い返すこともできず、沈黙してしまう。
わたしが嫌いだ。
うじうじ、グズグズ、だらだらと、いつもそればかりなわたしが。
わたしが嫌いだ。
何もできずに、他者を言い訳にする。「自分」がない、そんなわたしが。
わたしが嫌いだ。
言い訳と保身の塊で、そのくせ何かを望んでる。
雨を待っている。
雨を待っていた。
梅雨を待っていた。
雨の音、いいですよね。