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2章③

「うえぇぇぇん!」

 指示された場所付近を散策していると、ランドセルを背負った女の子が号泣していた。

 一見すれば何も異常が無いように見えるが……少女を中心として黒い靄が漂っている。

「あれが瘴気ってやつか」

 人体への影響は少ないと兒井獅は言ったが、傍から見れば全くそう見えない。

 俺はあんな身体に悪そうなものを常に漂わせているのか……俺が人に嫌われるのは、呪いだけじゃなく、この靄にも原因があるのではないだろうか。

「……当然のごとく瘴気も見える、か。これなら近いうちに解呪も教えられるわね」

 関心しているような、嫉妬しているような視線をこちらに向けながら、手元に魔法陣を展開する兒井獅。

 この魔法陣の出し方を教えてもらえるのか……いやそんなことよりも、いつになったら俺の呪いを解呪出来るのか教えて欲しいんだが。

「まずは呪いの初歩の初歩。呪いを解呪するには、正確な情報を集めて魔法陣に組み込む必要があるの。メモっておきなさい」

 そんなものは無いと首を振ると、カラフルな手帳を投げつけられたので、渋々ながらメモを取る。

 えーと……解呪の方法以上に、心の中で「陽子にバレませんように」と何度も懇願していることの方が気になる、と。

 まあ俺は、陽子さんに隠れてお菓子をつまみ食いをしている兒井獅の姿を目撃しているし、陽子さんが既に気付いていて、楽しそうにお仕置きの準備していたことも知っているけどな。

「けど私ほどの天才にかかれば、弱い呪いの解呪くらい、正確な情報がなくともちょちょいのちょいよ!」

「へー。そうなのか、凄いな」

 兒井獅が自慢げに語る内容の何が凄いのか、俺にはさっぱり分からないので、一応全てメモに収めていく。

 ……後一時間もすれば、その顔は恐怖に沈むのだ。今くらいは先輩風を吹かし、得意げにさせてやろう。

「あの子の呪いは……恐らく「迷子」ね。家までの帰り道が分からなくなるの」

「……そんなくだらない呪いも存在するのか」

 今の時代、いくらでも自力で解決できるだろう。

「くだらなくなんかない」

 だが、俺の軽率な発言を厳しく咎める兒井獅。

「呪いは全て理不尽で辛いもので、そこに優劣なんてない。あんた、今のセリフを自分が小学生だったとしたら言える?」

 ……もし俺が小学生の立場だったならば絶対に恐怖し、不安で心が折れるだろう。

「すまない、軽率だった」

「反省してるならいいのよ。さ、早くこの子の家を探すわよ」

「……俺の時みたいに解呪しないのか?」

 くだらないとはもう思っていないが、俺よりは簡単に解呪できるはずだろう。

「複雑すぎて解呪できない貴方とは逆で、あの子の呪いは小さすぎるから解呪しないの」

「……魔術師って、本当に呪いを解呪できるのか?」

 まだ二件だが、目の前のチビが解呪に成功しているのを見たことない。

「ば、馬鹿にしないで! 術式で解呪するのは体に負担がかかるから、弱い呪いは自然に解呪したほうが良いのよ! それに、あの子の呪いは家に帰れれば解呪できるんだから!」

「……本当かぁ?」

「ぐぬぬ。信じてないようね……いいわ、見てなさい!」

 そう言って女の子に近づく兒井獅……ま、お手並み拝見といこうか。

「お嬢ちゃん、大丈夫?」

「……お姉ちゃん、誰?」

「素敵な魔法使いよ。お嬢ちゃんを家に連れて行ってあげる」

 満面の笑みで女の子と会話する兒井獅。理由は伏せるが、見た目だけなら不信感ゼロだ。

「お断りします」

「へ⁉ どうして⁉」

「お母さんに、変な人にはついて行っちゃダメって言われたから」

 …………まあ誘い文句は誰がどう見ても不信感マシマシなんだけどな。

「へ、変な人じゃないわよ? ほら、お菓子あげるから!」

「や! いらない!」

 餌付け作戦は女の子に更に警戒心を持たせてしまったようで、ちっとも話が進みやしない。

 ……しょうがない。気乗りはしないんだがな。

「お嬢ちゃん。そのチビの言うことは本当だよ」

 見かねた俺は助けに入ろうと、精一杯の笑顔で話しかける。

 けどまあ、十中八九……

「…………うええぇん!」

 号泣されるだろうな。

 ……俺は昔から子供に限らず、人に嫌われやすい。

 大人ならば嫌な顔をされるだけで済むのだが、子供にはいつも泣かれてしまう。

「た、助けてぇ! 怖いお兄ちゃんがぁ!」

 助けを求め、兒井獅に抱き着く女の子。さっきまで警戒していた人間にくっつくほど怖かったのだろう。

「大丈夫! この男は私が何とかするから!」

「……本当?」

「ええ。だから一緒に、お家に帰りましょう?」

「うん!」

 ……かくして、俺という敵によって二人の間には絆が結ばれた。

 ま、ことが上手く進んだのだから良しとしよう。子供に泣かれるのもいつも通りだしな。

 ……人の負の声が聞こえて、仲良くすると悪夢を見て、トドメに人に嫌われやすいときた。

 つくづく、俺は人と関われないらしい。

「んじゃ、俺帰るわ」

 必要ないどころか邪魔になるだけなので、俺はお暇するとしよう。

「馬鹿なこと言わない! 藍駆も一緒に来るの!」

「……いいのか?」

 兒井獅にではなく、俺は今なお怯えている女の子に問いかける。

「……大丈夫、です」

 兒井獅の後ろに隠れてだが、俺がついていくことを了承してくれる女の子。

「……許可をもらえたなら、行くよ」

 兒井獅をこの子だけに任せるのも心配だしな。

 ……こうして二人と一人の奇妙な集団は、女の子の家を探し始める。


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