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靄が晴れたら  作者: たられば
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第一話 プロローグ

プロローグ ability



 僕には不思議な力がある。

 不思議な力ってどんな力だ? 超能力か? 魔法か? それとも過去や未来を行き来できるのか? って普通考えるよね。

 そんな力があればどんなに役に立つんだろう。


 例えば、透明になる力、透視できる力、物を動かせる力などなど。

 どれも欲望の塊な能力じゃないかって話はおいといて。魔法やタイムトラベルはチート過ぎる。


 だけど僕のはそんな大層なものじゃない。

 困っている人の周りに黒い靄がかかるっていう、単純なものだ。

 テレビでよく見る胡散臭そうなやつと同じで、あなたには負の空気が宿っていますので、近々不幸が訪れます的な。


 いや、それとは違う。



 たぶん負のオーラか何かなのかなぁ。

 それが何なのかはわからないけど、僕には見えるんだ。


 状態にすると、頭の周りをモヤモヤモヤっと黒い空気がまとわりついているような、そんな感じだ。

 発生当初はボワっといきなり現れたり、ジワジワ滲み出てきたり。


 強度に違いもあって、思いが強いほど靄は濃くなるみたい。

 本当に濃いときなんて、頭の周りがもう真っ黒。

 よく日に焼けた人なら、顔のパーツがわからなくなっちゃうほどだ。



 だからって、その靄が見えたことで僕にできることといえば、相談にのってあげることくらい。


 どんなことで困っているかなんてわからないから、とりあえず声をかけてみるけれど、お金の悩みなんて訊けないし、病気を治したり、もちろん死んだ人を生き返らせることもできない。

 声をかけた結果、気持ち悪がられたり、怒られたりもする。



 たまに辛いときもあるんだけど、黒い靄が出ている人の顔を見ると本当に辛そうな、寂しそうな顔をしている人は、やっぱり放っておけない。

 何にはニヤニヤしている人もいて、マゾなのって思いつつも、見なかったことにするけれど。



 それに悩みを解決した後の、靄がパァって散っていくのを見るとき、物凄い達成感に満ち溢れるんだ。

 本当にすごいんだよ。


 例えるなら、夜と見まがうほどの真っ暗な空で、しかも豪雨といった後に、パッと雲が散り虹がかかる、そんな感じ。

 だから解決後には、声を掛けてよかった、悩みが解消してよかったって心の底から思える。


 きっと僕が、この力を持たされたのはこのためだって。



 ……実は今までいいことばかり言ってきたけど、結構スルーもしている。


 さっきのニヤニヤした人は別として、すべての人の悩みを解決することなど僕にできるわけないのだし。

 身近なところで学校の抜き打ちテストなんかは、一斉に半数以上のクラスメイトから薄めの靄が放出しても、それは僕が解決することじゃないしね。

 判断基準は直感で、僕にできそうなことを選んでいる感じ。


 それが僕の不思議な力なんだ。



  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



プロローグ living



 僕はおじいちゃんの家に住んでいる。


 ここで家族構成を話しておきたい。

 共に暮らしているのはおじいちゃんとおばあちゃん、お母さん、僕、そして、叔父さんの政宗さん、叔母の真緒さん、従妹で同い年の双葉ちゃん。


 そう、僕の家は大家族なんだ。



 その大家族には、僕のお父さんが抜けているよね。

 お父さんは僕がまだお母さんのお腹の中にいるときに、亡くなったって訊いている。

 なんでもここから遠く離れた街で、お父さんとお母さんが出会い結婚したんだけど、結婚してから三年後に悪性の病気が発覚してすぐに亡くなったって。


 だから僕は、お父さんに会ったことはない。

 大家族であるがゆえに僕自身は寂しくはないのだけど、お母さんがたまに寂しそうな顔をして、嫉妬してしまう僕はマザコンか。

 お父さんは遺言として「自分が死んだら実家に帰るんだ。ここには絶対に戻ってくるんじゃないよ」と残したんだって。


 何のこっちゃ。



 だけどお母さんは、その言葉を守り、現在までそこには行っていないみたいだ。

 僕はお父さんを知らないわけだから、行けばいいのにって思ってしまう。

 いや、墓参りくらいは行けばいいんじゃない? と。


 お母さんは遺言を守り、頑なに行かないから、嫉妬の嵐な僕はマザコンだな。



 さておき、戻るところがなくなった僕達を、正確に言うとお母さんとお腹の中にいた僕を、この街で建設会社を経営していたおじいちゃんが、受け入れてくれた。

 そのおじいちゃんの会社というのは、街の建設やさんといった家族経営の会社だ。


 昔は従業員を住み込みで雇っていて、そこそこ大きい会社だったみたいなのに、仕事の量や過疎化の余波で規模を縮小していって、今はもう住み込みの人はいない。

 だから、お母さんもその会社で働いていて、僕と双葉ちゃん以外は会社の従業員なんだ。


 おじいちゃんは社長だけど。


 そんな環境のおかげか、部屋は十分にあって大家族のみんながみんな、一つづつ部屋を貰えている。

 建物は古いけどね。

 古いなんて家の中でボヤキようものなら、「嫌なら出て行け」っておじいちゃんにどやされるので訊かなかったことに。


 これで大体の、僕と僕の家族の説明は終わったかな。

 たぶん、余計なことは話していないと思う。


 それじゃ始めるね。



 最初は僕が五月のゴールデンウィーク明けに、自宅で朝、目覚めたところから……

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