5 村で生きる為に
お待たせしました。
日本に残された家族の話を先に上げるか、悩みましたが、ある程度こちらの話をしてからにします。
…まだ、しろくま先生は、名乗ってもいませんでしたね。(笑)
お医者さんの診察を受ける。
顔色を見て、脈を測る。
額に手を当てて、熱が無いか確認し、話をしながら、体調を診ているのだろう。
「今まで故郷のお医者さんに言われて、分かっている事は、ありますか?」
「……二年前に、内臓があまり良くなくて、大病をしたので、なるべく食べ物は、よく噛む様に、気を付けています。」
「……今、おいくつですかな? 」
「70です。」
「「ええええっ? ワシらと同じ位かと思っていたのに! 若い! 」」
いやいや、俺も、村長さん達と同じ位かと思っていたよ。
見かけが年寄り臭いと、失礼な事を考えたが、この世界には、化粧品の類は、そんなに無いのかも知れない。ある程度の手入れをしたり、白髪染めを使えば、今より多少若く見えるかも知れないのだから。
俺は、良いのだ! この銀髪が気に入っているし、『ロマンスグレーの紳士』と呼ばれる事を目指している!
……話を聞いていると、どうやら、俺は、この村の最年長らしい。年寄りはせいぜい、皆、50代後半から60代前半の様だ。
無理も無い。
昭和のテレビドラマのおじいさんは、大体五十代位だったのだ。多くの生物は、(恐らく人間以外、)生殖・子育てが終わるや否や、生涯を終える。
昔は、人もそうであったのだろう。
定年後の暮らしについての悩みは、現代の人間独特のものかも知れない。
人間の平均寿命は、年々伸びているが、それ故に老後の暮らしに悩む人間も、増えている。必ずしも良い事ばかりでは、無いのだが……。
……俺は、閃いた!
「ちょっとした、健康法がありましてね。それをやっていたので、大病しても、身体が治って、元気にしておりますよ。」
「「ええええっ? 」」
「そんなものが! 」
「あるのですか? 」
「あるんですよ。これが! 」
お医者さんは、目をカッ!と見開き、村長さんは、信じられないと驚いている。
少しばかり、ハッタリの様な気もするが、仕方が無い。
この村にどれくらい滞在出来るのか、分からない。
空き家を使わせてもらえるらしいが、暮らすには、物が要る。
この世界の貨幣も持っていないのだから、どうやって日々の糧を得るか、どうやって生き残るか、考えなければならない。
運転免許を始め、色々な資格を取ったが、今すぐに利用出来るのは、これしか無さそうだ。
「私は、空手道という、……健康法の教師なのですよ。」
……嘘では無い。
とある空手道連盟と自分の流派の段位を持っている。
れっきとした、黒帯持ちで、師範の資格を持っているのだ。
それに、全くのハッタリでも無い。
調べてもらえれば分かる事だが、空手の偉い先生は、大概長生きで、俺など、この年で、やっと年長者として扱ってもらえているくらいだ。
しっかりとしたエビデンスこそ無いが、空手が長寿の可能性に、結び付いている事が、お分かりだろう。
因みに、昔、還暦になった時に、
「いやー、先生方、私も60になりました、もうトシですね。」
って言ったら、
「君! 嫌味かね? 何を言ってるのかな? 先はまだ長いぞ! 」
って、笑いながら叱られたからね。
まずい! ワシ、この人達の年齢忘れてた! って、慌ててごまかしながら、謝ったからね。
優しい先生達が集まっていたから、それ以上言われなかったけどね。
……まあ、若い時みたいには、動けないし、無理したらケガするから、稽古の仕方には、工夫が必要だ。
しかし、放っておけば、加齢に伴って、筋肉量は減るし、柔軟性も無くなる。
アンチエイジングに、食事や睡眠、マッサージや化粧品の効果があることは、良く知られているが、ほどほどに身体を動かすのも、良いんだよね。
スマホ首のあなた!
パソコンの前のあなた!
肩と首を回して、腕を挙げて背伸びをしよう!
少しの運動が、明日のあなたの身体を楽にするよ!
……俺は、誰に話してるんだ?
運動は無理無く、お身体の具合に合わせて、行って下さいね。