2 始まりの村
同時に複数の人達が話す時の、会話の書き分けが、難しいですね。
今までに無い悩みです。
話は、1年前に遡る。
私の70歳の誕生日の日に、妻とレストランへ食事に行った後、自宅に帰宅した。
すると、妻が誕生日ケーキを買っておいてくれて、お祝いをしようと言ってくれた。
ハッピーバースデーの歌の後、ケーキに立ててくれた、7本のロウソクを吹き消して、それから視界が明るくなったと思ったら、知らない場所に寝て居たのだ。
何の冗談かと思った。
「あっ! おじいさんが起きたよっ! 」
「じいさん! 大丈夫か? 」
「おじいちゃん! しっかり! 」
……どうやら、俺に言ってるらしい。
まったく! 人を年寄り扱いして! 孫にも、じじいと呼ばせた事は、無いのに! と、思ったのだが、よく考えたら、今日は70歳の誕生日。
21世紀の日本じゃ、立派な後期高齢者で年金を支給されている。
おまけに、髪は、白髪混じりで染めていない。我ながら良い銀髪具合だ。
……あくまでも、銀髪だ。白髪とは言わないで欲しい。
ダンディーな、ロマンスグレーを、目指しているぜ!
……ところで、ここはどこなんだろう?
「すみません、お助け頂いた様で。ここは、どこの病院ですか?」
「ちょいとおじいさん! 一体何を言ってんだい! こんな小さな村に、そんなもの有るわけないだろう? あたし達の家だよ。」
「……はい? 」
「大丈夫かな? ボケちまってるのかな? 」
「でも、貴族さまみたいな、お洋服を着てるし……。おじいちゃん、えらい人かもよ? 」
「「ええっ!」」
実はこの時、妻とレストランデートのすぐ後だったので、服は、スーツのままだったのだ。我々団塊世代は、外出時は、お洒落をするものと、相場が決まっているのだ。……多分ね。
ま、相場はともかく、この時、妻が
「あなたは、これが似合うわ。」
と、選んでくれた、組み合わせを着ていた。
白いシャツ。
黄色いネクタイ。
薄い灰色のダブルのスーツ。
これらは、髪の色と相まって、自他共に認める一張羅であったのだ。
「あのー、申し訳ありませんが、状況が把握できないもので、……この場所と私を見つけて下さった時の事を、教えて下さるとありがたいのですが。」
上着のボタンの位置が、分からなかったのだろう。
上着を着たまま、寝かせられていた。
上着を脱ぎながら、そう言うと、小学校低学年くらいの女の子が、受け取って、側に有った木製の椅子の背もたれに、かけてくれる。
ありがとうと言いながら、預けた。
気働きの出来る、利発そうな子だと思う。
「やっぱり、外国人だったら、まずいかな? 」
「ねえ……。お役人に届けるかい? 」
「とーさん! かーさん! ちょっとだまってて! 」
「おう。」
「おじいちゃん、あのね、ここは、プティー村だよ! 」
ぷち……何だって?
完全に外国の名前だ。
レモンティーだか、ミルクティーだか知らないが、どこの国の名前なんだ?
「あー、国の名前は、分かるかな? 」
「デニッシュランド国だよ! 」
……クロワッサンが、美味しそうな国の名前だね!
フィンランドじゃないの?
グリーンランドじゃないの??
ディズニーランドじゃないの???
どういう事だ?
何の冗談だ?
「聞いた事が無いな……。」
「おじいちゃんはね、村の外れの、道のそばでね、倒れてたの。それでね、それでね、遊んでたサニーがね、とーさんに頼んで、おうちに連れてきてもらったの。うんとね、うんとね、かーさんが困ったらお互いさまって、いつも言っているの! だから、サニーは、とーさんと、かーさんに助けなきゃって言ったの! 」
俺の呟きに負けずに、状況を説明してくれる。
愛らしい子供に、両親らしい二人は、困惑しつつも、言われるまま、黙っている。
孫と同じ位の年の子だろうか。
俺の、3人の孫の面影を重ねてしまう。
「えー、サニーちゃんって言うんだね。どうもありがとう。ご両親もありがとうございます。お陰様で助かりました。あの、お願いばかりで恐縮ですが、この国の地図など拝見できますか? 」
「は、はいけ? あー、地図が見たいって事だよね? ポールさんちには、地図があったよねえ? 元冒険者だし。ねえ、あんた。」
「ポールの奴は、隣んちだよ。俺が借りてくるよ。」
「すみませんね。お願いします。」
歩き出した父親の後ろ姿を、見送るともなく見送ると、気になる事があったが、見なかったふりをする。
いや! おかしいぞ?
何だあの服は?
いや、父親も、母親も、子供も!
まるで、何世紀も昔のヨーロッパの様な。
子供の頃に読んだ、童話の挿し絵の様な。
……これは、慎重にならざるを得ないだろう。うかつな事を言ったりしたりは、出来ない。
俺は、こっそり右手首に視線をやる。
自動巻きで、数年前にメンテナンスに出した、腕時計。
無くしていなかった事に、安堵する。
時間の遅れは、無い。
誕生日当日にして、妻と自宅に居た時間から、一時間しか経っていない。
サニーちゃんに聞くと、
「かーさんがシチューを作る前に、見つけて、出来上がった時に目を覚ましたよ。」
と言う。
俺が、一時間前に、ここに来たのなら、納得は行く。
……どうやって?
母親が冷たい水を、木のカップに入れてくれた。
それを、飲みながら、母子の会話を聞きながら、父親を待つ。
そして、父親が、10分後に地図を手に、戻ってきたのだ。
それを見た。
俺は。
……心臓発作を起こした。
ありがとうございます。
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